第27話 はぐれないように
ショッピングモールは屋敷から徒歩で2~30分ほどで到着する。
もう少し時間を送らせて誰かに送ってもらえば良いと私は思っていたが、西園寺さんはこうして2人で歩きながら話す時間が楽しいから歩いて行きたいと主張したので私はそれに従った。
「もう後ちょっとで着くね」
「もう目の前に見えてますからね」
「そういえば、時雨って特技とかあるの?」
「特技と言えるほど秀でたものはありませんね」
「何でもできるからなのかな?」
「それは西園寺さんだけです」
「最初はどこ行く?」
「そうですね、服でも見るのが良いんじゃないでしょうか」
「時雨に似合う服探しちゃおっと」
「自分の服は必要無いんですか?」
「いっぱい持ってるから別にいいかな」
ショッピングモールの敷地内へ入り、駐車場の横断歩道を移動し、やっと店内に入る時がやってきた。
「服屋は1階にも2階にもありますね」
「大きいショッピングモールって服屋いっぱいあってどこで買えば良いのかよく分からないよね」
「あるあるですね」
今日は休日なのでそれなりに人の数も多い。
家族連れ、カップル、はたまた1人で。たくさんの人が行き交っている。
「エスカレーター乗るよー」
「はい」
私は身長が平均以下なので人混みに紛れてしまうと西園寺さんからも見えないし、私からも西園寺さんが見えなくなってしまう。
お互いスマホで連絡をとることができるので迷子になる心配は無いが、1人になるのはやはり心細い。
せっかくの楽しいデートなのにそんな嫌な思い出を残したくない。
西園寺さんとはぐれないように意識しておかなければならない。
「時雨はエスカレーター乗る時に両方の手すり持つんだね」
「怖いじゃないですか」
「そう?」
「私は1度頭から落ちたことがあるので少しトラウマになっているんです」
私がそういうと西園寺さんは無言で左側の手すりを持った。
自分が落ちた時のことが頭によぎって少し恐ろしくなったようだ。
「服屋は確か向こうでしたよね」
「そうだね」
服屋の方へ向かって歩いていこうとした時、後ろから西園寺さんに左手を握られた。
「いきなり何のつもりですか?」
「これならはぐれないし、デートの雰囲気も出て良いじゃん」
私には特に拒否する理由も無かったのでそのまま手を繋いで移動することにした。
そのままの流れで私が左、西園寺さんが右で歩き始めたが、普段は私が左を歩いているので少し違和感を感じた。
エスコートするときはする側が左を歩くとどこかで見たので私はいつも左側を陣取っている。
とはいえ、それはカップルの男性が道路側を歩くというものとあまり変わらない。
つまりこのような状況では特に意識する必要も無い。自然な流れに従う方が合理的だ。
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