第16話 モコモコに対する悪意と、海のドームの不思議

『それにしても驚いたな。今日中に1匹決まるか、何日かかるかと思っていたが、すぐに決まっただけじゃなく、2匹も選んでくれるとは』


『そうよね。私もビックリしたわ。でもグレンヴィルを選んでくれて嬉しかったわ。人間だからもしかしたらと思っていたのよ』


『ああ。この子達は基本海にしかいないからな。地上でも見かけるけど、私達のような関係を、皆が築いているかといえば、残念ながらそうではないからな。もちろん私達全員がそうかと言われると、それも違うが』


『そうはいないけれどね。そんな感情の持ち主が多い場所には、この子達は近づかないし。生まれてすぐでも、大人に教わっているのかそれは分からないけれど、危険を察知する能力が高い。だからか、人間にはそう簡単に近づかないし』


『グレンヴェルはまだ生まれたばかりの、何にも染まっていない純粋な子供だから、この子達も選んでくれたのかもな』


『そうね。良かったわねグランヴェル』


 ごめんなさい。俺はそこまで純粋じゃない。そう、体は赤ん坊でも、心は大人なんだ。そして俺は今でもモコモコ達のことを考えてニコニコなんだ。


 それで父さんと母さんの話し、たぶんこの可愛いモコモコ達を、色々利用しようとしている人間達が多いってことなんだろうな。そしてそんな人間達と同様、父さん達の国にも、そういう人達はいて。


 そういった人間達の負のエネルギーじゃないけど、そういうのをモコモコ達は感じとって、その感情が多い場所には近づかないんだろう。それでもそんなモコモコ達を無理やりっていう人達が居るって話しで。


 なんて奴等だ。こんな可愛い子達を、自分のために利用しようとするなんて。そんな奴らを見かけたら、俺がどうにかしてやるのに。……今は無理だけど大きくなったらきっと。うん。


 でもそんな。人を選ぶモコモコ達が、俺を選んでくれたなんて。しかも1度に2匹のモコモコが選んでくれたなんて。2匹とも、俺を選んでくれてありがとう!!


『さて、この子達の名前だが』


『今はモコモコか、おチビちゃんで良いんじゃないかしら。せっかくグレンヴィルを選んでくれたのよ。この子達だってグレンヴィルに名付けて欲しいんじゃない? ケニーシャの時もそうだったでしょう?』


『そうだな。お前達もそうしたいか?』


 父さんが2匹に声をかけると、それぞれの鳴き声が聞こえて。どうやらそうだと返事をしたらしい。やっぱりモコモコ達は人の言葉が分かるのか?


『はは、分かっているのかいないのか。返事をしたってことは、そうだと言っているんだろう。じゃあ名前は、グレンヴィルが成長して、色々と理解できるようになってからにしよう。それまではそうだな、分かりやすいように、大きい方がそのままモコモコ。小さい方はおチビちゃんと呼ぶことにしよう』


 俺が成長するまで名前は待ってくれるらしい。これは責任重大だ。俺を選んでくれた2匹には、2匹が気に入ってくれる名前をつけなければ。

 よし、少しの間は動けないけど、それでもこの世界のことを勉強しないといけないから、落ち着いたら考えておこう。その時になって、いきなり考えることになると、変な名前になるといけないからな。


 外に出て再び建物が多い場所へ戻ってくると、あたりが暗くなってきたことに気づいた。そして建物には灯りが灯り、建物以外にもたくさんの灯りが灯っていて。

 バカ神はここを国と言っていたけれど、1つの国なのか。それとも他にも海には国があるのか。それに街や村もあったりするんだろうか?


『かなり暗くなってきたわね。帰ったらすぐにグレンヴィルの用意をしつつ、モコモコ達をフェリー達に対面させて。それから夕食を食べて。グレンヴィルのことをしていたら、すぐに寝る時間時なってしまいそうだわ、でもその準備も楽しいから良いのだけれど』


『今日は私がケニーシャを寝かしつけよう。君はグレンヴィルに付いてあげていてくれ』


『ママ、あたしいっしょに、ねちゃダメ?』


『そうね。今はまだダメね。もう少し大きくなったら、時々一緒に寝て良いわよ』


『うん!!』


『当分の間忙しそうだな』


 母さんは今朝って。暗くなるのと朝ってことから、暗い海の中のはずなのに、昼、夜がありそうだ。うん、ここも地球と同じだな。ただ本当さっきは明るかったしな。一体ここはどうなっているんだろう。それに……。


 俺は思わず手を上に伸ばした。この国を水から守っているドームみたいな物。周り全部が透明なドームではないけれど、透明な部分が多く。そこから見える海が、光りに反射してキラキラ光り、とても綺麗だった。


 しかもそのキラキラの中を、たくさんの魚が泳いでいて、水族館にいるようで、とても楽しいんだ。まぁ、時どこ魚以外の物も泳いでいるけれど。たぶんあれはこの世界の生き物なんだろう。


『あっ! パパ、ルーカーがいる!!』


『本当だ。ルーカーとは珍しいな。あの魔獣の種類は、なかなか見られないからな。ただ最近は少し目撃情報が多くなっているが』


 え? どれがルーカーだって? それに魔獣って。そうか、これも小説と同じか。ああいう生き物を魔獣って言うんだな。海の魔獣に、たぶん陸上にも魔獣がいて。魔獣と戦ったりするんだろうか? 俺にできるのか?


 と、思いながらも、綺麗な海を眺めていると、今回見た魚の中で、1番綺麗な魚がいっぱい泳いできた。いや、魔獣なのか? ちょっと分からないが、本当に綺麗な生き物で。姿や形は、リュウグウノツカイという魚に似ていた。


 ただこっちの生き物の方が、キラキラと光っていて。その生き物が泳ぐ度、泳いだ所にキラキラが少しの間残っては消えて。それもまたとっても綺麗だった。

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