第86話 久しぶりの子供達の元へ(***視点)
『………』
何をこの男はずっと黙って考えているのか。ここへあの人間の子供を連れてきてから、ほとんど何も話さず、ずっと何かを考えているこの男。名はジェフィリオンというが、こんな者、奴かこの男で十分だろう。
我は早く子供に会いに行きたいというのに、この男がここに居ろと命令してきたおかげで何もできず、ただただずっとこの部屋で座っているだけだ。
『……やはりもう1度調べるか。それとそろそろ子供の世話をさせなければ。力を奪う以上、奴には生きていてもらわないと困るからな』
ようやく奴が椅子から立ち上がる。ふぅ、やっとこの無駄な時間も終わりか。これで息子達に会うことができる。そう思った我の考えは間違っていた。奴は一瞬でその場から消えると、数分して戻ってきて、また何かを考え始め。
なんだ動くのではなかったのかと、俺は大きなため息を吐く。が、今度は長く考えることはなく、ある質問を我にしてきた。
『お前、何かおかしな気配はしなかったか?』
『おかしな気配とはなんだ。そんな者、お前達の仲間がその辺をうろちょろしているだろう。我にしてみれば、みんな同じだ』
『そういうことを言っているのではない。今までここになかった、我々以外の何か別なものの気配がしないかと聞いているんだ』
『ふん、ここはいつもと変わらん。変わったことと言えば、あの人間の子供の気配と、子供に付いてきた魔獣達の気配のみだ』
『本当か?』
『はぁ、我がお前の質問に嘘がつけると?』
『……』
奴は我の答えに黙ると、何かブツブツと1人事を言い。
『ここへ来る前、何か別のものが混ざった感覚があったが、やはり気のせいだったのか?』
他にも何かブツブツ言っていたが、その後は半端者に命令し、どこから連れてきた、海に生きる者の女を連れて来させた。
ここには何人かこういう者達がいる。今回の襲撃とは関係のない者達。雑用をさせるために、ここへ連れて来られた者達だ。皆、この男の得体の知れない力を怖がり、奴隷契約をしていなくとも、奴の命令を聞いて動いている。
『おい、そろそろ子供の世話をしに行け』
『はい』
『良いか、分かっているとは思うが、子供を逃がそうなどと、面倒な行動は起こすなよ。もし少しでも変な動きを感じれば、すぐにお前の元へ行きお前を消すぞ』
『はい』
すぐに女が部屋から出ていく。
『おい、少しの間私はここに残り、これからのための準備をする。その間お前は、ここに何者か、奴の影の者達達や、他にも子供を取り戻しに誰かが来る可能性がある。その者達を見張れ。どこで見張るかはお前の好きにしろ。だが分かっているだろうな。お前も勝手な行動をとれば』
『分かっている』
『ふん』
それだけ言い残すと、奴はさっさとへやか出て行った。奴にしては珍しい、好きにしろだなどと。まぁ、今の我にはまだ、奴に逆らうことはできんからな。よし、すぐに子供達の所へ行こう。どこで見張るかは我の好きにして良いと言ったのだ。ならば子供達の元へ。
我は奴の気配が遠ざかるのを確認し、すぐに部屋を出た。もちろん我が息子達のいる部屋へ行くためだ。
子供達は元気にしているだろうか。怪我はしていないだろうか、病気にはかかっていないだろうか。
我のことがあるからな、下手なことはしていなと思うが。もし子供達に何かあれば、我は無理をしてでも奴隷契約を解除し、自分をを殺しに来ると。奴もその辺は分かっている。
それにしても先ほどのやつの質問。私は嘘をつかずにしっかりと答えたため、罰を受けることはなかったが。それにしてもさすがあの者、というところか。
子供を攫った時、子供と魔獣以外にある者の気配が。その者の気配を奴も一瞬、違和感として感じたようだが。その違和感の正体が分からずに、我にあのような質問を。
だが、我が正直にそれを答える必要はない。『ついて来たのは魔獣だ』と答えれば、間違いではないのだから。
なにしろあの時子供といたのは、モコモコ、フルフル、リーシュの魔獣達だ。その中に何者かが混ざっていたとしても、体は魔獣なのだ。それを魔獣しかいないと言って何が悪い。
あの子供に付いてきた者は、これから我の計画に必要になるのか、それとも邪魔になるのか。まだはっきりとはしないが、どちらにしろ奴に知らせるなど。
我は子供達の元へ向かいながら、食糧庫に寄っていく。子供達におやつを持って行ってやるためだ。色々と持って行ってやろう。これについても、奴は何も言っていなかったからな。2人の好物は……。
食べ物を空間魔法でしまいながら、これからのことを考える。あの者と話すなら早い方が良い。なんなら今、話をつけても良いくらいだ。次いつ息子達に会いに行くことができるか分からないからだ。そうしてもし、息子達を逃すことができたのなら。
それにしても奴が無理をしてついてくるとは。あの子供は何者だ? 先ほどはしっかりと調べならず、ただの魔力が多いい子供ということしか分からなかったが。他にも何かあるはずだ。
『これくらいで良いか』
食料を入れ終わると、すぐに部屋を出て再び息子達の元へ向かう。そうして息子達がいる部屋のドアの前に立てば、久しぶりに近くで感じる息子達の気配に、胸の奥が熱くなった。
ゆっくりとドアを開ける。最初に見えたのは、手前に置かれている檻で、捕まえた子供と、先程命令されていた女が何かをしている姿で。
が、今はそっちはどうでも良い。その子供が入れられている檻に重なっていて、良く見えないが。確かに海水の入っている檻が置かれている。
と、その時向こうから息子達の声が。
『きゅ?』
『くきゅ?』
『きゅう!!』
『くきゅう!!』
まだ気配を探ることが苦手な息子達、前回は遠くからでも気づいていたが、今回は我が部屋の中へ入るまで気づかなかったようで。しかしようやく我の気配に気づき、我のことを呼んだ。良かった声だけ聞けば元気なようだ。我は子供の前を通り、息子達の前へと移動した。
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