第13話 対面
「あー、しんどかった!!」
ギリギリだった。
本当にギリギリの戦いだった。
武力チートの理不尽さを思い知らされた。
奥の手の次元跳躍を使った初見殺しの卑劣戦法でどうにか勝てた。
……もう二度と
まあ、トドメをしっかり刺したからもう見ることはないだろうけどね!
それよりも、今は一刻も早く姫の下へと行かないと。
「スルト、姫殿下の位置は?」
『座標確認。リンダ・ミズガルの生命反応は、現在最も近い古代アースガルズ文明時代の造船プラント付近にて確認できました』
「古代遺跡か……何か目的があるのかも。スルト、そこには何があるの?」
『建造途中の航宙戦闘母艦が一隻放置されています』
「目的はその艦か」
古代文明の遺跡。
それは、古代アースガルズ文明の遺した建造物だ。
遺跡といっても、この異世界の遺跡は、石造りの古い建造物のようなものではない。
天に届く程の巨大なビルや、地の底まで続く巨大な大穴をそのまま利用した地下施設。
そういったSF作品に出てくる高度文明が生み出した建造物のようなものを指している。
遺跡は、特に宇宙関係のものが多い。
天体を観測するための設備。
宇宙の彼方とこの星を繋ぐ通信施設。
宇宙を旅するために必要な艦や物資を作るための生産プラント。
……星間文明らしいものばかりだ。
この異世界で、それらの建造物は異質な存在として際立ち、SF世界から切り取られたかのような近未来的な光景は、他のどの建物とも違う独特の風格を放っている。
「この造船プラントは地下にあるタイプの遺跡だね」
遺跡の地上部分は、何十万年と整備されていないからか、建物は藁に覆われ、辺り一帯草木が生い茂る自然の風景にのみこまれていた。
けれど、遺跡の中は別世界だ。
スルトが封印されていた私の家の地下にあった遺跡のように、高度な技術の産物と思われるSF的な光景が広がっていた。
何十万年も前のものとは思えない綺麗さ。
まるで、時間ごと止めて保存しているように全く風化していない。
「いこうか」
『案内はお任せください』
そのまま遺跡の中に入って姫様を探す。
姫様の生命反応は、この遺跡に収容されている戦闘母艦の艦内にあるそうだ。
遺跡は現在中途半端に起動した状態になっている。
おそらく姫殿下が遺跡を機動しようとして、起動権が不足した結果こうなったのだろう。
少し、マズイかもしれない。
こういった遺跡には、侵入者に対する警備システムがあったりするからだ。
『前方から警備兵が来ます。注意してください』
耳につけている通信機でナビゲートをしてくれているスルトから警告が入る。
前方からガシャガシャと武器を持った二足歩行のロボットのような自動警備兵がやって来た。
『シンニュウシャハッケン、シンニュウシャ……"王権"ヲカクニン。シツレイイタシマシタ』
まあ、私の場合は全部顔パスなので問題ない。
厄ネタの血も、こういう時にはしっかり役に立ってくれる。
『どうしますか。こちらに砲口を向けた罰として自爆させましょうか?』
「いいよそんなの。それよりも、一刻も早く姫様のところへ行かないと!」
『かしこまりました。もう間も無くフリングホルニの保管ドックに到着します』
広いドックに到着した。
ドックには、一隻の巨大な艦が保管されていた。
「へえ、この艦が……」
『惑星制圧用航宙戦闘母艦フリングホルニ。古代アースガルズ人の大移住にも使われた優れた戦闘母艦です』
目算でおよそ五百メートル。
初めてみる形の巨大な戦闘母艦がそこにはあった。
『リンダ・ミズガルの反応は、フリングホルニの艦橋から確認できます。おそらく、フリングホルニを起動しようと考えているのでしょう』
「なんで起動しないの?」
『起動権が不足しているためです。フリングホルニの起動には、レベル九以上の起動権が必要となります』
「……そっか。まあ、一旦姫様と合流して考えよう」
フリングホルニの艦内に入る。
艦内は……とにかく広かった。
姫様のいる艦橋までは……およそ二千メートル先!?
『フリングホルニは艦内空間を拡張しているため、五千メートル級の艦と同等の艦載量と艦内設備を持っています」
……広いな。これは探すのに時間がかかるかも。
そう思った時、突然フリングホルニの艦内に光が灯った。
『艦内システムに接続。艦内転送システムの起動に成功しました。フリッカ様を艦橋へと転送します』
瞬間、目の前の景色が一変した。
流石は"スルト"だ。
おかげであまり歩かずに姫様のいる艦橋に到着することができた。
……私の"王権"に反応して、艦橋に入るための扉が開く。
艦橋には、二人の人間がいた。
一人は、意識を失っているボロボロの女騎士。たぶん、ここまで姫様を守り、警備兵との戦闘で負傷したのだろう。
そして、もう一人。必死にこの艦フリングホルニを起動しようとしているリンダ姫の姿があった。
私の気配を感じたのか、驚いた表情で姫様がこちらを振り向いた。
いつ見ても可愛い。
そして、ついにきた。姫様との対面の時。
昔、シュルドが王族に仕える騎士の真似とかよくしていたから、脳内イメージはバッチリだ。
あとは、精一杯カッコつけていいところ見せるだけ。
片膝をつき、頭を下げる。
そして——
「お初にお目にかかります、リンダ姫殿下。私の名前はフリッカ・アース。姫殿下のお力になるために参上致しました」
……決まった!
完璧な口上だったと思う。
すると、驚いた表情をしていた姫様がこちらを見てふっと微笑んだ。
「貴女の忠義に感謝します。フリッカ・アース少尉」
どうやら、問題なかったようだ。
無礼じゃなかったようで、ほっと一息吐く。
けれど、その後に姫様の口から紡がれた言葉は悲壮感に満ちたものだった。
「ですが、もういいのです。貴女は今すぐ国外にお逃げなさい」
透き通るような綺麗な声。
しかし、その声は悲しみを帯びていた。
「希望は絶たれました。私ではこの艦を起動できませんでした。もう、打てる手立ては残されていません」
そう言って、姫様は一度目を閉じる。
そして、目を見開くと悲壮感に満ちた決意の表情を浮かべだ。
「私は、ムスペル帝国に降伏し、この身を捧げます」
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リンダ姫視点での現状。
・圧倒的な力のムスペル帝国軍の前に王国軍が壊滅。
・妹のディース姫の安否不明。
・ムスペル帝国最強の男シグルドとその配下の騎士団に追われている。
・数少ない希望だった古代文明の遺産の起動に失敗。
これはもう詰みですね……
なお、実際は
・どっかの古代アースガルズ王家の末裔のせいで無人鎧兵器が暴走し、ムスペル帝国軍は大混乱&大損害……。
・どっかの古代アースガルズ王家の末裔に帝国最強のシグルドが敗北し当分戦闘不能。配下の騎士団は御守りの力で覚醒した機体に乗るおっさんによって壊滅……。
・なんか遺産を起動できる古代アースガルズ王家の末裔が目の前にいる……。
大体こんな感じです。
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