第69話 束の間の普段通りの光景

 気合いを入れ直して、応援を始めた俺。が、すぐにダウンした。いや、頑張りすぎたんだ。急に床にべたぁっとなった俺に、慌てたリズとアトウットさん。抱き起こした俺を、それはそれは心配そうに見ていて。


 まぁ、赤ん坊が突然倒れれば、慌てるのは当たり前なんだけど。その理由が自分で分かっている俺。俺は大丈夫だと、軽く手を振ってアピールしたんだけど、その仕草が、俺が苦しんでいると誤解されて、さらに心配させてしまい。

 そんなアトウットさん達を見た俺が、また慌てるっていう。なんとも言えない状況になってしまった。


 そんな慌てる俺達に、慌てるなと言い、すぐにユースタスさんが俺の状態を診てくれて。ただ疲れているだけだと伝えてくれた。


「応援で疲れたんだろう。その前は何かを考えていたようだからな。ベッドで寝かせてやればすぐに元気になる。ついでに俺が持ってきた薬草を飲ませてやれ。そろそろミルクの時間だろう」


『すぐに用意してきますぅ』


『待ちなさいリズ!! はぁ、ミルクはここに用意してあるというのに』


 そうなのだ。俺達がこの部屋へ避難してくる時、そして避難してからも、部屋の中には色々な道具や物が、この部屋には運び込まれていて。それは木の箱に入れてあったり、貝でできている入れ物に入れられていたり。


 その中には台所用品や食べ物もあって。避難に必要なものはもちろん、みんなそれぞれ、空間魔法でしまってあるんだけど。すぐに使う物とかは部屋に出しっぱなしにしてある。という事は俺の飲むミルクも、そこに置いてあるんだけど。


 リズは慌てて、厨房の取りに行っちゃったらしい。リズは結構ドジっ子メイドだからな。ある時は俺を抱っこし、可愛い可愛いと言いながら、なぜか部屋の中をクルクル回り、掃除用具のバケツに躓き。


 俺が危ないと、俺を落とさないように魔法でベッドまで飛ばすのは良いんだが、躓き飛ばされたバケツが、その後リズの頭に。すっぽりとバケツを被り、水浸しになるリズ。


 他には良い天気だから窓を開けましょうねと、開けた瞬間、力の加減を間違えて、窓が粉々に割る。

 ミルクの時間に、俺のどこが可愛いかを延々に俺に語り掛けながら、しかしそのせいで手元がくるい、ミルクは俺の鼻の方へ。そのせいで俺の鼻にミルクが入り、俺が泣くっていう。まぁ、色々とやらかすんだ。


 だからもう少し落ち着いてもらいたいって、ちょっとイラッとする事はあるけど。でも、俺の事を父さん母さん、姉さん、モコモコ達や小さいフルフルみたいに、とっても大切にしてくれる。俺の大切なリズである。もちろんアトウットさん達も。


 リズが出ていって、仕方なくアトウットさんがミルクの準備をしてくれた。ユースタスさんの薬草入りミルクだ。それをゴクゴクと飲む俺。俺のミルクを見て、姉さん達が一緒にジュースが飲みたいと言ってきた。


 今は、俺のミルクだから、リズが戻ってくるまで少し待っていてくださいねと、アトウットさんが言ったんだけど。アトウットさんの代わりにユースタスさんが用意してくれて。ユースタスさん、申し訳ない。


 そうして俺達がミルクとジュースを飲んでいると、息を切らしたリズが戻ってきた。


『お待たせしましたぁ!! ???』


『リズ、ミルクはここに用意してあるでしょう。もう少し落ち着きなさい』


『す、すみません~』

 

『そのミルクは次回に。それとちょうど良いので、在庫の確認をして、少なくなった分を、今のうちに補充しておいてください』


『は~い!』


 リズがミルク瓶を持ったまま荷物の方へ。リズ、間違えたけど、急いでミルクを持ってきてくれてありがとう。


 こうして薬草入りミルクを飲んで、ベッドで30分も休めば、元気を取り戻した俺。さっきみたいにやり過ぎずの応援じゃなくて、普通の応援をして。そのあと後はモコモコ達と小さいフルフルと遊ぶことに。

 こんな時だからな。応援とか心配とか、少しは他の事でリラックスしないと。また、疲れて倒れて、心配かけたくないし。


 モコモコ達と小さいフルフル達は、積み木で遊びたいって言ったから、玩具箱から積み木を出してもらってみんなで遊ぶ。ちなみにみんなのリュックに入っているおもちゃやぬいぐるみは、ちゃんとしまったままだよ。


 それからリュックは、何かあった時にすぐに背負えるように、どこへ移動しても、必ず自分の隣に置いていて、今もちゃんと隣に置いてある。


 リュック。最初見た時は、みんなのリュック可愛いなぁ、で終わっていたんだけど。その後、ん? 自分で背負えるのか? って思ってさ。最初は母さん達が背負わせていたから。


 アトウットさんやリズ、みんながいてくれるから大丈夫だろうけど。もしあれだったら、俺も何とか背負う手伝いができるように、頑張ろうか? って。そう考えたんだ。リュックを支えるくらいはできると思って。


 でも、そんな必要は全くなかった。モコモコ達は片方に腕を入れると、くるっと転がってもう片方に腕を通して。しっかりと自分でリュックを背負ったんだ。この時間僅か1、2秒。


 そして小さいフルフルも、クチバシでリュックを上手い具合に上へ飛ばして、腕は万歳のまま動かずに。降りてきたリュックの腕の部分に腕を通して、完璧にリュックを背負った。こっちも僅か1、2秒の出来事。


 最初早すぎて何が起こったのか分からなかった俺。後でゆっくり見せてもらって分かったんだ。だから俺が何かをしようとしなくても、全く問題なかったんだよ。何も出来ないのは俺だけ……。


『くぅ?』


『ぷぴ』


『ぷう!!』


『くう!!』


 積み木をしながら何かを話すモコモコ達。どうもどのくらいの高さまで、積み木を積み重ねるか話しているらしい。


 後ろ足で立って、この辺までやる? とでも言っている大きい方のモコモコ。それが良いね、とでも言っている小さい方のモコモコ。じゃあ最後は自分が飛んでのっけるよ、とでも言っている小さいクルクル。


 この光景だけ見ていれば、いつも通りの光景なのに。でもこの後、そんな事を考えている暇もないくらい、周りは騒がしくなったんだ。

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