第31話 父さんの見送りの日

 そしていよいよ父さんの見送り日。父さんは普段通りの洋服を着て、荷物は空間魔法でしまってあるから何も持たずに。いつものその辺に散歩にでも行くんじゃないか、って感じで家を出た。


 そして見送りをする場所へ移動したんだけど。その前にこの国について。ここは海に生きる者達が住んでいる国。それで確かに国なんだけど。中で色々分かれていたんだ。


 ある日、俺が地図を眺めていたら、父さんがそれに気づいて教えてくれて。俺が思っていたよりもここはとても広い場所で、いくつかの街が点在していたんだ。

 人間と同じだって。大きな街もあれば、小さな街も。街と言えない少人数しか住んでいない場所もあるらしい。


 そしてこのドームの中心には、この国で1番大きな街が。人間で言うところの首都って感じかな。こうして色々な街が集まって、1つの国として、このドームの中で生活している。


 それから海に生きる者達は、ここじゃない場所にも住んでいるらしくて。ここから1番近い別の海生きる者達が住んでいる場所へ行くには、かなりの日数がかかるみたいだ。


 ちなみに、俺が住んでいるのは大きな大きな街で、このドームの中だと2番目に大きな街だって。そしてこの前、俺のことが話し合われ、モコモコ達と出会った場所が、1番大きな街だったらしい。俺が見たのはほんの一部だったんだ。


 ただ、他のドームへ行くにもかなり時間がかかるけど、今住んでいるドームの中をはじからはじまで移動するにも、やっぱりかなり時間がかかると。確か早くて20日、何かあって遅れれば、25日はかかるらしい。


 まさかの20日だった。ここがそんなに大きな国だとは思わなかったよ。しかもその全てを、このドームみたいな物で包んでいるなんて。一体どうやってるんだか。


 そんな大きなこの国。どこから外に出るのかと思っていたら、色々な所に出入り口があって。今回は家から1番近い出入り口からの出発らしい。父さんにはたくさんの部下がいて、その人達もそこへ集まって、みんなで一緒に外へ出るんだ。


 が、先ず家の敷地から出るのにかなり時間がかかった。庭で遊んでいたけど、ここまで敷地が広いとは思ってなかった。門を出るまで10分以上かかったんじゃないかな? 

 来た時は寝てたし、その後も買い物に出る時は、馬車のカーテンがしまっていて、気づかなかったんだよ。もちろん帰ってくる時は、俺は疲れてぐっすりだしな。


 でも今回は窓を開けての馬車での移動だったから、門までがどれだけ遠いかよく分かった。そして俺が散歩していた庭が、ほんの一部だったってことも、よ~く分かった。あれは絶対迷子になるやつだ。


『さぁ、着いたぞ』


 流石に1番近い出入り口。ささっと到着して、俺達は馬車を降りる。そして少し移動すれば、そこにはかなりの人数が集まっていて。そしてその中で1番背が高くて、がたいの良い男の人が、父さんを見て他の人に声をかける。


『キュルス様がいらしたぞ!!』


 そうしてみんなが父さんに挨拶をする。この国での偉い人に挨拶をする時、例えば仕事場とか、何か集まりがある時は。ピシッと立って、左手を後ろに。右手でグーを付くって、胸に当てる。これが偉い人への挨拶だ。


 こんなにたくさんの人の挨拶は初めて見たよ。全員で30人くらいかな? この人数でこれから調査に行くんだ。

 

 父さんへの挨拶が終わると、いよいよ出発ってことで。それぞれみんな家族が挨拶をして。その時にさっきのガタイの良い人と、女の人が俺達の所へ。


『キュルス様』


『お久しぶりです』


『準備はしっかりと』


『ああ。今回はこの間よりも危険は少ないが、何があるか分からないからな。そういえば。フロイドもセシルも、グレンヴィルは初めてだったな。俺達の家族になったグレンヴィルだ』

 

 父さんが俺を紹介する。後で分かったことだけど、フロイドさんは父さんの直属の部下で、かなり長い間の付き合いらしい。


『初めましてグレンヴィル様』


『初めまして。小さいのね、触ったら怪我させてしまいそうだわ。うちが大きすぎたのも小さく見える原因かしら』


『確かに同じくらいの私達種族の平均よりも、小さいかもしれないわね。でも、とっても元気なのよ。この前初めてハイハイをしたの』


『あら、そうなのね。ハイハイができたらこれからが大変ね。小さい子は私達が思っている以上に動き回るものね』


『ふふ、そうなのよね。でもそれが楽しくもあるのよ』


『そろそろ意思疎通も?』

 

『ええ、なんとなくね。それから……』


『あ~、そろそろ移動するが』


 話しが止まらなくなりそうだと思ったんだろう。父さんが母さん達を止めて。母さん達は、あら、そうねって。


『パパ、行ってらっしゃい!!』


『ぱぁ! しゃ!!』


『グレンヴィルとケニーシャの見送り……』


 父さんは俺達家族を抱きしめた後、ニヤニヤしたまま向こうへ。うむ、喜んでもらえたようで良かった。

 そうして、今度は父さんが前に立ち、さっきはバラバラに並んでいたけど、今度は綺麗に整列をした父さんの部下達。父さんが出発の挨拶みたいなのを済ませると、まずは部下の人達から外へ出て行く。

 

 俺は入り口はどんなかなと首を伸ばしたけど、どこにも入り口みたいな物は見えない。一体どこに入り口があるのかと思っていると。先頭の部下の人が何かを呟いた途端、ードームに四角く光の線が入って、その四角い部分が横にずれたんだ。


 そして数人がそのドアから向こうへ。そこで気づいたこと。俺が1枚だと思っていたドームは2重になっていた。だから手前のドアが閉まると向こうのドアと合わせて、四角い空間に部下の人達が入ることに。


 そして向こうのドームに向かって、さっきみたいに何かを囁くと、また四角い線が現れて、中に海の水が。なるほど、こうやって出入りの時に、ドームの中へ水が入らないようにしているのか。でも帰ってきた時はどうするんだろう? それに次の人達の時は?


 他にも、よく考えたらそのひらひらな洋服を着たまま外に? 水着とまでは言わないけど、それ用の洋服? か何かはなにのか?


 そんな疑問だらけの俺に、


『さぁ、グレンヴィルがどんな反応をするか。気をつけておかないと』


 そう母さんが言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る