雷光
メーテウスが森の奥へ行き、アデムとダインはすでに、村へと帰路についていた。
村までの道中は、何の脅威もなく歩が止まることないまま着いてしまったので、夕方にもなってない。
精肉所に預けていた肉も取りに行って、両手に肩に獲物をひっさげ、ゆっくりと自宅に向かう。
家にたどり着くと、ソフィアが外で洗濯物を取り込んでいるのが見えた。
「あら?ずいぶん早かったわね。…にしても、すごい大量だこと!」
「メーテウスがいたからなー、さくさく狩れたぜ!」
「…凄かったです」
アデムの圧倒されてる反応にコロコロと笑うソフィアがダインのはしゃぎように何かを悟る。
「あらあら、2人してアデム君に見せつけようとしたのね。メーテウスさんが、そうするのは珍しいけども」
「いい生徒を見つけたってさ…」
「相当気に入ったのねー」
2人して苦笑していた。だが、すぐにそのメーテウスがいないことに気づく。
「メーテウスさんは、どこにいったの?ご自分の家?」
「いや、森の奥。なんか、気になることがあるんだってさ。夕飯には誘ったぜ」
「あらそう…無事だといいけど…。さ、2人ともとりあえず、そのお肉たちを台所に持ってて?」
「おう」
「わかりました」
台所に肉を置いて、ソフィアはそのまま下処理に移る。
手伝おうとしたが、ダインに連れられて外に連れて行かれてしまう。
そういえば帰る道中に、ダインが記憶を取り戻す一貫として剣の稽古をつける話になっていたのだ。
家の前の少し開けたところで、数メートル離れて向き合う二人。
「さ、アデム。始めようか」
「よろしくお願いします!」
「お、良い、意気だ。よし、今回は初めてだからな。好きなように打ってこい!」
ダインが右手で木剣を正眼に構える。アデムも同じように両手で構える。
「ふむ…(やはり構えは、隙がないように見えるんだよな。ここから先がどうだ…?)」
「はあっ!」
「…ふん!」
気合いの声と共に、アデムが右から左へそこまで早くない大きな横なぎを放つも、半歩下がってかち上げられ、難なくいなされる。
「(動きは、そうでもないな。不思議な奴だ。)そら、どうした!まだいけるだろ!かかってこい!」
「はい!はああ!」
ただ、がむしゃらに上下左右に木剣を振い続け、ダインの体制を崩そうと奮闘するも、ダインの体幹は一向に崩れない。
「はあ…はあ…。戦ってきているのに、すごい、スタミナですね…」
「ま、今日はメーテウスがいたからな。余裕さ」
「自分の体力のなさに、不甲斐ないばかりです…」
「そう自分を卑下するな。初めて剣を振るうのだからそうなるのは当然だ。それより、手を動かせアデム!」
「はい…!うおおおおお!!」
「そうだ!来い!」
アデムの体重が乗っていない攻撃がダインを襲うが、ダインは一歩も動かずにいなす。体が地に根を張っているかのようにブレない。
アデムの技量を見極めるためか、はたまた避ける必要がないのか。アデムにはわからない。
このままではジリ貧だと感じたアデムは、木剣を地面から擦り上げるようにして振るい、目眩し目的でダインの目にかけるように放つ。
だが間一髪で左腕を盾にして防ぐ。
「…っ!!あぶな!!粋な真似をしてくれるな!」
「これで、どうだ!!」
大ぶりの動きを繰り返して、体力に余裕がなくなってるせいか、口調が荒くなる。
まだ左腕で防いでいるダインの腹に目掛けて、今の体勢から繰り出す速度の早い突きを、体の中心めがけて見舞う。
だが、一歩左足を突きの射程から少し外れるように下げて、右からの軽い払いで木剣の腹を叩く。
木剣にあらぬ方向に力が加わり、抑えきれずに地面に転がるアデム。
肌が少し擦れて痛いが、気にせず立ち上がる。
「これも…だめか…!!」
「へへっ!今のは良かったな!過程はどうあれ勝ちにいく意欲は大事だからな。
しかし、荒っぽいアデムもいいな…。普段から、そういう口調にしない?」
「考えとく…」
木剣をくるくると回しながら、弁舌になるダイン。
余裕の表れか、まったくアデムの攻撃を意に返さない。
対して慣れない動きで体が遅々としており、思考が途切れつつある。
なんとかして、一矢報いたい。
目眩しがダメとなると今のアデムの技量では、ダインに勝つことは不可能だ。
あとはもう自分の持っている技能しかないが…
四属性の魔法か…?
