第79話 家族との別れ

『避難した方が良さそうだな』


「ああ、その方が良いだろう」


『シェリアーナは今、向こうで指示を出しているだろう』


「気配で確かめたが、しっかりとした動きをしているから彼女は無事だ。おそらくお前が言った通り、指示を出しているかと」


『おい、大丈夫か!!』


 いつの間にか、どこかへ行っていたルスが戻ってきた。


『ああ、こっちは大丈夫だ』


『避難までの道に結界を張ってきた! 我はこれから奴の相手をしに行く!!』


『ああ、頼む。それと結界、助かった』


『気にするな』


 ニッと笑い、それだけ言うと、さっと消えるルス。みんなが俺達の所へ集まってきて、父さんがそれぞれに指示を出す。

 こんなことにはなりたくなかったけど、いよいよ俺達は避難することになったらしい。屋敷がこれじゃあ仕方ないけど。なにしろ外がばっちり見えている状態だからな。


『かしこまりました』


『しっかりとお連れします!』


 え? 今のリズか? いつも独特な話し方をするリズ。そんなリズが今、しっかりと返事をしたんだ。


『パパ、ひなん?』


『ああ。これからみんなで避難するんだ。パパは行けないけど、ユースタスや、アトウットとリズが一緒に避難してくれるからな。それと、もし1人になっても、道は覚えているね』


『うん!! あのねぇ、あたしバッチリ!!』


『そうだな。バッチリだな!! それとグレンヴィル。これからお前も避難になるが。いつもみたいに静かにしてるんだぞ。お姉ちゃんと一緒だから、怖くないからな』


 父さんは回復薬でしっかりと回復。そしてみんなに指示を出し、姉さんと話した後、俺を抱っこして、そう言ってきた。


「ちゃ!!」


 もちろん。俺はみんなの言うことを聞いて、静かにしているよ。俺に出来ることはそれくらいだからな。


『よし! 相変わらず良い返事だな。それとブルー』


『プププ!!』


『お前はフェリーと同じくらい強いんだ。俺の大切な相棒でもある。そんなお前にお願いだ。……みんなを守ってくれ』


『………プププ!! プププププ!!』


 今のは分かった、任せてくれ! と言ったらしい。俺達が父さんと話しているうちに、アトウットさんとリズが、避難に使う道の入り口を確認してきた。何も問題はなく、すぐに避難できるようだ。


 最後に父さんは俺と姉さん、モコモコ達を抱きしめた後。みんなで廊下へと移動する。俺はもちろんユースタスさんに抱っこされての移動だ。ちなみの俺のモコモコ達と小さいフルフルは、俺にしっかりくっ付いたままだ。


 そうしてもう1度廊下の様子を確認して、まずは姉さんとフェリー、ブルー、ルーちゃんが、アトウットさんとリズと移動することに。

 とりあえず屋敷の端まで移動して、続いて俺達が。そこで外の様子を確認して、また移動する。って感じで少しずつ、でもなるべく急いで避難場所へ移動するんだ。


 姉さんは移動する前に、父さんに行ってきます!! と言い、にっこりと笑っていた。姉さん、不安だろうに、全然そんな様子を見せていない。


『気をつけて』


 父さんが姉さんの頭を撫で終わると、かなりのスピードで進んだ姉さん達。すぐにお屋敷の端まで着いてしまった。さすがアトウットさんとリズだ。

 次は俺達だ。俺の頭も撫でた父さん。父さんは姉さんとは違う、とっても優しい表情で笑って、俺を送り出してくれようとして。


 父さん、大丈夫だよ。まぁ、色々起こってはいるけど、きっと大丈夫だ。俺は父さんの手をぎゅっと握った。そうしてその手を離せば、ユースタスさんが姉さん達の所へ移動しようとして。


 と、その時。


『皆、気をつけよ!! 攻撃が来るぞ!! 我でも全ては防ぎきれん!!』


 何処からともなくルスの大きな声が聞こえて。次の瞬間、さっきの今までで1番すごい攻撃だと思っていた攻撃よりも、さらに大きな攻撃がこの街を襲った。そして今までと違うことがもう1つ。


 俺の目の前には知らない男の人が。その人が父さんの方を向いた瞬間、父さんは向こうへ飛ばされ、俺はといえば体が浮く感じが。ユースタスさんも俺が気づかないうちに、吹き飛ばされていたんだ。


 じゃあ何故、俺は浮く感じがしたのか。それはドームの中へ凄い勢いで流れ込んできた海水のせいだった。その海水は屋根のなくなったお屋敷の中へ、確実に流れ込んできて、俺は完全に海水の中に入ってしまっていたんだ。


 息ができなと慌ててバタつく俺に、モコモコ達と小さいフルフルの声が聞こえて。ハッ!! としてモコモコ達を見れば。みんながいつもの優しい可愛い顔を見せてくれていた。

 そのおかげで、あの事を思い出し。そうだ、俺は海の中でも息ができるんだと、緊張したが思い切り息を吸い込んでみた。


 すると普段通りに呼吸をすることができ。完璧に海水の中にいるのに、息ができることにちょっと変な感覚がしたが、それでも息ができることの、更に安心して。


 しかしすぐに、またパニックになるような出来事が目線を上げると、アトウットさん達が俺の方へ来てくれようとしている姿が。

 でも、海水の様子? がおかしく、こう海の中でを波が走る感じ? がして。その波がアトウットさんと俺達との間に流れ込み、アトウットさん達が見えなくなってしまったんだ。


 と、それと同時に、俺達はまた、別の波のような物によって、壊れたドームの方へ引き寄せられるように運ばれて始めた。しかもかなりのスピードで。


『ぷぴ!!』


『ぷう!!』


『くう!!』


 モコモコ達と小さいフルフルが何かを言っている。そう言えば息はできるけど、この状況で俺は話せたりするのか? もし海水を飲み込んでしまったら? 落ち着け、息ができるんだから大丈夫。落ち着くんだ。


 俺はチラッと見えたアトウットさんに、助けを求めようと声を上げようとした。


「あちょお!!」


 ああ、良かった声が出る。俺は何回もアトウットさんを呼び。が、アトウットさんは俺に気づかない。その間にもどんどん俺は屋敷から離れていき。ついには街がしっかり見える場所まで、ドームギリギリまで来てしまった。


 これはもうダメだ。そう思い、これが最後かもしれないと、俺は父さん達を呼んだ。


「ぱぁ!! まぁ!! ねぇ!!」


 その声と同時くらいだった。俺の背中に何かの衝撃と、前の方から母さんの俺を呼ぶ声が。


『グレンヴィル!! グレンヴィル!!』


「まぁ!!」


 良かった。最後に母さんの顔が見れた。母さんは必死に俺に追いつこうとしている。


 どうしてこんな事のなっているのか、俺には分からないけれど。もしここへ戻って来れなかったらいけないから、これだけは伝えておくよ。


 俺はみんなと家族になれて、とても幸せだった。本当に本当に。このまま何事もなくみんなで、家族で幸せにくらせたら、どんなに幸せだっただろう。

 父さん、母さん、姉さん。それにみんな。俺を家族として迎えてくれてありがとう。


 何とかそう、俺は母さんに伝え。伝え終わったと同時だった。俺はドームから完全に出ると、一気に何かに吸い込まれ、そのまま気を失ってしまったのだった。

 気を失う前に母さんの声が聞こえたような気がした。


『グレンヴィル!!!!!!』

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