ジエン村散策

 朝食を終えて、心が暖まるような気分を味わいながら、ソフィアさんと一緒に食器を洗ってゆく。


「あら、全然ゆっくりしてていいのにー」

「いえお世話になっている身ですから、これくらいはさせて下さい」


 ソフィアが洗っていた皿を拭いていくが、まだ慣れていない動作のためにぎこちなくなってしまう。

 四苦八苦しながら、なんとか皿を拭き終える。

 …家事をする人って凄いんだなぁ。毎日こんな大変なことやってるんだもんなー。


「ありがとーアデム君!おかげで助かったわぁ」

「いえ、不慣れ故お手を煩わせてしまいました。すみません」

「いいのよ!その手伝ってくれる心意気だけで十分なんだからー」


 キラキラと光が舞いそうな笑みと、体を少々左右に揺らしてる様から、相当嬉しいようだ。

 やってよかったな。


 僅かな達成感を噛み締めてると、ダインが気を見計らったかのように話しかけてくる。


「アデム、ご苦労さん助かるよ。今日、この後何かやりたいこととかあるか?」

「そうですね。許して頂ければ、村を散策しようかと思ってました」


 ダインは目を大きく見開き、喜色の顔を浮かべて、肩を何度も叩く。

 地味に痛い…


「そうか、そうか!じゃあちょうどいいな!

 今日は村の中を案内しようかと思ってたんだよ!どうだ!村長直々のご案内だぜ?」

「本当ですか?じゃあお言葉に甘えてよろしくお願いたします。村長殿」

「はっはっは!だからダインで良いっての!むず痒いわ!」


 仰々しくお辞儀をしたら、軽く嗜められた。解せぬ。

 しかし、願ったり叶ったりだな。

 ここの全容は早くでも把握しておきたかった。

 若干意識がうちにいきかけてると、ダインがなにやら急かすように大声を上げる。


「よし、じゃあすぐいくぞ!今行くぞ!準備しろ、アデム!」

「こらこら、あまりアデム君を困らせるんじゃないの。

 それに、アデム君昨日から体洗っていないのだから、それが先でしょ?」

「おっとそうだった。どうも気がはやっていけねぇな」

「ありがとうございます。では、お風呂いただきますね」

「はーい、台所の奥に浴室があるからねー。着替えもタオルもそこに置いてあるから遠慮なく使ってね!」

「なんと…何から何までありがとうございます」


 用意周到なソフィアに、畏敬の念を送りつつ、足早に向かう。

 ダインが待っているのと、早く村中を見たい高揚感から、さっと体を洗って服を変える。

 大部屋に出ると、ダインが今か今かと待っていた。


「よし、準備万端だな!いくとするか!」

「はい!」

「気をつけて行くのよー!」


 ソフィアの見送りの言葉を背に、ダインの後を追いかける。


 視界が一気に開けて少し目を眩しそうに細めた後、撫でるような風が出迎えてくれる。

 明るさに段々と慣れて、目を開くといま自分が見てる眼下の光景に感嘆の息を漏らす。

 ダインを追い越し、全体を隈なく見ようよせんと、身を乗り出すような勢いでこの目に焼き付けようと食い入るように。


 ここは、小高い丘の中間部に立っている家のようだ。

 その頂上には大きな建物が立っている。その建物は、荘厳な雰囲気を感じさせて素晴らしい。

 眼下に目を移すと、煙突が一際目立つ建物や、緑に覆われた建物、露店のような通りなど目移りしてしまう。

 アデムの慌ただしい様に、微笑ましく見ているダイン。


「圧倒されてるか?」

「はい…。全部が目新しいので圧倒されてます!どういうことが待ってるか今から楽しみですね…!」

「そうか!気に入ったようで何よりだよ」


 目を瞑って腕を組み、我が事のように頷くダイン。

 未だ、目を輝かせ眼下の光景を見ているアデムに、頬が徐々に吊り上がりつつ、アデムの肩にポンっと手を乗せる。


「まあ、これから散々見る光景だ。しっかりと目に焼き付けとけよ」

「はい…。これから毎日見れると思うと興奮してきますね…!」

「そんなにか?しばらくしたら見飽きると思うぞー?」

「いえ、そんなことないです」


 ダインのちょっとした物言いに、少しムッと顔を若干顰める。


「ははは、わりぃわりぃ。そんなに感動してくれるとは、村長として鼻が高いよ」


 ダインは眼下の光景を背に、両手を広げ歯をギラリと見せながら、低く威厳のある大声を出し始める。


「まあ、何はともあれ。

 ——ようこそ、アデム!最果ての海を望み、彼の皇帝の光が届く終着点、ジエン村へ!

 お前のこれからの生活、さまざまな光で溢れ満たされることをここに約束するぜ!」


 上に立つものの覇気だろうか、ぶるっと身震いをするように見守っていた。

 やはり、村に立つものとしての威厳があるなぁと思い始め…


「…よーし、カッコつけたいことは出来たし!早速、案内するぜ、アデム!着いてこいよ?」


 思い…たいアデムだった。




 小高い丘を降りながら、ダインがこちらを向く。

 「まあ、案内するとは言ったが、全部となるとキリがなくなっちまうからなー。

 アデム。さっき上から見た時に何か気になるものでもあったか?」


 ダインにそう促されて、顎に手を当てしばし思い出す。

 

「そうですね。…煙突のある家と、緑に覆われた家。あとは、1番高い丘の上にある大きい建物ですかね」

「お、なかなか目の付け所が良いな。

 よし、じゃあ、最初は、1番近い緑に覆われた家に行って、次に煙突のある家だな。んで、最後に丘の上だな」

「ありがとうございます。お願いします」

「おう!よし、いくか」


 一つ目の目的地に着くまでの道中も、気になることばかりだった。

 多種多様の花が飾ってある家や、粉を焼いたような食欲を誘う香ばしい匂いを漂わせる家、その家ごと家ごとがやりたいことをやって、出来た物と物を交換し合い共存しているのだとダインは端的ながら言っていた。

 ——みんながみんな役割があって、誰かの役に立つ。素敵なことだ。


 また、村人のほぼ全員が戦闘経験が豊富らしく、肉等は各々で工面してるらしい。

 取り分が決まってるらしく、取りすぎた獲物は専用の保管所兼精肉所があってそこに納めるのだそうだ。

 肉が取れなかった民家や、災害時の非常食はそこから配布されるらしい。

 非常時に起きた時のことも、何をすれば良いかも周知されてて、終始感心しっぱなしだった。

 朝に聞いた、氾濫からの教訓もあるだろうと

ぼんやりと頭の片隅に思いつつ。


 なんやかんや、色んなことを思い耽ってるうちに緑に覆われた家が近づいてくる。

 

 その家は、唯一薬を作っている場所とのことだ。

 村周辺で取れる薬草や香草、石を煎じて塗ったり、時にすりつぶして飲み物と一緒に飲んだりとだんだん専門的な話になっていき正直難しくてよくわからなかってきたので、そこの家主に質問しまくった。

 そこの家主のお婆さん——ミモザは癖は強かったが、とても自分のやってることに誇りがあるのだというのは話を聞いていてわかった。

 …質問しまくってる時すごい目をギラギラしてるのがちょっぴり怖かった。

 けど、充実したひと時を過ごせた。


 まだ回る箇所もあるので数十分くらいで、次の目的地に向かうのだった。

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