第11話 可愛いモコモコボールのモコモコ

 え? モコモコボールが動いた? 柵の中、1番俺と母さんから離れた、端っこに置いてあったモコモコボール。そのモコモコボールがピクリと動いた後、俺と母さんの方へ向かって動いてきたんだ。


 こう転がる感じじゃなくて、そのまま移動してきたって感じだ。モコモコでもこれだけボールみたいなら、コロコロ転がりそうなものだけど、地面をスススッ、スススッて移動してきて。そして俺達の前でピタッと止まった。


『やっぱり動いたのは見間違いじゃなかったわね』


「ばぶ?」


 何が? そう言う俺に、母さんは俺が何て言ったか分からないだろうけど、俺にそのまま静かにしていられるかしら。すぐに終わるはずなんだけどと。俺に分からないことを言ってきて。でも母さんの言う通り、俺はそのまま静かにしていることに。


 が、ここで静かだった建物の中に、姉さんのヘンテコな歌が。姉さんのテンションが上がってしまったらしい。慌てている父さんの声が聞こえて。父さんと姉さんは建物の外で待っているって。その言葉を聞いた後、すぐの歩いていく音が。

 

 こうして父さん達がいなくなれば。再び建物の中は、しんっと静まり返った。


『こんにちわ、私の名前はシェリアーナ。この子の名前はグレンヴィルっていうの。今日は新しい家族に会いにきたのよ』


 母さんがモコモコボールに向かって話し始めた。


『実はこの子も、新しい家族になったばかりなの。もしあなたが私達の、グレンヴィルの家族になってくれたら、私達はとっても嬉しいわ』


 母さんはそこまで話すと。また話すのをやめて、静かにモコモコボールを見つめる。俺もモコモコボールを見つけて。もしかしてこのモコモコボールは、本当の何かの生き物?


 と、モコモコボールがまた動き始めて、今度は俺のすぐ側まで移動してきてピタッと止まった。そしてふよふよと動いて。それはまるで、犬や猫、動物が匂いを嗅いでいるような動きで。


 その動きが止まると、また少しの間動かなくなったモコモコボール。次の動きを待つ俺。そうして次の動きは。

 モコモコボールが、俺に触れるか触れないかくらいまで近づいてきて、その後モコモコボールからヒョコッと。本当に小さい突起が出たと思ったら、モコモコボールがその突起を、俺の手にくっつけてきた。


 こ、この感触は!? 周りはモコモコ、でも俺の手に触れている部分は、ひんやりしていて、そしてすべすべしている感じも。これは俺が小さい頃に飼っていた、犬の肉球とそっくりだ!! もしかしてこれはこのモコモコボールの手なのか?


 肉球の感覚に感動する俺。そして次の瞬間、モコモコボールから。


『ぷぴっ!!』


 可愛い鳴き声が聞こえたんだ。やっぱりそうなんだ!! このモコモコボールが、モコモコっていう生き物なんだ!! なんて可愛い声なんだ!! それに前足? を出しているこの姿。目は? 目はどこに? 耳は!?


『ばぁぶ!!』


『ぷぴぃ!!』


『とりあえず、第1段階は大丈夫そうですね。まさか最初から寄ってくるとは』


『ええ、寄ってくるだけでも2、3日かかるのが普通だものね。上手くいけば半日くらいかしら』


『もう少し様子を見てみましょう。こちらへ』


 お店の人が俺の前にいるモコモコを抱き上げようとする。するとモコモコがジャンプして俺のお腹の所へ。一瞬おっとっと、と落ちそうになったけど、なんとか踏ん張って、その後前足? をあげてぷぴっ!! と鳴いた。


 な、なんて可愛いんだ!! 


『あらあら、これはもう大丈夫そうな感じね。でも一応は確認しないと』


『いやぁ、長くこの仕事をしてますが、ここまで最初から懐くとは』


 モコモコが俺のお腹に乗ったから、母さんはモコモコも落とさないように、そっとそのまま立ち上がって。入り口近くに置いてあってテーブルの方へと向かった。そして椅子に座ると、モコモコがテーブルに飛び乗って、また手をあげてぷぴっ!!と鳴いた。


『グレンヴィル、この子はモコモコという、海に住んでいる生き物なのよ。海の中をスイスイ泳いだり、陸の上をちょこちょこ移動するの。ボールに見えるけれど、あなたと一緒で手も足もお目々もちゃんとあるのよ。ふふ。説明しても難しいわね』


『目や足を見やすいようにしましょう』


 そうお店の人が言うと、モコモコの上の方のモコモコした毛をまとめて、可愛いリボンでまとめた。そうすると、俺が考えていた通り、まん丸の可愛いつぶらな瞳が現れて。


 そして毛をまとめたおかげか、耳も見えやすくなって。耳はクマのように丸い耳で、サイズはモコモコサイズだからとても小さく、耳もとっても可愛い耳だった。たまに動く耳がまた可愛い!


 それからお店の人はモコモコを抱き上げると、下の方の毛を動かして。そこには小さな小さな手と足が。とっても小さな手足で、犬や猫と変わらなかった。俺を触ったのは。やっぱり前足だったよ。


 そして後ろを向かせたお店の人。たぶんこのまま、基本的な生き物と同じなら、もちろん後ろはお尻で、しっぽがあるはずだけど。お店の人が毛をどかして。そこに見えたのは。

 しっぽはしっぽだったんだけど、魚のしっぽみたいな物がついていたんだ。しかもそれにモコモコが付いている感じ。


 俺はそのモコモコしっぽも、可愛いって思ったけど。さっき母さんは、海の中をスイスイ泳いだり、陸の上をちょこちょこ歩いたりって言っていたよね。

 陸はまぁ分かるけど、こんな体がモコモコで、しっぽもモコモコ。これで海をスイスイ泳げるのかと、ちょっと疑問に思った。スイスイじゃなくて、溺れているんじゃ? こんな可愛い生き物が溺れていたら大変だ。


『モコモコは、このしっぽを使って、とっても上手に泳ぐのよ。みんなモコモコで可愛いでしょう?』


 本当に? モコモコが可愛いのは、俺もそう思うけど。でも泳ぐっていうのがどうも。まぁ、もし俺が見て泳ぐのがダメだと思ったら、絶対に泳がせないけどね。


『さて、少しこのまま、2人の自由に』


『ええ』


『こちらを』


 お店の人がテーブルにタオルケットのような物を引いてくれて、そこへ俺を寝かせる母さん。テーブルの上には俺とモコモコが。ああ、自由に動けたら、すぐにでも抱きしめるのに!!

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