第9話 血統チート対武力チート 前編
『いいかシグルド。お前の実力なら問題ないとは思うが、念のためだ。次の三人の鎧兵器操縦者には注意しておけ』
鎧兵器"グラム"の操縦席。
投影された追ってくる敵の鎧兵器の姿を見ながら、端正な顔立ちの青年——ムスペル帝国第二皇子シグルド・ムスペルヘイムは兄シグムンドから作戦前に言われた言葉を思いだしていた。
『ミズガル王国最強の騎士、シャルル・グウィディオン。かつて、我が帝国の中でも指折りの鎧兵器操縦者だった男、ヘグニ・バーサーク。そして——』
「フルングニル伯爵を討ち取った"英雄"フリッカ・アース……か。この三人の内、シャルル・グウィディオンは国王の護衛。ヘグニのおっさんなら感覚でわかる。ならば、今回の敵で可能性が最も高いのはフリッカ・アースとかいう女だろう」
背後から"グラム"を上回る速度で迫る青い光を放つ敵に対して、シグルドは好戦的な笑みを浮かべた。
シグルドの直感が告げていた。
敵はただものではない。
間違いなく歯応えのある相手だと。
そして、何より、シグルドの身体を駆け巡る血が激しく騒ついていたのだ。
シグルドにとっても、これは未知の感覚だった。
敵機との距離が近づくにつれ、高揚からかその心臓の鼓動も激しくなっていく。
「……ここまで血が沸るのは初めてだな。殺るぞ"グラム"」
未知の感覚に身を任せ、シグルドは機体を加速させる。
敵の鎧兵器へ。
青い輝きと共に神々しい光輪を展開する未知の敵へ向けて"グラム"の矛先を向けさせた。
「
特殊型鎧兵器"グラム"。
その人型形態の見た目は、搭載されている炉心が複数あるためか、少しサイズが大きく、全身の色が真紅に染められている。
また、背部には巨大なスラスター、機体各部には細かな制御の為のバーニアが取り付けられていた。
そして、最大の特徴。
機体脚部の地に立つための足が完全に取っ払われていることだ。
足だった部分には機動力を向上させるための脚部スラスターが取り付けられている。
どうやら、機動力を追い求めた結果、"グラム"という機体に足は不要になったらしい。
いや、あるいは、地上戦特化型の普通に足がある形態が別にある可能性も否定できないか。
とにかく、空中戦において非常に強そうな見た目をしている。
「"スルト"、敵鎧兵器の出力は?」
『およそ七割程です』
七割の出力——つまり、姫様と同じレベル七の起動権でシグルドの"グラム"は起動されている。
これ程の力を引き出せる高位の起動権ともなると、現在判明している限り私以外には世界中を探しても数人しかいない。
おそらくシグルドの兄シグムンドによる直接起動か、シグムンドの"血の触媒"を用いて起動されたのだろう。
これほどの機体出力が帝国最強の操縦者であるシグルドの乗る鎧兵器に与えられたら、まさに鬼に金棒だ。
「とはいえ、出力と機体出力では私の方が上だね」
操縦者としての技量は無論シグルドの方が一段上。
私もそこそこ腕に覚えはあるが、相手は軍事大国で最強と謳われる怪物。当然技量では勝てない。
でも、私にはそんな怪物シグルドを凌駕する圧倒的な力がある。
即ち、我が身に流れる血統チートだ。
まず、王家の血を引いているからか、私は魔力が多い。この魔力を使って魔法で能力を向上させれば武力チートのシグルド相手でも最低限戦える。
そして、私の血が持つ起動権……"王権"を使えば、古代アースガルズ文明という名の星間文明に至った超文明の軍隊が正式に配備していた星間戦闘鎧兵器"エインヘリヤル"の本来の性能を発揮出来る。
『
「アースガルズ王家の末裔フリッカ・アグナル・アースガルズの名において告げる。"エインヘリヤル"よ。私に刃向かう敵を撃滅せよ」
"エインヘリヤル"が青く眩い光に包まれた。
ついでに幾何学的な紋様の光輪も展開される。
さあ、これで完全に私が負ける要素はなくなった。
「いくよ!」
鎧兵器の出力を最大出力まで上昇させる。
「『
「光剣よ、顕現せよ」
武装の一つである
並の鎧兵器相手なら一閃で決着がつく超加速による一撃でシグルドの鎧兵器へと攻撃を仕掛ける。
『敵鎧兵器の
「斬り合いか!」
私の"エインヘリヤル"とシグルドの"グラム"の光剣が衝突する。
光剣同士の衝突によって、光が迸る激しい鍔迫り合いの様相を呈した。
だが、出力はこちらが上だ。
私の乗るエインヘリヤルの青く輝く光剣が"グラム"の赤い光を放つ光剣を少しずつ押していく。
このままいくと、敵の光剣を真っ二つに斬り裂けるだろう。
しかし、敵である帝国最強の名は伊達ではなかった。
即座に斬り合いを中断し、受け流すような太刀筋で光剣武装が破壊されるのを阻止して距離をとった。
判断が早い。
バーニアを噴かして僅かな距離を稼ぎ、瞬きも終わらない間に形態変化によって機動力を上げての一時離脱。
実に見事だ。
でも、距離をとってくれるのは好都合。
これで、
さあ、今から私が行うのは圧倒的な性能によるゴリ押し。中途半端な出力の敵を、星間文明の量産兵器本来の性能によって叩き潰す戦いだ。
教えてやるよ帝国最強。操縦者の技量差をも凌駕する、圧倒的な出力差というものを!さあ、俺……私tueeeの始まりだ!
「
……などと息巻いていた私は、現在"エインヘリヤル"の操縦席で台パンレベルにキレ散らかしていた。
「なんで当たらないんだよお!!普通、未来予測イメージを反映して撃った砲撃を見てから反射神経で避けたり、十二個の
当たらない。とにかく攻撃が当たらない。
こっちの出力なら一撃で撃墜できるのに一撃も当たらない。
当たらなければ意味はない。
「当たれよおおおおお!!」
私の想定よりも遥かに、敵の武力チートことシグルド皇子とかいう化け物は強かった。
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