第10話 モコモコボール

 どんどん進んでいく俺たち家族。そううち建物ばかりの場所を通り過ぎて、少なくなってきた建物の場所も通り過ぎ、ついにはぽつんぽつんと、建物が建っている所まで来てしまった。人もそんなに歩いていない。


『ばぶぅ?』


 何処に行くんだ? 思わず声を出せば、良い子に出会えると良いわね、と母さんが。そして姉さんは父さんの手を引っ張り、早く新しい子に会いたいと。だけど父さんは、まだ今日決まるわけじゃない。もしかしたらもっと後になるかもしれない。


 なんて、そんな会話をして。でも母さん達のさっきの話だと、ちょうど良いから連れて行く? みたいなことを言っていなかったけか? それと父さんの話しを合わせれば。上手くいけば今日連れて行けるって事だったのか?


 本当にこれから誰に会いに行くのか。まさか…。この世界は小説の世界と似ているからな。奴隷……、なんてことはないよな? 俺、別は奴隷は。


 そんなことを考えながら、ついた場所は農場のような場所だった。


『おや、いらっしゃいませ、キュリス様、シェリアーナ様。ケニーシャも久しぶりだね』


『この前の調査以来だな』


『ええ』


『その後、あの子達の様子は?』


『みんなかなり元気になりましたよ。この調子なら、あと少しで自然に帰せるでしょう』


『そうか、それは良かった』


『それで今日はそのことで? それとその赤ちゃんは? 皆が話していた人の子ですか?』


『ああ。うちの家族になることに決まってね。それでモコモコを買いに来たんだ』


『そうだったのですね!! お名前は』


『グレンヴィルだ』


『そうですか。グレンヴィル、良かったですね。とても素敵な家族と出会えて』


『それでこの子と一緒にいてくれる、モコモコを見に来たのだけれど』


『ではこちらへ。新しくこの前生まれた子達もいるんですよ』


 お店の人について、一緒にお店を出る俺達家族。今、父さん達モコモコって言ってたよな。モコモコ? なら奴隷じゃないよな? まさか奴隷のことをモコモコとは言わないはず。言わないよな?


 もしそのまま、地球と同じ言葉として考えると。モコモコは言葉通りモコモコして何かで、そのモコモコが姉さんのルーちゃん? そう言えばバカ神は、もうすぐもふもふに会えるって。モコモコ、もふもふ……。え? もしかしてこの世界で初めてのもふもふに会える!?


 思わず動こうとする俺。それでも動かせたのは、相変わらず手と足だけだったけど。それでも俺が今までで1番動いたからか、母さんを少し不安のさせてしまったらしい。

 俺が何かを嫌がっていると、もしかしたら怖がっているのかもと。それで今日はモコモコを見るのをやめた方が良いかしら、なんて言われてしまい。


 でもその間違いを教えてくれたのが姉さんだった。俺が喜んで暴れているって、母さん達に教えてくれたんだ。こうして姉さんのおかげで、俺は何かが嬉しくて鼻息が荒いだけ、と話しがまとまり。なんとかモコモコを見ないで帰る、ということを回避できた。


『何匹くらい生まれたんだ?』


『15匹です。いつも通り年齢で分けてありますから、それぞれ見てもらって。合う子がいればその子を。ダメな時は次回ですね』


『大体は2~3回目で決まるからな』


 そうして移動した場所は。牛舎のような場所だった。そこには牛舎のような物が8個並んでいて、俺達が会いに来たモコモコは1番手前の牛舎にいた。


『さぁ、お入りください。手前から奥へ年上順に並んでいます。1番奥が、生まれたばかりの子達です』


 お店の人にドアを開けてもらい中へ入る俺達。すぐになんとか周りを確認しようとする俺。でも見えたものは丸いモコモコした、ボールのような物だけだった。何処にそのモコモコがいるのか。


 父さん達は柵ごとに止まり中を確認する。でも俺が見える範囲では動いている生き物は全く見えず、何処かに隠れていて、自由に動ける父さん達にしか見えていないのか。そのせいで俺は、何度も見せてくれるアピールをすることに。


 だけど今回は、俺の意思を分かってくれる姉さんはモコモコの夢中らしく、俺のアピールに気づいてくれず。しかも父さんや母さんまで、可愛いなぁ、あの子は凄く良いわね、などなど喜んでモコモコを見ていて。俺はずっとアピールをすることになってしまった。


 そうして俺の体力が尽きようとした時、俺達は建物の1番奥へと到着した。え? もう終わり? 俺まだ何も見てないんだけど。父さん達が喜んで終わり? 俺のモコモコを見に来たんじゃないの?


 俺は最後の力を振り絞ってアピールをする。と、今まで騒いでいた父さん達がピタッと止まり、話しもやめた。俺は不思議に思い手を動かしながらも母さん達を見た。

 すると父さんは驚いた顔を、母さんはニコニコしていて。姉さんは柵につかまりジャンプしていた。とってもキラキラな目をして。


『これは……』


『あらあら、まぁまぁ』


『パパ、ママ、あのモコモコがかぞく!?』


『今、柵を開けますね』


『ケニーシャ、少し下がっていなさい。グレンヴィルのモコモコだからな。先ずは2人が対面しないと』


 父さんが姉さんを柵から離して、母さんはお店の人に柵を開けてもらうと、そっと柵の中へ。そしてこれまたそっとしゃがみ、首が座っていない俺を、うまい具合に抱き直して、今までよりも周りが見えやすいようにしてくれた。


 そして見えた物。それはやっぱりモコモコのボールだった。奥にもモコモコボールが。そう、他の場所見ていた、モコモコボールしかなかった。


 違うところと言えば、最初に見たモコモコボールよりも小さいってことくらいか。あとは他のモコモコボールは色々な色をしていたが、奥に来るに連れて色は薄くなり、この1番奥のモコモコボールは、真っ白のモコモコボールしかないってことくらいで。


 モコモコどこだ? 俺は手を動かしながら、何処にモコモコがいるのかアピールしようとした。と、その時だった。俺はそれを見て、動かそうとしていた手を動かすのをやめたんだ。

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