第85話 グレンヴィルを助けるために

『あなた、大丈夫?』


『ああ、ユースタスの薬で助かった。それよりもケニーシャとグレンヴィルは?』


『ケニーシャは大丈夫よ。どこも怪我をしていないわ。この後確認が済んだら、ケニーシャは予定通り避難所へ連れて行ってもらうわ。アトウットとリズをつけるから安心して』


『そうか。それでグレンヴィルは?』


 シェリアーナが悲しそうな顔をして、静かの首を横に振った。


『目の前でシードラゴンの波に連れて行かれたわ』


『そうか……。すまない。連絡がきて気をつけていたのに』


『私も目の前まで追いついていたのに、結局グレンヴィルを連れて行かれてしまった……。グレンヴィル、大丈夫かしら』


 私はシェリアーナを抱きしめた。彼女が泣くのは子供達のことだけだ。それが嬉しいことなら良いが今回は……。


 私が気づいた時には、全てが終わった後だった。目を覚ますし、周りを見渡し気配を探れば、相変わらず半端者達は攻撃をしてきていたが、シードラゴンの姿はなく。

 さらに気配を感じれば、最初にシードラゴンの気配を感じた距離まで、シードラゴンは離れてしまっていた。


 私は慌ててケニーシャとグレンヴィルの気配を探す。するとすぐ側からケニーシャの気配を感じることができ、だが目視では確認できず。怪我などしていないかは分からなかった。が、それでもケニーシャの気配に、少しは安心をした。したのだが。


 どこを探してもグレンヴィルの気配を感じず。グレンヴィルはどこだと、私は動かない体を何とか動かして、グレンヴィルを探そうとした。

 その時横を見れば、シェリアーナが皆に指示を出していて。私が目を覚ましたことに気がついたシェリアーナが、急いで私の所の。


 シェリアーナは私のそのまま動かないでと言うと、すぐにユースタスが用意してくれていた、回復の薬を飲ませてくれ。数分で私の怪我も体力も、全てを回復させることができたのだった。


 そしてさっきの会話だ。先にケニーシャのことを聞いたのは、しっかりとケニーシャの気配を感じていたからだ。そしてケニーシャの気配と一緒のアトウットとリズの気配も感じていたからで。


 ケニーシャが怪我をしていないと聞いて再度安心した。もし大怪我をしていたら、回復薬があっても、痛い思いはさせたくないからな。そう、ケニーシャが無事で、本当によかった。


 ではグレンヴィルは? ここからは最悪な結果になるかもしれなかったが、聞かないわけにはいかず。とても大切なことだからな。私達の息子グレンヴィルはどこに?


 詳しく話しを聞けば、シェリアーナはグレンヴィルが連れ去られそうになった時、攻撃を交わしながら、何とグレンヴィルの近くまでは行けたのだと。

 しかしシードラゴンの魔法はしっかりとグレンヴィルを捉えていて、後少しが追いつくことが出来ず。彼女の目の前で、波の中へ消えていってしまったらしい。


 グレンヴィルが狙われていると確定し、気をつけていたのに。私が気絶しなければ、もっとしっかりとグレンヴィルを守っていれば……。私はシェリアーナを強く抱きしめる。


 いや、私の対応が悪かっただけ、私の考えが甘くこの事態を招いてしまったのだ。後悔する資格なんて。

 でもシェリアーナは。彼女の目の前でグレンヴィルは連れ去られてしまったんだ。それがどんなに辛いことか。


『あなた、これからのことを考えないと』


『ああ、そうだな』


 シェリアーナが涙を拭き、私にそう言ってきた。シェリアーナの表情を見れば、もう悲しみの表情はなく、いつものしっかりとしたシェリアーナに戻っており。


『私達のグレンヴィルを助けましょう!』


『ああ……、ああ!! そうだな!!』


 そうだ。すぐにでもグレンヴィルのために動かなければ。私はここを動くことはできない。だがそれでも、グレンヴィルを助けるために、何かができるはずだ。私達の息子を助けるために。


『グレンヴィルが連れ去られる直前、ユースタスがグレンヴィルの元へ。しっかりとグレンヴィルの洋服のくっ付くのを見たわ。それからモコモコ達に小さいフルフルも。もし全員がばらばらにされることがなければ、ユースタスがバレていなければ』


『何かあってもすぐに、ユースタスが対処してくれるだろう。それに彼はグレンヴィルの荷物も持ってくれているからな。食事も問題ない。が、もしかするとユースタスがそれをしなくとも、これに関しては向こうが、グレンヴィルを死なせないよう、最低限の生活はさせるかもしれない』


『ザカライアンの情報ね』


『ああ。ザカライアの情報によると、やはり奴らの目的は、いや、ジュフィリオンの目的は、グレンヴィルの魔力らしい。そしてジェフィリオンは、まだ全部が分かった訳ではないが、これから奴がやろうとしていることのために、ずっとグレンヴィルの魔力を使おうとしていると。そう、ずっとだ』


『その情報が、探し出した奴らの情報が正しければ。ジェフィリオンがグレンヴィルの魔力を奪って、すぐに殺すとは考えにくい。となればグレンヴィルはまだ生きていることになるわ。やっぱり何とかグレンヴィルを助けに行かないと』


『だが、今のシードラゴンの位置は。私は気を失ってしまっていて分からないが、シードラゴンは一瞬であの距離まで?』


『ええ、ほとんど一瞬だったわね。シードラゴンの魔法によるものか、それともジェフィリオンの魔法によるものか』


『向こうに向かわせる人選と、向こうまでどうやって移動するかも決めなければいけないが』


『もしかしたらグレンヴィルを連れて、こちらに戻ってくる可能性も、よね。定期的にグレンヴィルの魔力を奪うために、一緒に行動する可能性もあるもの』


『そういったことも含め、早く色々と考えなければ』


 グレンヴィル、待っていてくれ。必ず助け出してやるからな。

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