第10話 血統チート対武力チート 後編
鎧兵器の出力ではこちらが圧倒している。
確殺する為に、攻撃の手数も増やして
「("スルト"のおかげで)未来がよく見える……」
とか言って
魔法による身体強化も万全だ。
反応速度、思考加速、並列思考、空間認識能力……その全てにおいて能力を拡張した私と『
ところがだ。私の繰り出した全方位からの即死級の出力の攻撃を、シグルドの変態的な機動力を持つ鎧兵器"グラム"はあっさりと防ぎ切りやがった。
恐ろしい回避技術を見せつけられた。
戦闘機のような姿の機動力特化型の形態と、人型に近く武装を使える二つの形態に自在に切り替われる形態変化能力を巧みに駆使して全ての攻撃に対応してみせたのだ。
『戦闘形態変化』
それが、鎧兵器"グラム"の強みとも言える力だろう。
単純な鎧兵器が持つ力というよりは、シグルドという化け物が乗ることでようやく力を発揮する厄介な能力といった感じだ。
人型の『通常形態』
戦闘機のような機動特化の姿になる『高速機動形態』
"スルト"によると、他にも、まだ見れてはいないが、『砲撃戦特化形態』や『近接戦特化形態』など複数の特殊な形態があるらしい。
この厄介な力によって、私とシグルドの戦いは、性能差がないかのような互角の戦いになっていた。
空を旋回する十二機の
一撃一撃が『
しかし、その合間を縫うようにシグルドの"グラム"は高速で回避行動をとる。
すると、魔力砲の雨は掠りもしなかった。
全部避けられた。
でも、今度こそ終わりだ。
「これは、流石に避けられないよね!」
もう、並の攻撃が避けられるのはわかっている。
なら、絶対に避けられない攻撃を撃てばいいだけのこと。
『軌道予測完了』
本命はこっちだ。
「堕ちろぉ!」
未来予測に従った正確無比な狙撃を叩きこむ。
十二機の
避けたら
避けなかったらこの一撃で終わり。
勿論、防御壁で防げない出力だ。
確殺の一撃だ。
「終わりだ……はあ!?」
シグルドの"グラム"が止まった。
そして、潔く死を受け入れる……ことはなく、狙撃の魔力砲を正確に
——避けられないなら斬ればいい。
まるで、そう言っているようだった。
確かに、防御壁で受けれない攻撃も高密度のエネルギーの塊である光剣武装でなら受けられる。
でもさあ……。
「
もう無茶苦茶だ。
シグルド・ムスペルヘイム。
まさに、戦う為だけに生まれてきたような天性の怪物。
人外の技量といい、明らかに戦う時だけに発現する第六感的なものを持っているとしか思えない超越した強さだ。
『フリッカ様も頑張れば斬れますよね』
「……極限まで集中してやっと出来るかどうかだよ。なのにあいつは、
こちらが、チートガン積みで挑んでも、それを素のポテンシャルだけであっさりと凌駕されるなんて。
あまりにも理不尽すぎる……!
「さては、肉体をサイボーグ化でもした人外だろ!」
『いえ、シグルドの生体反応に特に異常はみられません。魔力による能力の拡張もありますが、限りなく生身の実力ですね』
「化け物だよねそれ!?」
これは、あれだ。
ロボットアニメによく出てくる、一人だけ飛び抜けた戦闘力を誇る武力チートキャラだ。
そんなのにどう勝てと!?
もう、敵が強すぎて発狂しそうだ。
「……一応聞くけど、スルトに乗った私なら勝てる?」
『当然です。瞬殺可能です』
「勝ち方は?」
『瞬時に行う最低出力の攻撃により、半径五十キロ範囲ごと跡形もなく焼却します』
「駄目じゃん」
やっぱり"スルト"は使えない。
最低火力でこれだ。
どう考えても目立ちすぎる。
……こうなったらやむをえまい。こちらも、切り札を切るしかない。
「奥の手の初見殺しで仕留めるよ。"スルト"今すぐ、次元跳躍の準備を始めて」
『かしこまりました。
こうなったら覚悟を決める。
下手をしたら一発で秘密がバレて破滅しかねない奥の手を使ってやる。
「……武力バグチートシグルド皇子。"スルト"本体を使わない限り、私では貴方に正面戦闘では勝てないだろう。だから、ちょっと卑劣だけど、アースガルズの王族の私にしか引き出せない星間文明の鎧兵器が持つ真の力によって倒させてもらおう」
奥の手を使うために、とにかく近づけさせないよう即死級の砲撃の雨を降らせながら時間を稼ぐ。
高速で移動しながらの激しい魔力砲の撃ち合いが展開される。
それにしてもとんでもない化け物だよほんと。
だというのに、シグルドの"グラム"ときたら完全な死角からの砲撃を余裕で回避。
避けられない砲撃を、光剣で斬ったり、ピンポイントで砲撃を当てて相殺したりと人外の技量でやりたい放題してやがる。
こっちの攻撃がまるで通じない。
こいつ、やっぱり人間じゃない。
もう嫌だ。一刻も早くこの人外との戦いを終わらせたい。
『座標計算完了しました。これにより短距離次元跳躍がいつでも可能です』
「……!じゃあ、今から迫真の隙を作るからお願いね"スルト"」
ナイスタイミングだ。
私は、激しい砲撃の撃ち合いの最中、ほんの少しだけ反応が遅れたように見せかけて敵の——"グラム"の放った砲撃に機体を掠らせた。
砲撃が掠ったことで、今まで全く隙を見せてこなかった私の機体の——"エインヘリヤル"のバランスが僅かに崩れる。
均衡が(意図的に)崩れた。
さあ、引っかかれ……頼むから引っかかって下さい!!
