第52話 エルフのユースタスさんと突然の結界
『なおったぁ!!』
夕方、帰ってきた母さんと姉さん。姉さんは治癒師の人にしっかりと咳を治してもらって、いつも通り元気な姉さんに。そして母さんは色々と買い物をしてきて、玄関にはたくさんの荷物が。薬もしっかりと買えて、薬箱にすぐにしまっていた。
『みんなどんな様子だ?』
『みんな自分でやる事はしっかり分かっているから、準備で少しバタバタしているけど、慌てている感じはなかったわ。それにあれが移動したのは分かっているから、みんないつ結界が張られてもおかしくないって。そっちでも特に慌てていなかったわね』
『そうか、それなら良いんだ。こっちも色々決まったよ。かなりの魔獣達が協力してくれたからね。考えていたよりもかなり動きやすい』
と、父さん達が話していると、まだ俺が会ったことのない人がやって来た。
『こちらの準備も済んだ』
『ああ、助かるよユースタス』
エルフのユースタスさんって言うらしい。ユースタスさんが俺の方を見てくる。ん? 何だ? ちょっと怒っているように見えるんだけど。
『この子がそうか?』
『ああ、名前はグレンヴェル。最近ハイハイができるようになったんだ。それとこっちはグレンヴェルのモコモコ達と、新しく家族になったフルフルだ』
『どれ、見せてくれ』
何故か怒っているユースタスさんに、俺を渡す父さん。そうしてユースタスさんは、俺をしっかり抱くのではなく、体から少し離したまま、俺の体全体が見えるようにする。
そうしてじっと数秒俺を見た後、父さんに俺を戻した。何なんだと思っていると。
「ふむ、しっかりと成長しているようだな。病気は何もしていないし、筋肉もちゃんと付いてきている。それに髪の毛質も良いし、肌も綺麗だ。話しを聞き、お前達でもしっかりと人間を育てられると分かっていたが、その通りだった。何かあれば手伝おうと思ったが、必要なさそうだな」
どうも今のは、俺の体調を調べたらしい。前に、ここへ初めて来た時に調べられたのと同じか? あの時はおでこに手を当てられたけど。
『そうだろう? ここまでしっかりと育ってくれて、私もシェリアーナも、安心しているんだ。まぁ、まだ1歳になっていないから、これからも気をつけないといけないけど』
『このまま育てれば問題ないだろう。一応秘伝の薬を持ってきた。体が丈夫に育つように、エルフの里で飲まれているものだ。ミルクやご飯に混ぜて飲ませるといい』
『あの薬か! それはありがたい!! 今日のご飯から混ぜて食べさせよう』
ユースタスさんが再び俺を見てきた。
『素晴らしい家族に拾われて、そして家族になったお前は、とても運が良い。このまま彼らの愛情を沢山にうけ、立派な人間になるんだぞ。……良かったな、家族がいっぱいで』
怒っている顔と、話し方が合っていない。とっても良い事を言ってもらえたんだけどな。
『ユースタス、おかお、むってなってる』
と、急にそう言った姉さん。それから母さんにも顔が怖いわよって。
『む、これでも私は笑っているのだが』
は? 笑ってる? 俺はユースタスさんの顔を見返してしまった。どう考えても怒っている顔なんだけどな。笑ってる? いや、口が姉さんの言っているように『む』になっているし、目も睨んでるし。絶対怒っているだろう。
『私達はあなたに慣れているから、今の表情は笑っているって分かるけど、他の人が見たら笑っているのではなく、怒っているように見えるわよ。それじゃあ里の子にまた泣かれてしまうわ。誤解されないように、もう少し笑わなくちゃ』
本当に笑っているらしい。まさかの事実だった。ごめんなさい、怒っているなんて勝手に思い込んで。それでちょっと怖い人なのかと思ってさ。ただ母さんの言う通り、もう少し笑ってもらえると、怖い感じがなくなるんだが。
『それでグレンヴィル、このユースタスだが……』
なんて話しをしている時だった。突然外で花火のような音が、パンパンパンッ!! と聞こえて。その後はまたすぐに5発の花火の音が。それを聞いたと同時に、父さんがみんなに指示を出す。
『結界を張る者は全員外へ。自分の持ち場に着いたら、すぐに結界を張り始めろ!!』
1階にいた使用人さんやメイドさんが、何人か外へ出て行った。それから父さんの指示が聞こえていないだろう、2階より上にいた、使用人さんやメイドさん達も何人か下りてきて、そのまま外へ。
『アトウット、リズ、私達が結界を張る間、ケニーシャとグレンヴィルを頼む』
『かしこまりました』
『は~い』
そうして話している途中だったけど、父さんと母さん、ユースタスさんも外に出て行っちゃって。俺達は遊びの部屋へと移動。
アトウットさんに遊んでいて良いって言われて、姉さんとモコモコ達、小さいフルフルはすぐに遊び始めた。俺も一応遊び始めたけど。
海で何が起きているか分からないけど、海に異変が起きていて、その異変に何か変化があったんだろう。まさか結界を張ることになるなんて思ってもいなかった。
応援はたくさん来てくれていたけど、でもきっとすぐにいつもの海に戻って、いつもの生活に戻れるって、どこかで考えていたんだ。それなのに……。
せっかく俺は今、幸せに暮らしているんだから、またあの時みたいに命の危機なんてことにはなりたくないんだが。バカ神と話せれば、今の状況がどうなのか分かるんだが。
俺はハイハイで窓の方へ。そして窓から外を覗く。下から覗く感じになり、あまり良く見えなかったが。それでも見える範囲で外を見ていると。少しして、淡い白い光の膜みたいな物が、こうドームを包むようにあちこちから広がってくるのが見えた。
『ああ、もうすぐ結界を張り終わりそうですね。お父様もお母様もすぐにお戻りになられますよ』
とアトウットさんが、俺を抱っこしながら言ってきた。どうやらあの光の膜みたいな物が結界らしい。
結界はすごいスピードでどんどんドームを包み、最後はドーム全体に光の膜が。こんなにささっと結界が張れるなんて、どれくらいの人達が結界を張ったのか。
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