第72話 力が上がったシードラゴンと、誠心誠意謝る俺

 今回の攻撃でこっちの被害はほとんどなかったようだ。それは良かったけど。ただ問題も。


 さっきの話し。結界が一瞬破られたって。あれはシードラゴンの力が上がったからだった。突然魔力の量も力も質も、全てが上がったと。今は落ち着いて、少し下がったらしいけど、それでも最初よりは。しかも上がったままだって。


 挙句、これだけの攻撃をしたシードラゴンだけど、これが最大の力ではないと言うんだ。これからもっと、どれだけ強くなるか、ユースタスさんにもアトウットさん達にも、予想はつかないらしい。


 シードラゴンは普通のシードラゴンじゃなくて、変異種のシードラゴンだ。いや、普通の? シードラゴンもかなりの強さで。もし襲ってくるようなことがあれば、対処が大変なんだけど。


 変異種のシードラゴンなんて、ほとんどの人達が初めて見るんじゃないかってほどで。その力がどれほどの物か分からないんだよ。

 ただ、分かっていることも。それは想像できないほどの、力を使ってくるだろうって事だけだ。


 どうやら今回のシードラゴンは、変異種になったばかりで、まだ上手く、大きな力を使いきれていないと。だから父さんや母さん、みんなが張ってくれた結界は、しっかりとシードラゴンの攻撃を防いでいて。


 でも、ユースタスさん達が考えているように、これからどんどんシードラゴンの力が上がっていけば。

 さっきは結界を破られても、破られた場所は1箇所で、しかも狭く。結界を張ってくれる人達が、一瞬で修復してくれたけど。これからもっと強い力で攻撃され続ければ……。


 だから父さん達は、なるべく今のうちにシードラゴンを倒したいんだ。だけどここで問題なのは、シードラゴンと共に、この国に攻めて来た半端者達で。


 半端者達にもレベルがあるらしい。まぁ、犯罪者も色々だからな。最初攻撃して来ていた半端者達は、全然大したことのない半端者達だったようだ。

 もし父さんが相手をした場合は、1回の攻撃で10人は軽く倒せるって。母さんの場合はそれ以上、15人~20人くらいは軽く倒せると。母さん、どれだけ強いんだ?


 まぁ、母さんが強いのは、今は置いておいて。だからその弱い半端者達が攻めて来ているうちに、本当はシードラゴンを倒したかったんだって。

 だけど、そう上手くはいかなくて。シードラゴンを倒せないうちに、半端者達の力が上がってきてしまった。


 もちろんその半端者達だって、父さん達からしてみれば、全く問題はない。が、その半端者達が、シードラゴンを倒すのを邪魔してきて。そのせいでシードラゴンを倒すのがまた遅れると。全く迷惑な連中だよ。父さん達の邪魔をしてくるなんて。


 その邪魔をしてくると半端者達と、国を攻撃してくる半端者達。これからシードラゴンがさらに強くなってくれば、そっちの相手も……。


『もう少しすると、旦那様が一旦お戻りに』


「そうか。ではその時に少しだ話しを……」


 交代しながら、ずっと戦ってくれているみんな、そしてエルフの人達。でも父さんはまだ1度も休憩をしていないって。だから先に父さんが、休憩に戻ってくるって。その後は母さんが。


『アトウット、パパ、かえってくる?』


『ええ、お戻りになられますよ。ですがお会いできるかは分かりません。今はまだ、シードラゴンや敵と戦っている最中ですので』


『そか。…‥はやくパパとママにあいたいなぁ』


 姉さん……。そうだよな。早く父さん達に会いたいよな、側に行きたいよな。でも今はしっかりと、少しかもしれないけど、父さんに休んでもらわないと。母さんにもな。


 俺は姉さんの所に行って、姉さんの洋服を引っ張って姉さんを呼ぶ。それから腕を回して、応援の格好をして。父さんと母さんの代わりにはなれないけど、俺が側にいるからさ。


 そんな俺のことを見ていたモコモコ達と小さいフルフル。みんなも姉さんの所に集まってきて、応援の格好をした。


「ねぇ! おちょ! ちょよぉ!!」


 姉さん、俺達が側にいるよ! だから元気出してくれ!! そう言ったんだ。


『な~に? おうえん?』


「ねぇ? おりゃ、ちょよぉ? だかぁ、げきよ」


 姉さん? 俺達、一緒だよ? だから、元気出してくれ、って言ったんだ。


『げんきにおおえん? うん!! げんきにおうえん!! それからげんきに、おうたね!!』


 姉さんが元気よく応援を始めた。俺の言ったことは伝わらなかったが、元気になってくれたのは良かった。ただ……。横をみればじと目で俺を見ている、モコモコ達と小さいフルフルが。


 そんな目で見てこなくても。いや、みんなの言いたいことは分かるよ。俺もそんなつもりはなくて、ただ姉さんを元気づけたかったんだ。まさか、『元気にお歌』になるなんて思わなかったんだ。


 さっきは攻撃と揺れで、姉さんはみんなの言うことを聞いて、小さな声で歌っていたけれど。今度はしっかり歌えるから、かなりのボリュームであの何とも言えない歌を歌うわけで。


『ぴぴぴぴぴ』


『ぷぷぷぷぷ』


『ぴゅぴゅぴゅ』


『ぷぴぷぴ』


『ぷうぷう』


『くうぅう』


 何かぶつぶつ言いながら、俺をじと目で見たまま、窓の方へ行って応援を始めた姉さんの隣に行くみんな。それで応援を始めたんだけど。その姿が怖かった。じと目で俺を見たまま、応援をしてるんだよ。


 俺はすぐにみんなの所へ行くと、誠心誠意謝った。こう正座の形から前に倒れて、ははぁ~みたいな格好をして。


「あれは何をしているんだ?」


『ちょっとした誤解から、問題が生じたようで。坊っちゃまはモコモコ達に謝罪しているようですよ』


「謝罪? 何をしたんだ?」


『坊っちゃまは元気づけようとされただけなのですが……』


 それから俺は少しの間、小さくなって応援することになった。

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