新たな来訪者
時は戻り、不思議な力を行使できるようになったアデム。その翌日。
もう、五大満足が常になってきた事に喜びを感じつつ、目覚めのいい朝を迎える。
今日は、わずかに曇っている。日差しがないのは残念だ。
でも、悪い気はしない。どの天気も、心に鮮明な印象を与えてくれるからだ。
足取り軽やかに、一階へ降りると朝食の準備をしてるソフィアが目に入った。
…昨日の、すごい圧はもう鳴りを潜めているようだ。よかった。
「ソフィアさん、おはようございます。今日もいい匂いですねぇ…。手伝います」
「おはよう、アデム君!ありがとう!今日もいい子さんねー
でも大丈夫!お母さんこのくらいへっちゃらだから!」
「あ、はい。そうですか…」
思わずそっけなく返してしまった。
なぜかソフィアの子供扱い認定されてる感じで、ちょっと照れくさい。
ふと、ダインが居ないことに気づき、ソフィアに聞いてみることに。
「ソフィアさん。ダインさんはどちらへ?」
「ダイン?なんだか朝一に、ちょっとメーテウスさんのところに行ってくるって言ってたわねー」
「メーテウスさん…。どんな人でしょうか?」
「んーとね…。あ!こっちに来てアデム君!」
「?」
アデムの疑問に、人差し指を顎に当ててむむむと唸った後に、思いついたように手招きする。
台所の奥の浴室の手前にある、幾何学的な紋様が描かれた円盤の前に、導かれる。
「…ソフィアさん。この円盤がどうかしましたか?」
「この円盤ね。お湯を誰でも沸かせる便利道具なの!そして、この道具を作った人がメーテウスさんなの!
数年前にここに訪れてきて、色々と村の生活基盤の水準を上げてくれるのに尽くしてくれた人なのよ?」
「へぇ…そうなんですか」
昨日までは、この家にそぐわない飾り物をしてるという認識しかなかったが、そういう仕掛けになってるのか。
「…じゃあ、浴室のお湯もこれを?」
「そうなの!すごく便利でねぇ!毎回、薪に火をつけたり、火魔法でやりくりする必要が無くなったから、もう大助かり!」
ソフィアのはしゃぎようから、主婦にとっては救済みたいな物だったのだろう。
こんなソフィアを見るのは初めてだ。
そんな有名人?に何をしに行ってるのだろうとぽやんと考えてると、玄関の扉が開く。
「ソフィアー帰ったぞー。…お?アデム起きたか、おはよう」
「おはようございます、ダインさん」
「おはよう。調子はどうだ?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
間延びした声共に、ダインが帰ってきた。
アデムの体を少し眺めて
…さっきの話聞いてみようと口を開こうとしたが、ソフィアが先に声を上げて慌てて口を噤む。
「おかえりー、メーテウスさんと何話してたの?」
「ん?ああ、ちょっとな。今日狩りに行くから、誘ってきたんだ」
「あら、そうなの?…いつもひとりでいってるじゃない」
「そうだけどな。今日は、アデムを連れてこうと思って」
少しの静寂。
アデムもダインが言ってることが、若干理解できなかった。
戦えないんだけども…?そう真っ先に思った。
そんなアデムを代弁するように、ソフィアが少し剣呑な声音でダインに詰める。
また、心なしか周囲の温度が上がる。
「ダイン?まさか、アデム君を戦わせようとしてるんじゃないでしょうね?」
「ないない!1人が狩りをしてる間に、守れる奴がいないからメーテウスに頼んだんだよ!
流石にそんなことはさせないってば!」
ソフィアの圧に必死に弁明するダインだが、剣呑な圧は晴れない。
「じゃあなんで?」
「…いや、この間ローグの爺さんの所に行った時に、アデムの記憶の手がかりになりそうなものがあったからな。
その助けになりゃ良いなと思ってよ。メーテウスに事情を説明して連れてこうと思ったんだ。
すまん。相談すりゃ良かった」
真剣な声音で、ソフィアに納得してもらおうと努める。
ソフィアは、口を真一文字にしばらく結んで、やがて剣呑な雰囲気を剥がすように、息を吐く。
「…もう。なら良いわ。でも、メーテウスさんに負担をかけるのもねぇ。…私も行こうか?」
「んや、大丈夫。村周辺しか行かないからな。奥までは行かない」
「そう?なら、良いのだけど…」
アデムが話の状況についていけず、ただただ二人のやりとりを見守る。
…とりあえずは、解決したのかな?
一息つく間も無く、コンコンコンと扉をノックする音が響く。
誰だろう?
「ダイン、私だ。メーテウスだ。…まったく君は急に頼んでくるから困ったものだ」
「お、流石!早いな!」
扉の向こうから、渋い穏やかな声音がダインを呼びかける。
ダインは声の主を褒めつつ、迎え入れる。
ダインとより少し高い背格好に、綺麗に整った深い緑の髪を耳をすっぽり隠すくらいまで伸ばし、右目に片眼鏡を、口元に少し髭が生えている。
全身軽装に身を包み、背には弓矢を携えてるのがうかがえる。
「まったく…ダイン、お前の突拍子のなさは相変わらずだな」
ダインに、まるでいつもそのやりとりをしてるかのように漏らしながら、新たな来訪者が家の中に踏み入れるのだった。
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