狩りへ
「お前は、こう、どうしていつも突発的なんだ…全く」
「なはは!それほどでも!」
「褒めてないぞ」
メーテウスがダインに気安く冗談を吐き、ダインがなんの気負いもなく受け応えている。
二人は相当仲がいいのだろう。
ソフィアが、ダインに近づいて腕をつねりながら、メーテウスに話しかける。
「いつも旦那がごめんなさいね、メーテウスさん。計画性持ってやるように言ってるんだけど
なかなか治らなくてー」
「気にしないでくれ、ソフィア嬢。ダインのこのくせは、たぶん治らんだろうからな。私は気にしてない。それに、こちらもこちらで助かってる部分もある」
「そう言ってくれると、助かります。あ、また便利アイテムの試作ありましたら、こちらに回してくださいね?
いくらでも、感想言いますね!」
「助かります。こちらも手を借りる時があるかもしれないのでその時はよろしく頼みます」
「ええ!任せてくださいな!」
「…あの、お二人さん?俺のこと忘れてないよね?ていうか、ソフィア痛いんだが…?」
「気のせいよー」
二人して息をするようにダインをいじり倒してる。
仲が良いのだろうな。少し羨ましい気持ちになってしまう。
しかし、件のメーテウス。アデムのイメージでは、職人気質であまり外で体を動かすことがないと思っていた。
だが、体の節々から垣間見える筋肉のつき方から、それが違うとわかる。
メーテウスが、こちらをチラッとみて、ダインに促す。
「それで?後ろの青年が件の青年か?紹介してくれ、ダイン」
「ああ、名前は、アデム。3日前くらいに森で倒れてるのを保護したんだ。
さっきも言ったが記憶喪失で、自分の名前以外わからないからしばらくここで暮らして、記憶を戻す手がかりを探そうってなったんだ」
「初めまして、メーテウスさん。アデム・モナークです。よろしくお願いいたします」
「……メーテウス・ウィズダだ。よろしく頼む」
軽く握手を組み交わし、顎に手を当てアデムの目をまじまじと見る。
何か気になることでもあるのだろうか。
「ふむ、名字持ちでしかも『モナーク』…君、本当に記憶喪失かね?」
「はい、そうですが…。あの、何かあったでしょうか?」
「そうだぞ、メーテウス。そんな、責め立てるような言い方したら、アデムが可哀想だろ?」
「ダインー?人のこと言えないからねー?」
ぎゅーと、腕をまた抓りながら、ダインを嗜める。
ダインが痛がってるのを、気にする余裕もなく体を固くしながらメーテウスに視線を外さない。
眉間に僅かに皺を寄せていたメーテウスは、少し息を吐き謝罪する。
「いや、すまない。その名は、帝国で有名なお方の名字だったものでね。私も、元々貴族出身で帝国に仕えてた身だからね。知っていたんだよ」
「へぇー、誰なんだよ?」
「皇帝陛下様だ」
しんと静まり返る。
ダインとソフィアが、驚いた目でこっちを見る。
こちらに向かれても困るのですが…?
ふと、ダインが待てよと疑問を呈する。
「いや、おかしいだろメーテウス。皇帝陛下の名前って、『アーダムス・ルーラー』だろ?
それは村の中でも誰でも知ってることだぜ?」
「そうねー。私もそう聞いてるわ」
「そうだな。だがそれは仕事中の名前、つまり皇帝陛下としての名前だな。まあ、私も詳細はわからないがな。
昔、帝国である幹部の側仕えをしていたことがあってね。名前が違うってだけは知ってるってわけだ」
「初めて聞いたぞ、そんなの」
「当然だ。皇帝陛下が仕えているもの全てに、厳守させていたからな。本名を知っているのは、幹部あたりぐらいじゃないか?」
暗殺されないための処置なのか、他に何か理由があるのか。
謎多き人だな、皇帝陛下。
それに、メーテウスは結構偉い人だったのか…
そんな思考はソフィアが、こちらを向きキラキラとさせて手をにぎにぎしてくる。
「アデム君…!そんなすごい人だったのね!偉いわぁ!」
「えぇ?えっと、たぶん違うと思いますけど…?」
「そうだな、私も同感だ」
「というと…?」
ダインが気になってるのか、そわそわしてる。
会ってみたかったもんな皇帝陛下に。
「さっきも言ったが、私が知ってるのは家名である名字だけだ、本名までは知らない。
幹部の側で仕えていたが、情報統制がしっかりしててな。…モナーク家のもので間違いはないのだろうが、アデムという名に覚えはないんだ」
「それでもすごい人なのね!アデム君!」
「そうかあ、そんな大物だったかアデム…」
「二人とも?まだそうと決まったわけじゃ…」
ソフィアに手を握られ、上下にブンブンと振るわれる。
自分の出たちの情報がわかったというのに、どこか他人事のように感じてしまう。
貴族としては、有名。
それに皇帝と同じ名字か…
どういう関係性なのだろうか、自分とその家は…
未だ疑問が晴れないような難しい顔でアデムの状況を推測するメーテウスが口を開く。
「モナーク家の者だったにしても、記憶がないのは、どういうことなんだ?頭でも打ったのかい?」
「んや、見つけたときには特に頭をケガしているってわけでもなかったしな…」
「アデム君。海岸で目を覚ました時には、すでに記憶がなかったって言ってたもんね?」
「はい、覚えてるのはそこからなので間違いないですね」
「ふむ…謎だな」
ソフィアの声に、現実に引き戻される。
ただ、八方塞がりな疑問に一同は、自然と口が開かなくなる。
手がかりは、闇の中ということか…
集中していると、ダインが手を打って話を切り上げる。
「ま、このくらいにして、狩りに行くとしようぜ!早くしないと獲物が取れなくなっちまうしな!」
「そうだな…いずれわかることだしな。先に出ているぞ?」
「おう!」
ソフィアがずっと手を握っていたのを離してアデムの服装に不備がないか確かめる。
目尻を下げ、すごく行かせたくなさそうな顔を向ける。
「アデム君、2人の言うこと聞いて動くのよ?体調にも気を配ってね?」
「はい、いってきます…!」
腰に一応ロングソードを帯剣し、ダインに手渡されたバックパックを背負う。
「夕方までには戻ってくるわ、いってきまーす」
「はーい、じゃあそれまでに夕飯作っておくわから、メーテウスさんも誘っといてねー?」
「わかったー!」
ダインと共に外に出ると、眼下の村の様子を腕組みしながら、眺めるメーテウスが待っていた。
2人の足音に気付き、振り向く。
「来たな、2人とも。ダイン、目的地は村の周辺を中心にで良いんだな?」
「ああ、あまり森の奥に行かないように頼むわ」
「了解だ」
「お二人とも、ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
アデムが頭を下げたのを、キョトンとした目でそれぞれの思いを口に出す。
「なに、いつもと変わりないさ!俺の勇姿をしかとみとけよ!」
「調子に乗って怪我しそうだな…。まあ、アデム。君の守りはこの命に変えても、やり遂げるから安心してついて来なさい」
「はい!」
意気揚々と、村の外へ続く門へ歩き出す男3人衆。
まだ未知の領域の探索にアデムは、わずかな緊張感を身に宿し、心を躍らせついてゆくのであった。
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