その時だった。
——今!
シグルドの勝ちを確信したような声が聞こえた気がした。
"シグルド"の乗るグラムがこちらに向けて一気に加速し、端末型攻撃武装の砲撃を意味がわからん挙動で避けて突貫してくる。
かかった!
『敵鎧兵器が近接戦特化形態に変化しました』
機体同士の距離が縮まる。
すると、突っ込んで来る"グラム"の姿が変化した。
新たに生えた四本の腕に光剣武装を装備した、近接戦に特化した形態へと変化する。
光剣武装四刀流。まるで、グリー◯ァス将軍みたいだ。
しかし、そのトンチキな見た目とは裏腹に、シグルドの卓越した操縦技術と組み合わさった力は圧倒的だった。
展開された四本の光剣は、洗練された太刀筋を描き、端末型攻撃武装から放たれる魔力砲の一撃一撃を完璧に受け止め、まるで舞い踊るように全て薙ぎ払いやがった。
あまりのぶっ壊れ具合に、もう何か特別な力でも感じとっているんじゃないかと思った。
私はその理不尽さから、シグルドについて考えるのを辞めた。
『敵鎧兵器の光剣武装の間合いに入りました』
接近を許してしまった。
こっちも慌てて光剣武装を起動するけど、勿論防ぐのには間に合わない。
これが、こちらの意図せぬ事態だったら完全に詰んでいただろう。
しかし、これは敵を詰ませる為に私が意図して作り上げた状況だ。
「待っていたよ、この時を!」
シグルド皇子の機体、真紅の鎧兵器"グラム"の手に輝く光剣が迫る中、私は鎧の操縦席で恐怖からくる笑みではなく、勝ち誇った笑みを浮かべた。
「終わりにしよう……"スルト"!!」
『次元跳躍開始。目標、敵鎧兵器"グラム"後方』
一瞬の出来事だった。
完全に"グラム"の光剣が届こうとした刹那の間に、私の乗る"エインヘリヤル"は"グラム"の背後へと次元を超えて移動した。
星間文明の兵器である"エインヘリヤル"に積まれている
この遠く離れた星々を行き来する為に積まれた装置は、戦闘時には瞬時に短距離を瞬間移動する手段としても使うことが出来る。
魔法という物理に喧嘩を売っている謎の技術まで組み込まれている超古代文明の装置だから詳しい仕組みはよくわからないが、まあ、ワープに近いものだろう。
この次元跳躍装置の力を引き出せるのは、現在この星で唯一人私しかいない。
今この星に残っている古代人の血を持つ者の先祖は皆、この星で生きて終わることを選択した人達だ。
当然、星を出る為の装置の起動権など放棄してしまっている。
でも、王家のご先祖様だけはこの星から出る為に起動権を放棄しなかった。
王家はあくまで残った人々を見守る為に残っただけ。別にこの星で終わりたい訳ではなかった……らしい。
だから、役目を終えた王家の末裔が、いつかこの星から出たいと思った時の為に装置の起動権も残してくれていた。
ゆえに
さて、そんな私以外に誰も起動権を持っていない力を、果たしてシグルド皇子は警戒するだろうか。
答えは否だ。たぶんシグルド皇子は今、目の前の鎧兵器に突然次元跳躍をされて消えるという未知の異常事態に遭遇して困惑していると思う。
これぞ、まさに究極の初見殺しだ。
如何に武力チートのシグルド皇子といえど、流石にこれは予想外だっただろう。
そして、ほんの一瞬、動揺したのか隙を生んでくれた。
あの武力チートのシグルドの乗る"グラム"が、一時的に目標を見失って動きを止めたのだ。
最も待っていた瞬間だった。動揺している今なら、武力チートの人外の反応速度でも間に合わない意識の外からの攻撃が出来る。
「チェックメイト」
背後への次元移動を成功させ、鎧兵器"グラム"に光剣を突き刺すことに成功した瞬間、私は喜びを爆発させるように笑った。
結構卑劣だけど勝ちは勝ちだ。
ついに、"帝国最強"を討ち取った!
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勝者こそ、正義だ!(ゲス顔)
次回は、武力チートことシグルド皇子側からの視点で書きます。フリッカが派手に血統チートやってる敵視点をお楽しみに!
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