例外

 ダインの元へといくと、何やらミストラビットに対して処置を施してるのが遠目から伺える。


「うむ、それを見ると脳筋なのが勿体なく感じてくるよ。やはり、ちゃんと勉強しないか?ダイン」

「嫌だよ。剣振ってる方が楽しいし、これは便利だし、たまたま水が適性だし使えるからやってるだけだ」


 2人の会話が気になって、ダインの手元に視線を落とすと、ミストラビットの血抜きをしていた。

 青色の光を纏った血液が次々と首元から出てくるのは、なんとも奇怪だと思ってしまった。


「これも魔法なんですか?メーテウスさん」

「そうなんだが、これに関しては少々特殊でな。

 特殊な点として、詠唱を必要としないのが最たるものかな。

 あとこれが起こるのは人限定。

 本来、言葉を世界に対して認知させないことには、いくら魔力体を認知してようが、引き出せないんだ。これは人の魔力体の特異さが関係している。

 人の魔力体は、高次元において重なり合っていないとされている。わずかに離れているんだ。この差は『自己意識の差』とされていて、この差が極めて近い——魔力体と本来の体の精神的距離が近い——ものがいるんだ。

 そういう人達は、『自己意識』を言葉の代わりとして、魔力を自分の手足の延長線上みたいな扱いで使えることができるんだ。まだ、これに関してはわからなことだらけなんだ。すまない」

「いえ、そんな。…えと、ダインさんが今やってるのは詠唱の過程を意識ですっ飛ばして、対象に自分の魔力を干渉させて魔法を起こしているんですか?」

「そうなるな…うむ、本当理解が早くていいな」


 さらっととんでもないことをやってないだろうか…

 改めて、ダインの凄さの一端を知ったような気がする。

 

「よーし!三匹とも、血抜き終わりー!2人とも待たせたな」

「お疲れ様です。ダインさん」

「なに、全然疲れてないからへっちゃらだぜ!」


 腕をブンブン回しながら、アデムに笑いかける。

 その様子に肩をすくめながら、森のある方向を指差すメーテウス。


「まだ何匹か狩るのだろう?」

「そーだなー、あっちにも同じの何匹かいるし、行ってくるかな」

「…そうか。では行ってこい。——風よ、重ね願う。彼の者に静寂を」

「ん!サンキュー!じゃっ行ってくる!」

「ああ」


 ダインは、音もなくその場からある方向へと向かっていった。

 …今、探知の魔法使っていたか?なんで居場所がわかるのだろう。

 血抜きし終えたミストラビットを持ち運びしやすいように、縛っているメーテウスに声をこける


「メーテウスさん…今、ダインさん探知の魔法使ってましたか?」

「ん?ああ…確かに使ってないぞ」

「では、どうして…?」

「ふふふ、まあ歩きながら話そうか」

「はい」


 メーテウスがダインが向かった先に歩みながら、遅れて隣をついて歩く。


「さて、ダインが探知の魔法を使ってないってのは半分当たってはいるな」

「半分…?じゃあ、何かを感知してはいるのですか?」

「そうだ。ダインは先程の説明で、他人に比べ、魔力体がより密接になってると言ったな。

 その話の続きで、より密接になればなるほど、自身が適正のある属性によって自分の外から伝わる情報や魔法の発生速度、練度。

 様々な恩恵が得られるんだ

 ダインの感知もそれのおかげさ。さて、ダインは水属性に適正があって、どんな風に獲物感知してるんだと思う?

 彼は、流れている音が聞こえるらしい」

「流れる音…?」


 メーテウスの挑戦的な笑みに、視線を逸らして思考に集中する。

 水で流れる…生物の中で流れるもの…?

 あっと声にならない気づきと共に、目を合わせる。


「血液…体内に流れる血液で判断してるのですか?」

「うむ。正解だ。さらには、ダインは流れる音の違いから、どんな生物かもだいたい分かるらしい」

「…それってすごいことですよね?」

「ああ、探知魔法の存在意義が見いだせなくなるくらいにはな。

 私もダインのその性質を知ったときは、自分の魔力体の親和性のなさを呪ったよ。…まったく」

「…ははは」


 メーテウスが虚空を眺めて、遠い目をしてるのをただ乾いた笑いしか浮かべられない。

 ダインは、魔法を使わないと言ってたし、よっぽどショックなのだろうな。


 メーテウスになんとも言えない同情じみた感情を向けてると、前方の茂みが揺れダインが姿を現す。

 右肩には、すでに血抜きを終えた獲物を担いでいる。

 今のこの微妙な空気をそぐわない、爽快な笑顔をメーテウスに浮かべてくる。


「遅かったな!こっちでちゃちゃっと狩っちまったぜ?

 アデムと話し込んでたのか?」

「…まあな。良き生徒に恵まれたものでね。つい、熱が入ってるよ」

「そうかぁそうか。やっぱお前に頼んで正解だったな!

 俺じゃあどうしても限界があるからよ。やっぱ魔法とかに関しちゃお前が1番だからな!助かるよ」

「…そうかい。ふふふっ、まったく」

「?」


 ダインの信頼の高さに、メーテウスは先の思考が馬鹿らしくなったのか、少し揶揄するような、しかしてそんなつもりがない柔らかい声音を向ける。

 ダインはそんなメーテウスに依然首を傾げているが…。


「さて、そろそろボアを狩りにいくとして一旦村の精肉所まで行くか。良いよなメーテウス?」

「ああ、構わん。このままでも行けるが、今回は安全第一だからな。万全でゆこう」

「よっしゃ!んじゃ小休憩がてら村まで戻るか!いくぞーアデム!ついでにこれ持ってくれ!」

「あ、はい!わわっ!…あぶな…」


 ダインからぽいっと投げ渡された獲物を慌てて掴み、その背中を追いかける。

 メーテウスがアデムの隣に追いつき、一同は村へと向かう。

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