第68話 この世界の常識

『おい、こっちは大丈夫か?』


「ああ、問題はない」


『そうか、それなら良いが。グレンヴィルは随分と静かだが、どうかしたのか? 腹が痛いとか、頭が痛いとか、あるんじゃないのか?』


「私も気になり調べたのだが、何も問題はないんだ。少し前から何故か静かになってな。しかしおやつの果物煮は完食していたから、大丈夫だろう」


「そうなのか?」


 俺は今、リズに抱っこされて窓の外を見ていた。そんな俺達が居る部屋へやってきたのはフルーだ。ずっと戦ってくれていたフルー。ルスと交代で休憩に来たんだ。


 強いフルー達が現場を離れても大丈夫なのか、ユースタスさんが確認したら、ルスはその場で足を動かしたり、手を動かしたりと、物理攻撃をしながら休憩し。魔力の回復をしたから大丈夫だと。

 それと休憩した事で、体力も戻って、エルフの薬草も食べたから完璧に戻ったらしい。


 物理攻撃をしているのに、何で体力が戻るのか、ちょっと不思議だったけど、ルスが元気になってくれたのならそれで良い。それで今はフルーが交代で、休みに来たんだ。


 先にフルフル達が避難しているお風呂に寄ってきてから、俺達の所へ来てくれたフルー。フルフル達はみんな元気なようで、この部屋へ避難してから、様子を見にいけていなかったから安心した。


 でもそれとは反対に、フルーは俺を心配してくれて。今の俺はちょっと考えることがあって、静かにしていたから。あんまり静かだって心配してくれたんだ。


 俺はさっき聞いた、悪い人達について考えていた。いや、少しは様子がおかしいなとは思っていたんだ。ほら近くに見える、外で戦ってくれている人達や、屋敷の裏の方で戦っている人達が、どうやって向こうにいるはずのシードラゴンを攻撃しているのかって。


 シードラゴンはかなりと言うか、凄く凄く大きいだろう? だから街全体に覆い被さるように結界に乗りながら、結界を破ろうとしていて。そんなシードラゴンをみんなで攻撃しているのかな?と。

 あとはシードラゴンが色々な場所に魔法攻撃をして、その魔法攻撃を防ぐために、みんなが攻撃しているのかなって。


 でもそれは違っていた。まぁ、地球でも色々と、この世界と同じような、そういった問題はあるけれど。でも地球での俺の身近では、そういうことはなくて。俺、ここが異世界だってことを忘れていたよ。

 もし小説と同じような異世界なら、こういうことはもっと身近な問題だって事を。


 この世界には冒険者がいるし、騎士もいる。他にも色々と職業はあるけれど。みんなが経験する事。それは魔獣との戦いだったり、犯罪者集団からの襲撃だったり。

 そしてそんな時はもちろんみんなが戦うわけで。この世界に来てから、最初はちょっと、やっぱり感じるものがあった。


 けれど魔獣に関しては、もちろん最初はちょっとだったけど。でも狩られてきた魔獣が、解体されるのを何回も見るうちに慣れてきたし。

 この行為自体みんなが生きるためで、俺だって最近は魔獣肉をクタクタにした物を食べさせてもらっているしな。

 

 あとはこれも大切な、武器や防具に、俺達が生活するための道具にもなって。魔獣は色々なことに使われるんだ。

 そんな大切なことばかりなのに、いつまでも気持ち悪がったり、怖いがったり、嫌だなんんて、文句を言ったていたらダメだろう?


 でも、そう。俺は忘れてたよ。人とも戦うって事を。向こうで戦っているみんなは、確かにしドラゴンと戦っていたけれど、屋敷の近くの人達はシードラゴンじゃなくて、人と戦っていたんだ。


 この国を襲ってきたのはシードラゴンだけではなかった。悪い人達、半端者と呼ばれている、この国から追放された人達が。シードラゴンと一緒に、この国を襲ってきたらしくて。今のところは問題なく倒せているらしいんだけど。


 これもいつか慣れるのか。いや、きっと慣れるんだろうな。だってこれがこの世界の普通だから。だけど今の俺にとっては、初めての経験で、ちょっとやっぱり考えてしまう。


 今の体、本当の0歳児だったら、ほとんど何が起きているか分からず。そして少しずつ周りの事を知っていって、自然と全てを受け入れていくんだろう。でも俺は精神は大人だからな。


 そしてあまり慣れたくはないって思う気持ちもあるけれど。でもここで生活する上で、そしてこれからもか新しい家族と生きていく上で、この慣れはとても大切な事だ。


 そんな事実を考えていた俺は、静かの外を眺めていて。それでユースタスさんやアトウットさん達を心配させてしまった。

 姉さんも、モコモコ達や小さいフルフルも心配してくれて。父さん達やみんなを応援しているものの、俺の様子を見ながら、小さな声で応援をしていた。


 色々なことを考える俺。でも……。今、みんなは俺達や住民、みんなにために戦ってくれていて。その中には父さんや母さん、俺と知り合った人達も沢山いる。

 守ってもらっているのに、ずっとこれについて考えている場合じゃないよな。みんなに心配もかけてしまっているし。


 俺は深呼吸をしてから、フンッ!! と気合を入れる。まだまだこれからも、この事は考えていくだろう。だけど今だけでも考えるにはやめて、戦ってくれている父さんや母さん達を応援しないとな。


 気合を入れ直した俺は、思い切り腕を振って、父さん達を応援し始めた。


「あうぅ!! にょねぇ!!」


『何だ? 急に元気になったな』


『そのようですね。本当にどうしたのでしょうか』


「まぁ、元気になったのなら良いだろう」


『みんなげんき、おうえん!!』


『ぷぴっ!!』


『ぷうっ!!』


『くうっ!!』


 俺が応援を再開すると、姉さん達も元気よく応援をし始めた。父さん頑張れ!! 母さん頑張れ!! 何もできない俺に、唯一できる事。俺は応援で頑張らないと。

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