光
白く染まった意識が浮上してくる。
なんだか、しょっちゅう意識飛ばしてるな。
「お…。デム…!!しっ…しろ!」
断片的でよく聞き取れないが、叫ばれながら揺り動かされている。
おそらくダインだろう。
また迷惑をかけてしまっているな…。
意識が鮮明になり、目を開けるとダインの顔がすぐ目の前にあることに少し驚いた。
倒れたところを上体を腕で支えながら呼びかけてくれたようだ。
「アデム!…大丈夫か!?」
「……ダインさん。すみません。ご迷惑を」
「気にすんな。立てるか?支えるぞ?」
「はい…ありがとうございます。もう、大丈夫です。自分で立てます」
先程の痛みがなかったかのように軽い。一応、体を小刻みに動かして異常がないことを確かめる。
「なんか光って急に倒れたからびっくりしたぞ」
「…すみません。……体調がどうやら良くなかったみたいです」
「なに、俺もアデムの反応が良かったから、つい調子に乗って連れまわした部分もある。
気づけなかった俺の落ち度だ、すまん」
さっきの出来事を誤魔化しつつ、申し訳なさそうにしてる差し出されたダインの手を取る。
変に気を遣わせてしまった。
ステンドグラスから差し込む光が変わってないことから、倒れていたのはほんの一瞬だろう。
「アデムも思った以上に疲れてるっぽいし、早く家に帰って休むとするか」
「はい。お腹も結構空いてきましたしね」
「だな!俺も腹減りまくりだぜ」
教会と夕日の明かりを背に受け階段を下りる二人。
空は暗くなり始めており、赤と黒のコントラストが絶妙だ。
暗くなるのに合わせて、民家やその側の道中に火が灯り始め、地上の星々のように輝くその光景は、絶景の一言につきる。
家に着いた途端、パタパタと言う音が聞こえそうな足音を立たせて、ソフィアが近づいてくる。
「おかえりなさーい!2人とも、怪我はない?どこも悪くしてない?」
花が咲いたような笑顔で異常がないか全身を隈なくみている。
ダインは、バツが悪そうな顔を浮かべ手をパンッと合わせて切り出す。
「悪い!ソフィア!教会に行った時にアデムが倒れたから、悪いところはないとはいえ、万全ではなかったわ、すまん!」
「ええ!?そうなの?アデム君大丈夫?今たってるの辛いんじゃない?椅子に座って座って!」
ダインを瞬時に追い越し、アデムの前まで来ると、ぐいぐいと腕を引っ張りアデムを座らせようとする。
彼女の全体から滲み出る、優しさの圧に言いしれぬ思いを感じながら先導される。
「ソフィアさん!?大丈夫ですよ!大したことじゃないですから!」
「倒れるのは、大したことなの!いいから座る!」
「はいぃ!」
「大人しくしててね?ご飯と後は疲労回復に良い薬も出しとこうかしら」
肩をがっちりと掴まされて、ソフィアの圧に変な声を出して尻込みしつつ座らせられた後、ささっと台所に引っ込んでしまうソフィア
視界の端から、ダインが苦笑しながら歩み寄ってくる。
「大人しく従っとけアデム。ああなったソフィアは、俺にもどうしようもできん」
「そうします…」
「ダイン?あなたは後で、話があるから覚悟しててね?」
「…な?どうしようできないんだ」
「…ご武運を」
「…おう」
台所から不意に来る、怒りの圧。
その圧を受け、ダインの背中が小さくなっていくのが見えるようだった。
台所から、ご飯が乗ったお盆と粉薬を手にソフィアが帰ってくる。
いつのまにか、表情が元通りになっているのに軽くびくびくしてしまう。
「さ、とりあえずご飯にしましょ!ダイン?ご飯配るの手伝って?」
「お安い御用です!!、というか全部やらせて下さい!」
「あらぁ、じゃあお願い♪」
「任せろぉい!」
ソフィアの機嫌を損ねないためか、進んで家事をやるダイン。
ダインの動きは、誰かと戦っているような動きの素早さだった。
瞬く間に料理が運ばれて、数秒のうちにテーブルには食事が並ぶ。
「お待たせしました!!」
「はい!ご苦労さま♪」
「いえ!滅相もございません!!」
「あはは…」
「じゃあ食べましょうか?…いただきます!」
「「いただきます!!」」
今日のソフィアさんは怖いけれど、美味しかった…
あっという間に食事は終わり、今またダインが兎もかくやというスピードでお皿をさげ、なんなら洗っている。…1人で
そして、アデムは隣に座ったソフィアに膝枕をされながら、頭を撫でられている。
どうしてこうなった…?
