第12話 "最強"から"宿敵"へ 後編
「……!ヤバいのが来る!!」
シグルドは、予感に従い未知の鎧兵器から距離をとった。
それは、歴戦の戦士としての勘だった。
未知の鎧兵器から何か嫌な雰囲気がする。
シグルドはそう思い、"グラム"の加速を止めて接近を止める決断を下したのだ。
瞬間、未知の鎧兵器からバラ撒かれた十二機の端末型攻撃兵器による一斉砲撃が、四方八方から"グラム"へと襲いかかった。
「……ちぃ!!」
咄嗟に機動力の優れた形態に"グラム"を変化させ、回避行動をとる。
シグルドの操作技術あっての神技。
僅かな魔力砲の雨の隙間にグラムを潜り込ませ、一撃も掠ることなく全方位砲撃をやりすごす。
「ここで、本体からの狙撃か!」
敵も容赦ない。
まるで、やり過ごされることがわかっていたかのように、絶妙なタイミングで正確な狙撃を放ってくる。
「だが甘い!」
しかし、シグルドは避けきれなかった砲撃を光剣で斬り裂いてどうにか防ぎ切った。
おかげで、"グラム"には傷一つついていない。
「ふう……今のはヤバかったな」
操縦席のシグルドは焦燥を隠せずにいた。
「よもや、レベル八以上の起動権が必要な
理不尽なまでの性能差。
それが、シグルドを焦らせている要因だった。
空を泳ぐように飛び回り、全方位から襲いかかる砲撃の嵐が常にシグルドを仕留めにかかり、少し離れた位置からも魔力砲が常に正確にこちらを狙ってくるのだ。
おまけに、砲撃すべてが防御壁を容易く貫く即死級のもの。
今のところは、シグルドの卓越した操縦技術によってどうにか対応できている。
しかし、十二機の
それ程までに、『
「流石に長期戦だときついな……」
本来なら瞬殺される圧倒的な性能差。
あまりにも違いすぎる出力。
五つの炉心を搭載している"グラム"が完全に押し負ける桁違いの力に、シグルドの口からも流石に弱音が溢れる。
「このままだとジリ貧だ……敵ながら中々やるじゃないか」
操縦技術だけで補い、互角の戦いに持ち込んできたシグルドにもついに疲れが見え始めた。
「こうなったら、一瞬でも隙を作り、そこをぶち抜くしかない!」
最早、勝機は短期決戦しかない。
そう考えたシグルドはとにかく敵鎧兵器の隙を作るべく立ち回った。
激しい魔力砲の撃ち合いになる。
弾幕で圧倒される中、僅かな隙を狙う。
敵魔力砲の八割を回避。
一割をこちらの魔力砲で相殺、あるいは軌道をずらす。
一割を
そうして、シグルドは機を待ち続けた。
やがて、意外と早くその時が訪れた。
「……!今!!」
偶然にも、こちらの牽制の砲撃が鎧兵器の肩部位を掠め体勢を崩すことに成功し、ほんの一瞬の隙が生まれたのだ。
「戦闘形態変化!」
今なら間違いなく仕留められる。
そう思ったシグルドは、全力で"グラム"を突貫させた。
普段ならブラフの可能性を考慮していたかもしれないが、この時のシグルドは短期決戦を意識し過ぎており、意図的な隙だと考慮することができなかった。
これまでに経験したことのない圧倒的な性能差が、シグルドを焦らせてしまったのだ。
「最後の足掻きか。だが、当たらねえよ!」
未知の鎧兵器が最後の抵抗とばかりに
「ここまでだ光輪野郎!確かにお前は強かった。だが、俺は帝国最強の男、シグルド・ムスペルヘイムだ!」
"グラム"が形態変化を行う。
これまで一度も見せていない、近接戦に特化した形態。
『近接戦特化形態』
四本の腕を生やし、その全てに
「じゃあな
未知の敵鎧兵器が対応しようと光剣を構える。
しかし、"グラム"によって振るわれた四本の光剣はその時既に未知の鎧兵器を確実に仕留められる軌道を描いていた。
狙うは一点。
敵の
鎧兵器の操縦席がある胴体部分。
そこへ向けて光剣を振るう。
「俺の勝ちだ!!」
シグルドはそう確信し、操縦席で勝利の喜びを噛み締めた。
———チェックメイト。
しかし、未知の鎧兵器は"グラム"の光剣が届こうとした瞬間、未知の鎧兵器は忽然とその姿を消した。
「!?馬鹿な!一体どこに……!!」
刹那、再び感じた敵の気配。
それは、"グラム"の背後から感じたものだった。
咄嗟にシグルドは振り向く。
すると、そこには、先程まで前方にいたはずの未知の鎧兵器が光剣を構えていた。
全ては未知の鎧兵器こと星間戦闘形態に移行した"エインヘリヤル"を操るフリッカの計画通りにことを運ばれただけだった。
嵌められたシグルドに、最初から対処するすべは何もなかった。
シグルドはただ、
「ありえない……この俺が——」
その瞬間、シグルドの視界は"グラム"の爆発と同時に眩い閃光に覆い尽くされた。
ムスペル帝国最強の男は、この日、かつてフルングニル伯爵を討ち取った一人の少女の前に敗れ、爆炎の業火にその身を焼かれた。
「……グルド、無事かシグルド……!」
「兄……さん……」
シグルドが目を覚ました時全ては終わっていた。
ボヤけた視界に映るのは心配そうに声をかけてくる兄シグムンドの姿。
光輪を浮かべた未知の鎧兵器の姿は何処にもなかった。
「心配したぞシグルド。まさか、お前が敗れるなんてな」
フリッカは正確にグラムの胴体部分を光剣でぶち抜いた。
鎧兵器の操縦席は通常、機体の胴体部分にある。
ゆえに、確実に仕留めるには最適の位置だ。
しかし、特殊型の鎧兵器である"グラム"の操縦席は可変式の都合か機体頭部にあった。
それでも、爆発に巻き込まれたら普通の人間ではまず助からない。
だが、武力チートとしか形容するしかないシグルドの強靭な肉体は、その爆炎の業火の中でも命を繋いでみせた。
重症ではあるものの死なずに済んだのだ。
まさに、紙一重の奇跡。
シグルドはまだ、天に見放されていなかった。
しかし、シグルドの脳裏には、戦いに敗れた時の記憶がはっきりと刻まれていた。
光輪を浮かべた未知の鎧兵器に敗れたという事実が深く深くシグルドの心の奥底に刻みつけられた。
「クソおおおお!!!!!!!」
シグルドは意識を取り戻して早々に、怒りのあまり発狂した。
自分を負かした敵の機体とその機体に(推定)乗っていたと思われる人物に対する激情が湧き上がった。
「絶対にコロス……オレが絶対にコロシテやるぞフリッカ・アースゥゥゥ……!」
そして、血が激しく脈動する。
——追え、どこまでも追え……アグナルの血を決して逃すな……!!
逆恨みといえる、自分を殺しかけた存在に対する凄まじい執着。
新たな追い求める獲物に対するシグルドの感情を激しく掻き立てた。
こうして、フリッカはシグルドを仕留め損なったことにより、復讐心を抱く殺意に満ち溢れた帝国最強の武力チート男という最も厄介な敵を生み出してしまった。
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ロボット作品あるある……絶対死んだと思った強キャラが何故か生存している展開でした!
それにしても、帝国最強のイケメンにこんなに思われて狙われるなんてフリッカは罪な女ですね()
ちなみに、一度見せた攻撃は二度と通じないので、次からは背後からの卑劣斬りではシグルドは倒せません()
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