いや、どう扱うかもわからないものは十中八九できないだろう。
となると、昨日発現できた光球。
あれをどうにか、攻撃に転化するしかない。
そう決めたアデムの行動は早かった。
再度、地面に木剣を擦らせるような予備動作に、ダインはわざとらしくため息をあげ、呆れている。
「アデム。俺もバカじゃないから、2度も同じことは通用しないぜ?魔法でもなんでも使って良いから、足掻いてみろ!」
「元からそのつもりだ!」
ダインの激励に突っかかるように、先ほどと同じように繰り出す。
「今度はその砂塵ごと、切り裂いてやるよ!」
ダインは木剣に水を迸らせ、それを薄くして纏わせる。…砂塵を晴らす目的で、衝撃重視の構成だ。
先程より、悠長に出来ない。もしかしたら、攻撃が間に合わないかもしれない。
千切れそうな思考を冷静に、アデムは切り上げた木剣の剣先を力の流れに逆らわないよう円を描くように動かして迎撃しようと構える。
その最中、必死にあの光球を攻撃の形にすべく今まで見てきたもの、蓄えてきたものを総動員する。
ただ、纏わせるだけではだめだ。
相手の攻撃よりも早く、そして鋭く。
一撃の元にねじ伏せられるだけの力を持ったものでなければならない。
自分の心奥の向こう側にある魔力体から、魔力を引き出し心臓、肩、腕へと届ける。
あの光を早く、鋭く、そして力強く。
暖かな光は、木剣に行くにつれ次第に形を変化させ、——根が地中で広がるように——細く分かれていき、まとわりつく。
思念の如き言霊は雷と成りて、現れる。
ダインが横なぐように砂塵をひとまとめに弾き飛ばし、奥にいるであろうアデムに向かって、魔法を解除して返す刀で上段から剣をはたき落とそうとしていた。
だが、視界が晴れたダインの目に移った稲妻の光に、信じられないものを見るような目で驚く。
「なっ…!!おもしれぇ…押し切る!!」
つい、容赦は要らぬと相手の剣を叩き折らんと、解きかけていた水の膜を片刃に収束させ、切れ味特化に切り替える。
雷へと変貌した光が、アデムの膂力を後押しするように剣速を上げ、ダインの木剣めがけて振り抜く。
スラリと頭に浮かんだ言葉と共に雷光が走る。
「——光よ、
閃光、そして轟音。
目前で起こった轟音が、聴覚を刺す。
ダインが振り切るより早く、アデムの木剣が
それに留まらず、断ち切った木剣のところから雷光が炸裂し、その余波で大きく吹っ飛ぶダイン。
「っな…!!うおあああああ!!」
予想だにしなかった衝撃に声を上げて、背中から地面に叩きつけられる。
轟音は次第に鳴りを潜め、キーンと言う甲高い耳鳴りが治りつつある。
アデムは、前傾姿勢で振り切ったまま荒い息を上げ、自分がしでかした事なのに驚きで固まっていた。
木剣から焼けるようなバチバチとした音が妙に耳に残る。
我に返るようにダインに近づく。
「はあ…はあ…ダイン!大丈夫か!?」
口調もそのままに、ダインの上体を支え起こす。
「大丈夫だ。少し痺れてるが怪我はない…。
しかし、なんだありゃ!びっくりしたぞ!すごいなアデム!あんなこと出来たのか!」
「あああ…。脳が揺れる…!」
自分がやられそうになったのすらいざ知らず、興奮するようにアデムに言葉を畳みかけながら両肩を掴み、前後に激しく揺する。
ダインの興奮がいまだ冷めない中、後ろから誰かが近づいてくる。
「凄い音したけど、大丈夫!?…って大丈夫?主にアデム君が」
ダインに揺さぶられてるアデムを見て、状況が掴めないような様子で心配をかけながらダインに近づき、引き剥がす。
「こら、ダイン!アデム君困ってるのわからないの!?いいから離しなさい!」
「お!ソフィア!?良いとこに!アデムが凄いことしたんだよ!見たこともない魔法で——!」
ダインがアデムのしたことを矢継ぎ早に話しし始め、先の轟音の訳を知る。
ソフィアの顔が話を聞くにつれ、穏やかな顔が鳴りを潜め、それは頭角を現す。、
「…アデムくんが凄いのはよくわかったわ。
それよりも…あなた?
剣を扱うのが初めてかもしれないアデム君に本気になったのね?」
夕日が沈みかけ、微かに冷えていた外気が一気に熱を増す。
さっきまでの余韻に浸っていたアデムも、アデムの凄さに興奮してたダインも一瞬で目が覚める。
なぜだろう、はっきりと炎のような光がちらついてるのが見える…
「えっと、その、あの」
「本気で、水魔法使ってアデム君に攻撃したのね?」
「…………はい、つい、アデムが抗ってくるのを見てやってしまいました」
「…そうなの。うふふ…♪そうなのね?」
先程の勇ましさが嘘のように、縮こまっているダイン。ガクブルと震えている。
アデムも足が震えて、その場から動けない。
するとソフィアが、手の平を高く上げ紡ぎ出し、巨大な火球が形成されてゆく。
「
「はっ!?ちょっ…待っ…!!落ち着け
…ソフィア!、いくら俺でも死ぬ!話を聞けーー!」
「この後に聞くわ!!」
「じゃあせめて手加減してぇーー!!」
ダインの断末魔が村中に響き渡る。
先程の轟音よりもさらに大きい破砕音を村中に轟かせながら、訓練の終わりは突然に告げる。
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