流石にちょっといたたまれなくなってきたので、手伝おうとした。
だが、そこには再び優しさの圧をまとったソフィアが、ガッチリと痛くないギリギリの力加減でアデムに優しく諭す。
…すごい怖い。震えるのをソフィアに悟らせないためにも大人しくするしかなかった。
ニコニコとアデムの頭を未だ撫でるソフィアにお礼とついでに機嫌もあげようと声をかける。
「ソフィアさん、今日の料理もとても美味しかったです。
毎日こんな手間暇かけて用意してくれてるんだと思うと、本当に頭が上がりません
ありがとうございます」
「ありもので作ってるだけだから気にしないでー。
料理は手間が掛かっちゃうものだし、何より美味しそうに食べてくれるの励みになるから、そんな大げさに言わなくてもいいのよ?
でも、わかってくれるのは嬉しいわ…!ありがとう」
ニコニコ顔が、より深みを増して、頭をぎゅっと少し強く抱えられる…恥ずかしい、けど手応えはあったはず。
台所から、ダインが手を動かしながら大声が飛んでくる。
「ソフィアの飯は、どんなものでも美味しいぜ!なんなら、生でもいける!」
「……それは、私の腕関係ないんじゃないかしら?そんなことより、早く終わらせなさい?」
「はい!余計なことを言って、すみませんでした!」
本当だよ。内心そう突っ込んでしまう。
落ち着け。まだ大丈夫だ。
ちょっと目を瞑り落ち着かせようとする。
……うん、やっぱダメかも。
ソフィアの反応にどうでるか悶々としながら、少しソワソワとしてしまう。
「アデム君、今日はどうだった?色々とあって疲れたと思うけど、楽しかった?」
「はい、いろんな人がいろんなことを。
お互いを還元しあっている共存関係に感動しました」
「村の人たちは、いい人ばかりだからねー。よかったわ楽しんでもらえて」
「新鮮な気持ちの連続でした。少々、はしゃぎすぎて最後はダインさんにご迷惑をおかけしてしまいましたが…」
「いいのよ、ダインが全部悪いのだから気にしないの♪」
「ソフィア!それは…」
「なーに。ダイン?アデム君に付き添っていたのに、体調管理もできなかったのはどこのだれですか?」
「俺です!」
「そうよねー」
ソフィアの流れるような切り返しにダインは手も足も出ない。
ほんとは、疲労で倒れたわけではないのだが…
だが、許してくれダイン。
とても、祈ったら意識が別の場所に行って、わけがわからないまま気絶してましたなんて、いくらなんでも信じてもらえない。
それにソフィアが怖すぎて、なおのこと言えない。
「さ!アデム君。これ以上長話するのも悪いから、お風呂入って早く寝ちゃいなさい?」
「…ありがとうございます。では、お先に入りますね」
「はーい、湯船にはしっかり浸かるのよー」
お許しが出たと勝手に思ったアデムは、そそくさにその場から離れて、お風呂へと向かう。
お風呂から上がり、自室へと戻った。
お風呂で温まった熱が次第に冷めていくのを感じ、ぷるっと震える。
…うん。ソフィアさんだけは、怒らせちゃいけないな。何度でもこの胸に誓おう。
しかし、今日は濃密なひと時を過ごせた。
特に印象的だったのが、教会での一幕だ。
あの灯火が見せた光景は、未だに脳裏に焼き付いている。
今頭の中に流れた光景を思い返すと、どの場面にもあの白い光が必ずあった。
その中には、光の扱い方みたいなのもあったように思える。…定かではないが。
漠然と思い出しながらベットに寝転び、両手を上げて白い光をイメージする。
するとどうだろう、小さくではあるが光の玉が生成される。
「出来ちゃったよ…」
本当に出来るとは思ってなくて、再度消してもう一度やってみる。
結果は同じだった。
「キラキラとして、それに暖かい?不思議だな…」
しばらくぼんやりと眺めていたが、ふと思いつきベットの脇にある木の棒に目をやる。
「この光の玉ができるのなら、他のも出来るのでは…?」
微睡んでいたが少しだけ目が冴え、起き上がる。
木の棒に光を纏わせようとしたり、治りかけの傷口に光を当ててみたりと。
この室内で出来るものをやってみるも、うんともすんとも言わない。
以前、光の玉は出来る。
「んー?よくわからん、何かコツがあるんだろうか?」
ふんすと息を吐いて、諦めて寝る体制に入る。
疲れが緩やかに眠気を誘い、瞼がゆっくりと落ちてくる。
いずれわかることだろう。
と、思い意識を手放す。
その日は、すぐに来ることを知らずに。
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