第71話 攻撃と姉さんの優しさ、モコモコ達の注意
やっと揺れがおさまってきて、でもまだなんとなく揺れていたから、ユースタスさんに、完全に揺れが収まるまで待てと言われた。そこはちゃんと言うことを聞いておく。
まぁ、ハイハイしかできなしから、無理して動こうとは最初から思っていない。ハイハイでさえ危ないんだから。だけどモコモコ達と小さいフルフル。そして姉さんは?
自分だって怖いはずなのに、俺のことを心配してくれた姉さん。心配して声をかけてくれた後は、みんなの言うことを聞いて静かにしていたから、姉さんの今の様子が分からない。
俺はなんとかユースタスさんの腕の隙間から、姉さんが見えないか覗いてみようとした。と、その時。姉さんのあの独特な歌が聞こえてきて。
『⚪︎△◻︎*⭐︎~♪』
「……ケニーシャの歌は相変わらずだな。あれはどうにもならないのか?」
ああ、ユースタスさんは姉さんの歌を知ってるのか。というか、あの歌を歌えるってことは、姉さんは元気らしい。良かった良かった。
が、揺れが完全に収まる前に、姉さんの歌声の方はどんどんと大きくなっていって。ふと、モコモコ達と小さいフルフルを見ると……。
凄い表情をしていた。目つきはまん丸の可愛い目じゃなくて細くなり、眉間には皺が。口は少し開けて『へ』の字に曲がり、ドスが効いているっていうか何というか。
時々モコモコ達と小さいフルフルは、姉さんの歌を長い時間、休まずに聞いていると。嫌そうな、まだ終わらないのか? みたいな表情をしているけど。ここまで酷い表情を見たのは初めてだった。
そしてそんなモコモコ達だけど、何か小さな声で話しを始め、その後大きい方のモコモコが大きな声を上げたんだ。ちょっと驚いたが、大きいモコモコの後に聞こえたのはフェリーの声で、そのまた後にはルーちゃんの声が。
『ぷぴっ!! ぷぴぴ!! ぷぴ!!』
『ぴぴぴ!? ぴぴ、ぴぴぴ。ぴぴぴ!!』
『ぴゅぴゅぴゅ!? ぴゅぴゅ!!』
と、次に聞こえたのは姉さんの声だ。
『うぷっ!! ルーちゃん、なんでおくちふさぐの?』
『ぴぴぴぴぴ、ぴ~。ぴぴぴ』
『ぴゅぴゅぴゅ! ぴゅぴゅ』
何が起きているんだ? 訳の分からない俺。そして文句を言う姉さん。モコモコ達のことをすぐに理解したのは、流石のアトウットさんだった。
『お嬢様、お歌はグレンヴィル坊っちゃまのために、歌っておられるのですよね?』
『うん!! だってグレンヴィル、こわがってるもん! だからおうたをうたってあげてるの。そうしたら、こわくなくなるかも!!』
やっぱり歌は俺にためだった。俺が怖がっていると思った姉さん。歌で俺を落ち着かせようと、安心させようとしてくれたらしい。
『そうですか。グレンヴィル坊っちゃっも、きっと安心されているでしょう。ですがまだ揺れが続いております。今はもう少し静かに動かずに、揺れが収まるのを待とうと、シェリーは言っているようです。それに何か連絡があるかもしれません。その連絡をしっかりと聞くためにも、もう少し静かにしていた方が良いと』
『ぴぴぴ、ぴぴぴぃ!!』
そうそう、という感じに返事をするシェリー。
『大丈夫、もう少し静かにお歌いになっても、しっかりとグレンヴィル坊っちゃまに、お嬢様の歌は聞こえますよ。ですのでもう少し静かに歌ってくださいますか?』
『グレンヴィル、おねえちゃんのおうた、きこえる?』
「ちゃ!!」
すぐに返事をする俺。
『うん。きこえてる。あたし、しずかにうたう!!』
こうして音量を下げて歌い始めた姉さん。するとモコモコ達も小さいフルフルも、少しほっとした、やれやれって感じの表情に。
俺としては、姉さんの俺への気持ちは嬉しいんだけど、モコモコ達のとっては、少し、いや長い間だとかなり迷惑ならしい。
こんなやり取りをして数分後、ようやく完璧に揺れが止まった。相変わらず爆発音は聞こえているけど。
ふぅ、と思わずため息を吐く俺。ユースタスさんが立ち上がり俺を抱き上げ、モコモコ達が頭や肩に乗るとベッドへ移動。俺達をベッドに下ろした。
姉さんや他のモコモコ達も、俺達と同じようにベッドまで連れてこられ、少しの間ベッドにいるように言われた。そしてリズはそのまま俺達の側に。ユースタスさんとアトウットさんはそれぞれの確認へ。
もちろん俺を守ってくれているユースタスさんは部屋からは出ずに、窓から外を見たり、部屋を確認していた。
あれだけの爆発と揺れだったのに、部屋の中はいつも通りだった。物は倒れずに、水の1滴も溢れていない。それはどうしてか。全て魔法で浮かんでいたからだ。
風魔法なのか、それとも別の魔法なのか。全ての物がふわふわ浮いていて、その浮いていた物を元に戻せば、いつも通りの部屋に。
魔法ってやっぱり便利だよな。俺も早く魔法が使いたい。そして父さんや母さん、姉さん、みんなのために魔法を使いたい。で、時々自分が楽するためにも早くね……。と、まぁ、俺の事は置いておいて。
少しするとアトウットさんが戻って来て、問題はないらしく、俺達は自由にして良いってことになった。姉さんはモコモコ達と小さいフルフルと、すぐに窓の方へ。俺も遅れてだけどみんなの所へ向かった。
「ここから確認した限りだが、一瞬、数人入られたが、もう対処はすんでいるようだな」
『はい。結界が破られた瞬間、向こうは入ってこようとしましたが。1番内側の結界を一瞬で修復。入ろうとした者の数名は、その結界により消滅しました。他に残った者達も対処済みです。ですが他にも入られている可能性があるので、今確認作業中だと』
「私の気配探知では、問題はない。それにしても相変わらず強力な結界だな」
『今回は普通の結界ではありませんので』
ん? 普通の結界じゃない?
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『ふむ、今ので、アレくらいの損傷か』
『どういたしましょう』
『このまま進めろ。私は次の準備にかかる』
『はっ!!』
『……ザッカリーかられんらくがきたら、すぐに知らせろ』
『はっ!!』
まだ理由が分からないのか? やはり向こうで、私の予想外のことが起きたのか……。
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