第43話 もっと近づいて

「前もこんな状況になったことありましたよね」

「うん、今回は私から誘ったけどね」

「実は私、あの時ちょっとガッカリしてたんです」

「何にガッカリしたの?」

「温かみを感じさせてあげる~などの言葉を並べておきながら行動では手を握るだけだなんて。本心を出させるために焦らしているのかと深読みしてしまいましたよ」


 時雨がここまで私に思いをぶつけてきたのはこれが初めてな気がする。


「時雨……。ごめーーーーん!」

「ふぇっ!?」

「じゃあ今度こそ温かみいっぱいあげるね!」


 先ほどまでよりも強く時雨を抱き締める。そしてさらに体をくっつける。


「これは……心身共にとても温かいです」

「それなら良かった」


「何か言いたげな顔ですね」

「……」

「今なら何言われても折れない自信があるので何でもどうぞ」


「時雨って結構ツンデレ?」

「……そんなにツンツンしてますか?」

「デレの方は否定しないんだね」

「現在進行形でデレてますし」


「別にそこまでツンツンはしてない……かもしれないけどなんというか……ちょっとドライ?」

「そんなつもりは無かったんですけどね」

「愛情を十分に貰ってないからそんな風に接するのが時雨のなかでは普通になってたんじゃないかな」


「あなたと一緒にいればあなたみたいに優しくなれますか?」

「私がいっぱい愛情あげるから絶対優しくなれる」

「私も優しくなれるように頑張ります」


 時雨との会話も一段落ついたのでこれから時雨と共に私の部屋に戻る。

今日はテストも終わって、未提出の課題も無い全てのしがらみから解放される日。


「また前みたいにゲームやらない?」

「いいですね。今日やるのはどのゲームにするんですか?」

「今日はこの格闘ゲームとかやっちゃおっか」

「はい、やっちゃいましょう」


 時雨が良い笑顔をしている。さっきのでより心の距離が縮まったみたいだ。これなら他の誰かに気が向いているかもという心配もいらない。


 とりあえずの目標は時雨とキスをすることに設定している。この調子なら夏休み中にでも目標が達成できそうだ。


「私はこの柔道着のおじさんにしようかな」

「なら私は同じく柔道着で金髪のおじさん……お兄さん? にします」


「操作方法はここで確認できるからここ見てからやったほうがいいね」

「指5本ずつで足りるんですかね」


「ずっとジャブ打ってるよ」

「ジャブは格闘の基本です」


「ていやー!(必殺技を打つ)」

「そのかっこいいのどうやるんですか!?」

「さっきの操作ガイドちゃんと見た?」

「さすがに覚えきれませんよあなたじゃないんですから」

「まあゆっくり覚えていけばいいかな」




「もうそろそろ食事の時間ですね」

「すっごく楽しかった~」

「そうですね。私も幸せな時間を過ごせました」








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