第38話 まさかの!? 水の中でもモコモコ、もふもふ?

『先ずはボールを持ってみましょう。いつものボールよりも、水に濡れて滑りやすいですからねぇ。しっかり持ちますよぉ』


『グレンヴィル坊っちゃではなく、あなたがしっかり支えるのですよ』


『もちろんですぅ』


 リズがボールを持ち、俺にそれを持たせてくれた。と、ツルッとボールは手から滑り、浴槽に当たって後ろの方へ。すぐに姉さんが取ってくれた。うむ、これは確かに。


 流石にもう俺は物を持つことができる。物によっては、かなりしっかりと。父さんでも俺から奪えないほどに。

 いや、手の動きの練習になると思って、おもちゃでよく遊んでるんだよ。これがけっこう大変で。父さん達はただ遊んでいるように見えるけど俺は真剣だ。


 最初のうちは、なかなか持てなくて大変だった。持ててもすぐに落としちゃったりな。でも最近はしっかり持てていて。


 時々練習をしている時に、父さんや母さんが、そろそろ寝る時間だとか食事だとかで、俺からおもちゃを取ろうとして。その時ちょうど良いと思って、おもちゃの引っ張り合いをね。

 それで最近は時々、父さんでも難しいくらい、おもちゃを引っ張れることがあるんだ。


 でも今回は、水で濡れて滑りやすいボール。持った瞬間に滑って落としてしまった。モコモコと遊びながら、これも良い練習になるかもしれないな。


 何回か落としちゃって、姉さんとアトウットさんには迷惑かけちゃったけど、なんとかボールを持つことに成功。後は目をキラキラさせて、水面から顔を覗かせているモコモコ達にボールを投げるだけだ。


『ちょお!!』


 今のは、いくぞ!! って言ったんだ。リズと一緒に思い切りボールを投げた俺。ボールは勢いよく? いや、そのまま浴槽の縁を転がって、ぽとんっと湯船に落ちていった。そして湯船の上をぷかぷかぷか。それをじっと見つめるモコモコ達。


 最初に動いたのは俺のモコモコ達で、2匹くっ付き、お互いの背を合わせた所にボールを乗せて。俺の近くまで運んでくれると、湯船の中で同時にジャンプ。小さなダブルしっぽでボールを俺の方へ飛ばしてくれた。それをリズがバッチリとキャッチ。

 その後2匹は俺に手を振った後、フンッと奮闘気合を入れる仕草をして、元の位置に戻った。


 ……モコモコに、頑張れ、どんまいと言われた気分だ。その後も何度かやったけど、結局縁にぶつからず、最初から湯船に入ったのは1回だけで、後半は姉さんと交代したよ。交代した時の、モコモコ達の大丈夫大丈夫、って感じのなんとも言えない笑顔。


 次の目標が決まったな。濡れて滑りやすいボールをしっかりと投げる!! 最優先の目標だ!!


 こうして俺の初めての、モコモコ達との水遊びは、なんともいえない感じで終わってしまったけれど。でもそれ以外はとても楽しかったから、大成功だと思う。それにモコモコ達がどうやって泳ぐのかも分かったしな。


『さぁ、今日はここまでにいたしましょう。もうすぐお食事のお時間ですからね。モコモコ達も上がりなさい』


『おわり! おかたずけ!!』


『そいですよぉ。お片付けですぅ』


 俺を床に敷いてある大きめの畳んだタオルの上に下ろすと、リズは姉さんと片付けを始め。アトウットさんは何枚かタオルを持ってきた。

 最初はタオルでモコモコ達を拭き、余分な水分をとったら、風魔法で乾かすらしい。その方が早く乾くからと。


 次々にモコモコ達が湯船から上がってくる。ちゃんと湯船に階段が付いているから、みんなそれを使って中から出てきた。そして俺の方へみんな集まってきて。ん? 上がって来たモコモコ達を見ていて、ある事に気づいた。


 濡れて水が滴っているモコモコ達。もちろん体全体が水に濡れて、少しテカっているんだけど。毛の多さはいつもとそんなに変わりがない?


 ほら犬でも猫でも、シャンプーをすると毛がぺたっとなって、いつもの大きさの半分に見えるけど、モコモコ達はいつもとほとんど変わらなかったんだ。泳いでいる時は手足がしっかり見えるくらい、毛が水に流れていたと思うんだけど。


 俺はちょっとモコモコ達を触ってみる事に。そっと手を伸ばせば、俺のモコモコが自分から手に擦り寄ってきてくれた。と、その瞬間ビックリした。いつもと手触りが変わらなかったんだ。


 思わず確認してしまった。でも、確かにモコモコ達は水に濡れている。なのに手触りが同じ?


『も、ぬちゃ?』


『グレンヴィル坊っちゃま、どうされました?』


『も、ぬちゃ。もも、もも』


 これで伝わるか? 今のは、モコモコ、濡れているのにモコモコ、って言ったんだけど。俺は最近モコモコ自体を『も』と。モコモコの毛の感触を『もも』と言えるようになって、それはみんなにも分かってくれているんだけど。


『ああ、そういう事ですか。フェリー』


 アトウットさんがフェリーを呼び、さっきみたいにぬるま湯を魔法で出すと、フェリーがその中へ。そして俺にフェリーを撫でてみましょうと言って、一緒に水の中に手を入れてフェリーを撫でた。すると…。


 なんとモコモコ達の毛は水の中でも、水によってサラサラになっているはずなのに。いつものモコモコもふもふの手触りと、ほとんど変わらなかったんだ。何でだ!? だって水の中なんだぞ? 濡れてるんだぞ?


『モコモコは水に濡れても、その毛並みの感触はほとんど変わらないのですよ。私共にもその理由は分かっていないのですが、全てのモコモコがそうなのです』


 なんだって!? モコモコ達はいくら長い間、しっかりと水の中にいても、モコモコ感は変わらないだって!? そんな素晴らしいことが!? 長い間研究されているが、いまだに理由は解明されていないらしい。


 まさか水に中なのに、モコモコ、もふもふ感を味わえるなんて。陸でも海の底でも、そして海の中でも、モコモコもふもふ……。なんて素晴らしい世界なんだ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る