第80話 知らない場所、大きなリス魔獣?

『ぷぴ?』


『ぷう?』


『くう?』


「大丈夫だ。今は眠っているが、もう少したてば目を覚ます。怪我もしていない。それにしっかりと薬と薬草は持って来ている。回復魔法も使えるから安心しろ」


『ぷぴ!!』


『ぷう!!』


『くう!!』


「そっちのお前達も、具合が悪かったら言うのだぞ」


『きゅ?』


『くきゅ?』


「大丈夫。私はお前達の味方だ。今は捕まっているが、そのうち隙を見て逃がしてやる。が、後はお前達の親をどうするかだが」


 う~ん、誰だ? なんか周りが煩いな。眠いんだから静かにしてくれよと思いながら、俺はそっと目を開けた。


 と、俺の目の前にはいつも通り、モコモコ達と小さいフルフルのお尻が。どうして寝ている時に、俺にお尻を向けてくるんだよ。まぁ、可愛いからいいけど、一瞬ビックリするんだ。もう少し離れてくれていれば良いんだけど、目の前すぎるんだよ。


 俺はこれまたいつも通り起きたぞと、声を出しながらみんなの背中を撫でてやる。するといつもはゆっくりと振り向き、あの可愛い笑顔を見せてくれるモコモコ達と小さいフルフルが、思いっきり振り返ると、その表情は何故か怒っている感じで。


 な、何だ? どうしたんだ? 俺は起きただけなんだけど、もしかして寝ている時に、みんなに何かしちゃったか? 

 寝返りをした時にパンチしたとか蹴りを入れたとか、後はそうじゃないと思いたいが、俺がイビキをかいて、そのイビキのせいで眠れなかったとか。


「起きたのか? 思っていたよりも早く目が覚めたな」


 今のはユースタスさんの声だな。あれ? そう言えば俺、何で寝てたんだ? 昼寝の時間だったっけ? 

 でも確か父さんが休憩に来てて、それでそろそろ時間だからって、父さんを見送ろうとしてたよな? それでその父さんと交代で、母さんが休憩に来るって。ん? でもあの時、何か起きたような? あれ?


「起き上がれるか? 私はもう少しこのままの姿でいたいのだが、隙を作るためにも。だが今奴はいない、もしお前が動きづらいと言うのなら、今だけでも元の姿に戻るが」


 何の話しだと思いながら、俺は大きく伸びをして、それから寝返りをしてうつ伏せになる。何だ? いつもの俺達の、あの最高クッションはどこだ? 何でこんな硬いそして冷たいコンクリートみたいな床に、藁が敷いてある場所で寝てるんだよ。


 変な感じがしながら、俺はハイハイの格好に。それからゆっくりと座れをした。そうして見えた光景に、俺は思わずぼけっとしてしまった。


 そこは見たことのない場所だった。何もない、ただただ広い広い部屋? って感じで。壁の所々に、灯りがついていたが、壁と床は灰色のためか、部屋の中はとても暗く感じ。


 そしてそんな広い広い暗い部屋の中、俺の周りには俺達を囲むように、たくさんの棒が。その棒を確かめれば、どう考えても檻って感じで。何で俺、こんな檻みたいな物に入ってるんだ?


「おい、私の声が聞こえているか?」


 俺はユースタスさんの声がした方を見る。そしてまた固まった俺。俺が見た方にユースタスさんの姿はなく、その代わりリスのような生き物が座っていた。しかも俺と同じくらいの大きさのリスが。

 

 何だこの魔獣? 俺が初めて見る魔獣だけど、この世界のリスはこんなに大きいのか?


「分かっていない顔だな。まぁ、説明もせずに、赤ん坊のお前に今の状況がわかるわけもないな。奴の気配はまだ向こう、やはり今だけ元の姿に戻るか」


「あ?」


「何だ、その声は? そんな声も出せたのか?」


 今の俺から発せられた『あ?』は、かなりドスが効いていた。どちらかと言えば『あ』にてんてん、と言った感じの『あ?』だった。でも仕方がないんだ。驚いて思わず出ちゃったんだから。


 大きなリス魔獣だな、なんて思っていたら、リス魔獣が話し出し、その声は完璧にユースタスさんで。何でリス魔獣からユースタスさんの声が?


「その目をやめろ。今変身を解く。お前の様子を見て、一応今の状況を話した後、奴が戻ってきる時にはまた変身するがな」

 

 相変わらずユースタスさんの声で話すリス魔獣。少し俺から離れると、モコモコ達が今度は心配顔で俺を見てきながら、俺の体にぴったりとくっ付いてきて。


「よし、変身を解くが、なるべく声は出すな」


 そうリス魔獣が言った瞬間。リル魔獣の体がウネウネと歪みだし、原型が分からないほどぐにゃぐにゃに。そうしてそのぐにゃぐにゃは、段々と縦長に伸びていき、その伸びが止まれば、ウネウネも収まってきた。そうしてそのウネウネが完璧に止まれば。


「あ?」


「だから、それはやめておけ。シェリアーナがその声を聞いたら、そんな声を出したらだめよと、かなり騒ぐだろうからな。だが、大きな声を出さなかったのはいいぞ」


 何と大きなリス魔獣が、ユースタスさんに変身したんだ。いや、ユースタスさんが大きなリス魔獣に変身していたのか? 何でそんなことを?


「ゆちゃ、りしゃ」


「何だ? 全く分からん。はぁ、アトウットがいれば分かったのか?」


 今のは、ユースタスさん、何でリスなんだよ、って言ったんだ。何で突然、リス魔獣になってるんだよ。と言うか、やはりこの世界に人々は、それぞれ別の生き物に変身できるのか? 父さん達は魚。エルフはリスって感じで。


 俺の言ったことが分からないまま、ユースタスさんは俺を抱き上げると、自分は胡座をかき、俺を膝の上に乗せた。そんな俺の足の所に、モコモコ達と小さいフルフルが座ってくる。ん? 今日はいつものやらないのか? 


 いや、ほらさ。モコモコ達は初めて出会った時、俺はまだ寝返りもできなくて。そんな俺のお腹の上にモコモコ達が乗ってきただろう? それで場所を巡って揉めてさ。


 それがなんと、今でも続いていて、そこに小さいフルフルが混ざってしまい。まだその決着がついていないんだよ。

 それで同じような場所に座るときは、いつも揉めるんだけど。今日は何故か静かに座ってきて。


「おそらく分からんだろうが。そうだな、今のうちに薬草入りミルクを飲ませながら、お話しをしてやろう」


 そう言ってユースタスさんが、空間魔法の収納からミルクを取り出した。

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