第32話 父さん、魚に変身!?
ドームとドームの間に入った人達の所へ、いっきに水が入ってきた。よし、始めて泳いでいる所が見られる!! と思ったら、中に入った人達の家族だろうか、その人達が周りに集まっちゃって。様子が全く分からなくなってしまった。
そしてその後にも、外へ出る人達の順番の列と、その人達の家族が集まって、さらに見えなくなり。みんな、もう少し退いてくれないかな?
俺、実はみんなが泳ぐの初めて見るんだよ。庭で遊んでいて、時々外を眺めていたんだけど、1回も泳いでいる所を見たことがなくて。
地球だとなかなか見られない、あのリュウグウノツカイみたいな魚は、よく見たんだけどさ。この世界だとあの魚は珍しくも何ともないのかな? と、それは良いんだけど、本当見せてくれない?
だけどなかなか見えなくて。仕方なく見えるまで父さん達じゃないけど、順番を待つ俺。ん? あれ? 待っていた俺はある事に気がついた。列は進んでいるのに、一向に外に出た人達が少しも見えない事に。足や手くらい見えても良いんじゃ?
普通、そりゃあ出入り口付近は見えなくても、出た人達がずっと出入り口付近で止まっているわけない。次の人の邪魔になるからな。
そうなると横へずれて、父さん達を待つとか、先に少し向こうまで泳いで行くとか、そうするはずで。それなのにそういう人達の手や足が見えない。そんなみんなの姿よりも、あのリュウグウノツカイがやたら周りを泳いでるんだよな。
それからもう1つ気になることが。もう外に出た人の家族だろうか。みんな濡れた洋服を持っていた。もしかして脱いで海に出たのか? やっぱり水着を着てる?
そんな不思議に思っているうちに、どんどん列は進んで、ようやく前が見えてきた。そしてようやくしっかり見えたのは、父さんが入る前、父さんの直属の部下、フロイドさんと数人が入る時だった。
俺と姉さんはよく見えるように、俺は母さんに抱っこされたまま。姉さんは片手で母さんの洋服を掴んで。ドームにピタッと張り付く。
ドームへ入るやり方はみんな一緒。何かを呟くとドームに四角く線が入って、フロイドさん達が入っていく。その後は向こうのドームが同じように開いて、水がザバッ!! と入ってきて。あれ? 海水は? いつの間になくなったんだ?
まぁ、動きとしては、ここまでは一緒だ。洋服も同じ。と、変化はすぐに起きた。フロイドさん達がみんな光ったかと思うと、その光がフロイドさん達の全部を包み、そしてその光が消えると、何とそこには。
あのリュウグウノツカイのような魚がいたんだ。それも中に入ったフロイドさん達と同じ人数分のリュウグウノツカイみたいな魚が。俺は思わず瞬きをする。
え? フロイドさん達は? え? いつ外に出たの? 代わりに魚が入ってきた? 外に出たフロイドさん達はどこに? まさか、まさか……。あの光りはフロイドさん達があの魚に変身した時の光りで、あの魚がフロイドさん達?
軽くパニックの俺。そんな様子を母さんと、フロイドさんの奥さんセシルさんが見て。ちょっと笑っている。
俺が軽いパニックを起こしている間に、中に入っていた魚が出ていって、魚がこちらを見ると、向こう側の扉がしまった。そして内側のドームの入り口付近に居た人が何かを囁くと、バサッ!! と中へ水が。
だけどその水は俺達の方へは流れてこず、ふよふよと空中を漂い。どうも風魔法で包んでいるらしい。そしてそのまま近くの樽へ、分けて入れていた。
『ママ、おいしジュース!!』
『あれができるのは、もう少し後よ』
姉さんは樽を見てジュースと。その姉さんの騒ぎの中、セシルさんはさっきまでフロイドさんがいた場所から、フロイドさんが着ていたと思われる、海水で濡れている洋服を回収。もうさ、色々と分からないことばかりだ。完全に俺の動きは止まっている。
そして俺は固まっているけど、次は最後、いよいよ父さんが出ていく番に。父さんが俺達に向かって手を振る。ブンブンと手を振りかえす姉さん。俺の腕をもって、俺の代わりに俺の手を振る母さん。父さんは俺を見ると苦笑いしていた。
父さんがみんなと同じように中へ入る。ここからだ、ここからが問題だと。じっと目を逸らさず見つめる俺。と、フロイドさん達みたいに、父さんを光が包んだ。そしてその光が消えればそこには。やっぱりあのリュウグウノツカイみたいな魚が。
『さぁ、グレンヴィル。もう1度パパに手を振って。あのお魚さんがパパなのよ』
!!!!!!
やっぱりそうだった!! あの魚が父さんで他の魚がフロイドさんや他の人達だった!! まさかあの綺麗な魚が父さん達だったなんて!?
父さんだった魚は、中で何回か回って、俺達にしっぽを振ると完全に外へ。そして先に出ていたフロイドさん達と一緒に、向こうへ泳いで行ってしまった。
『ママぁ、あたしジュースのみたい』
『分かったわ。セシル、お茶しに行かない?』
『ええ、良いわね。グレンヴィル、やっぱりこうなったわね』
『そうね。やっぱり固まったわね。パパがいなくなった、消えたって、泣かれるよりは良いかしら。グレンヴィル、パパはもうお仕事に行っちゃったわよ。これからみんなで遊びに行きましょう』
『う』
『今日は果物のジュースを飲みましょうね』
『う』
『これは当分無理そうね』
『大丈夫よ。きっとお茶しているうちに、戻ってくるわ』
『そうね。じゃあ、行きましょうか。ケニーシャ。ママにしっかりついてきてね』
『は~い!』
俺を置いて、動き出す母さん達。え? 父さんが魚? ということは母さん達も魚ってことで。だけど変身ができて、それで海も陸でも、どっちでも生活できて。ん?
何を言われても聞かれても、『う』しかいえない俺。え? 一体どういうこと?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます