先触れ

 村の精肉所に獲物を引き渡して、門前に程近い定食屋にて、ダインたちは食事をとっていた。

 出された大量の食事をモリモリ食べて、頬を膨らませているダインに少し吹き出しそうになる。

 メーテウスもダインと変わらない勢いで食べすすめてる。

 あっと思い出したように食事の手を止めるダイン。


「そーいえば、アデムの属性ってなんだろーな。

 昨日の光の謎もなんかわかんじゃねーか?」

「あー…、あれですか。そもそも魔法なんですかね?」

「さあ?メーテウスなら知ってるんじゃね?」

「なるほど…」


 二人してくりっと首を向けて、メーテウスに視線を向ける。


「いやいや、何のことだ。光とは?まずそこからだろう?」

「そうだった…、メーテウスならなんでも知ってるからなー」

「買い被り過ぎた。で?」

「えっとな…」


 ダインは昨日アデムが起こった出来事を簡潔にぺららっと話した。

 メーテウスは、何やらてを顎に当て何か考え込んでる。


「メーテウス?どうだ、何かわかるか?」

「…ふむ。とりあえず調べてみようか。アデム。こっちに来て、背中を向けなさい」

「わかりました」


 メーテウスの隣に来て、背中を向ける。

 アデムの準備が整うと、メーテウスの手持ちから、紋様がびっしりと描かれた手袋を嵌める。

 ダインが興味深く注視してる。


「ほー、メーテウスそれは?」

「これは…まあ簡単に言えば魔力体に干渉して目に見えてるものからわからない異常を確かめるための代物だな。

 本当は別の目的で持ってきたんだが、属性がわかるだけならこれでも転用できる」

「はぇー、ほんと色々作るよなー流石だよ。魔道具だっけ?帝国の元従事者は多才な奴しかいないのか?」

「私なんてまだまださ。それに私は帝国を逃げ出したのも同じような感じだ。彼らには敵うまいよ。

 あと、魔道具に関しては私が考え編み出したものだ。ここ以外にはないよ」

「…メーテウス?それは充分イカれてるからな?やっぱ次元が高いんだよなー帝国の人って」

「…ですね。そんな簡単に新しい物は出来ないと思いますよ?素人目でもわかります」

「……そうか」


 納得いかない顔をしつつも、アデムの両肩を掴み、甲高い音が手袋の甲に嵌められた丸い透明な石から鳴る。


「さて、いくぞ。アデム。

 目を閉じて眠るように、しかし意識は保つように。自分の心奥に意識を向け、その先にあるものを取り出すイメージを描くんだ。

 これは、魔法を行使する上で必要なものだ。覚えておくと良い。


 いきなりは出来ないと思うから補助として、私の風の魔力を全属性に変換して君の体に送り込む。

 少しくすぐったい感じはするかもだが、取り出すイメージを強く保て」

「はい…お願いします」

 

 緊張で肩が上がるのを必死に抑え、呼吸を整えて、目を閉じる。

 

 暗闇も一瞬に、赤や緑、青、橙色の筋が視界の端によぎる感覚をとらえる。

 どの色の筋も柔らかくアデムにまとわりつき、導かれるようにさらに奥へ意識を傾ける。


 やがて、白金色の光点が視界の中央にポツンと現れ徐々に大きくなっていき、筋となってまとわりつく。


 五色の筋は、お互いを排せずされど譲り合うようにアダムの体をかけめぐる。

 だが、白金色以外の色が急に溶けて消える。


 そんな光景を永遠のように繰り返していたが、ふと現実に引き戻される。


「……アデム。目を開けて良いぞ、魔力感知が出来るとは思わなかったが…それよりも…だ」


 目を開けると、精一杯目を見開いたメーテウスと目が合う。


「あの…?」

「ああ、すまない。少々意識がどこかへいっていたよ。アデム。君の属性は四属性全部だ」

「それって凄いんですか?」

「凄いなんて言葉で片付けてられないぞ…二属性持ちは総人口の一割だ。3属性はさらにその四分の一。全属性なんてのはもう、人生に一人会えれば良い方なくらい、いない」

「…それは凄まじいですね」

「…アデムすげぇな」

「だが、妙だ」

「妙?」

「ああ」


 解決したはずなのに、腑に落ちないメーテウスに首を傾げるダイン。


「属性に適正があるとその属性を纏った魔力同士で結びつくのだが、結びついたそばから、切り落とされるような拒絶されるようなそんな感覚が走ったんだ。普段はそんなこと起こらないのだが……何を表してる?」

「いや、わからんよ」


 ダインのツッコミに、こくこくと頷くアデム。

 あれ?とアデムは属性は四つだった。五つ目の白金色のやつはなんだろう…


「メーテウスさん。白金色の属性ってなんですか?さっきまでは赤と青、緑、橙は見えたのですが…」

「白金色?私には見えなかったぞ?見間違えじゃないのか?後の四色は、それぞれ火、水、風土に対応してるからそれは見えたな」

「んー…そうですか。すみません、勘違いだったかもです」

「…そうか、ふむ」


 メーテウスは、そう答えたきり黙りこくってしまう。

 アデムも同じように黙りこくってしまう。

 思考に耽ってしまった二人に、我慢出来なかったのか、少々声を張るダイン。


「おーい、二人とも?

 とりあえず結果はわかったんなら、狩り再開するぞー?考え事は、終わったあとにしよーぜー?」

「そうだな。結局、昨日見たという光の手がかりも掴めなかったしな。すまないアデム」

「いえ、全属性に適正があるって分かっただけ儲け物です。ありがとうございます」

「そうか。お詫びといってはなんだが、魔力感知からの魔法の行使の仕方を教えよう。

 全属性なら、出来ることが多大だ。きっと損はさせないぞ?」

「それは是非に。感知は、どうやるんですか?さっきのやり方と言ってましたが自分自身の力でやるにはどうすれば?」

「そうだな。まずは、魔力体がどういう場所に存在するかの説明に——」

「あああ!もう!時間なくなるから行くぞ!ほら!立つ!そして門まで行く!早く!」


 魔法に対して花を咲かせようとしてる二人に

声を荒げるダイン。

 二人は、顔を見合わせて吹き出す。


「アデム。講義は今日を無事に終わった後だな。駄々っ子が難しい話には我慢ならんようだからな。急ぐとしよう」

「ああん!?誰が駄々っ子じゃ!」

「…あはは、そのときはお願いしますねー」


 メーテウスとダインのじゃれあいを尻目に抑揚のない声で応えつつ、一同は再度森の中へと歩を進める。

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