第11話 "最強"から"宿敵"へ 前編
シグルドから見て、その鎧兵器は一見するとミズガル軍が運用している通常の"エインヘリヤル"に見えた。
鎧兵器"エインヘリヤル"。古代文明の遺跡から発掘される量産型の有人鎧兵器。
目の前の機体の姿も、色合いこそミズガル王国軍の証である青色に染められてはいるが、武装と搭載されている炉心の数以外はムスペル帝国軍でも運用されている"エインヘリヤル"とあまり変わらないものだった。
しかし、目の前の鎧兵器は、明確に通常の"エインヘリヤル"と違う点があった。
目の前の鎧兵器の背後には、未知の幾何学的な模様の光輪が浮かんでいたのだ。
シグルドはその青い輝きと光輪から明らかに他の鎧兵器とは一線を画す荘厳な力を感じた。
シグルドが知るはずもないが、それは星間戦闘鎧兵器"エインヘリヤル"の本来の姿だった。全ての力が引き出され、あらゆる武装が解禁された星間文明の軍事兵器。
この星で唯一人の純血の古代アースガルズ王家の末裔であるフリッカによって力を取り戻した古の破壊の尖兵の真の姿だった。
———光剣よ、顕現せよ
「……!
突然、未知の鎧兵器が光の剣を顕現させ、シグルドの乗る"グラム"へと襲いかかる。
「……
ムスペル帝国は古代兵器の研究が最も進んでいる国だ。
その為、起動権とそれに準じた引き出せる能力や武装についてもある程度の理解を得ている。
つまり、今襲いかかって来ている目の前の鎧兵器は、二人と同等の起動権を持つ者によって起動されたことになる。
「なるほど、王国の最新鋭機か。それも、リンダ・ミズガルの手で起動されたものだな」
これまでに得た情報から、シグルドは目の前の未知の鎧兵器は王国が遺跡から新たに発掘した最新鋭機——それも、リンダ姫によって起動されたものだと結論づけた。
これは、武力全振りのシグルドにしては、かなりまともな推測と言えるだろう。
リンダ姫は確かに高い起動権を持っている。
その起動権は限りなく八に近いレベル七——世界最高クラスのものだ。
とはいえ、今回のシグルドの相手は最新鋭機でもなく、リンダ姫の起動権も既に書き換えられていたため、その予想は大外れのもの。
実際は、通常の"エインヘリヤル"に偶然にも古代アースガルズ文明の王家の末裔であるフリッカが乗っていて、彼女の"王権"という最高位の起動権で真の力が発揮されているという、たぶん誰にも予想できないものだった。
何故か敵軍の一兵卒の中にぶっちぎりで世界最高の起動権を持つ人間がいたのだ。
そんな、信じがたいほど低い確率の真相を予測することなど流石に無理な話だろう。
「おもしろい……相手にとって不足なしだ!!」
とはいえ、光剣武装を見たことで起動権の高さに驚愕こそしたものの、帝国最強の男シグルドに焦りはなかった。
むしろ、相手にとって不足はない、と思わぬ伏兵に対して好戦的な笑みを浮かべていた。
「フルングニル伯爵を討った実力を見せてもらおう。行くぞ"グラム"!!」
フリッカ・アース(推定)に対してシグルドが操縦席で吠える。
シグルドは未だフリッカを見たことも実際に戦ったことも一度もない。
ただ、名前だけを聞いたことがあるだけの間柄だ。
それでも、シグルドの中では、ミズガル王国で自身が警戒すべき三人の鎧兵器操縦者の内、現在の条件に合うのがフリッカしかありえなかったので、敵の鎧兵器の操縦者がフリッカ・アースだと結論付けていた。
強敵が乗る未知の敵鎧兵器の登場によって戦いに退屈していたシグルドは再び戦場を楽しめることに歓喜し、喜びを露わにする。
「
シグルドの咆哮に応えるように、胸にかけられた兄シグムンドから渡された"血の触媒"が光輝く。
そして、シグルドの鎧兵器"グラム"もまた光剣武装を展開し、凄まじい勢いで加速、最高速度で未知の鎧兵器へと突貫した。
共に重力制御機構によって変態的機動で飛行する二機の鎧兵器。
しかし、シグルドにとって未知の鎧兵器である光輪を浮かべている鎧兵器の力は、シグルドの予想を遥かに超えるものだった。
"グラム"の赤い光剣と、敵の青い光剣が衝突する。
「……!マズイ!」
斬り合った瞬間、シグルドは一時的な待避を選択した。
シグルドが持つ天性の感覚が、押し合いに負けて自らの機体が持つ光剣武装が破壊される光景を幻視させたのだ。
「よもや、この"グラム"が出力負けするとは……」
敵機体の圧倒的な力に彼の頬を冷や汗が伝う。
その瞳には、大きな驚きが宿っていた。
一方、この時未知の鎧兵器ことフリッカの操縦している"エインヘリヤル"の操縦席では、フリッカが調子に乗って王族ムーブをかましながらも容赦なくシグルドのことを殺そうとしていた。
——
フリッカの命により、十二機の端末型攻撃武装が未知の鎧兵器——"エインヘリヤル"の周囲に展開された。
「……!」
展開された十二機の旋回する砲門から、魔力砲の雨が降り注ぐ。
さらに、その砲撃の雨の隙間からも、未来でも見て放っているかのような正確無比な射撃が襲ってきた。
ありえないことに、その一撃一撃が、すべて一撃でグラムを撃墜できる破壊力を秘めていた。
一撃でも喰らえば——いや、最悪掠るだけで終わる。
そうシグルドの直感が告げた。
それは、レベル八以上の機動権による圧倒的な性能差と出力差によってもたらされたクソゲーだった。
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後編は0:01分に更新します。果たしてシグルドの運命は……
敵視点のフリッカ&"エインヘリヤル"
・同じ
・普通にエース級の相手が即死級の光学兵器を死角を含めた全方位からビット兵器で撃ってくる。
※シグルドがバグなだけで、フリッカは普通にエース級の操縦者です。
・未来予測の如き正確な掠るだけでも致命傷になりかねない射撃をしてくる。
・こちらの攻撃は殆ど
紛うことなきクソゲーですね。
尚、他に何やら奥の手を隠しているもよう……。
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