第一章
第1話 新たな脅威
ミズガル王国とムスペル帝国の戦争が始まって三年半。フリッカの初陣から二年半後。
二国間で行われている戦争は未だ終わらず続いていた。
「ミズガル王国……か」
灯りの消えた薄暗い部屋。
その部屋で青白く光る投影された映像を一人の青年——シグムンドが椅子に座りながら眺めていた。
そこは、空を進む巨大な艦の中にある一室だ。
ムスペル帝国の紋章が刻まれた巨大な艦。
全長二千メートルを超える超超弩級浮遊戦艦の中で、シグムンドは映像に写し出された情報を事細く分析していた。
「我が国ムスペル帝国は、一時は王国の三割の領土を占領するに至った。だが、以降は戦線を押し上げられ、現在戦況は膠着状態……か。やはり、貴族軍を纏めていたフルングニル卿が討たれたのが痛手だったな」
端正な顔立ちの青年の口から溢れ出たのは戦争の現在の戦況だ。
突如としてムスペル帝国がミズガル王国へと侵攻し、発生した軍事衝突。
王族の起動権以外は国力も軍事力も並の国家であるミズガル王国を制圧するのは、当初それ程難しくないと考えられていた。
しかし、現在まで戦争は続き、戦況はまさかの膠着状態。
おまけに、皇帝よりミズガル王国侵攻を任され貴族軍を率いていた帝国十三家門の一角、フルングニル伯爵がまさかの戦死を遂げるという予想外の事態まで起きてしまった。
原因は投入した
これまで一度も起こらなかった不測の事態にムスペル帝国軍は大混乱に陥った。
「だが、ミズガル軍の進撃もここまでだ。この私が来た以上、戦争は我等ムスペル帝国の勝利で幕を閉じる」
しかし、戦況を見て青年が呟いた言葉は、既に勝利を確信しているものだった。
その薄い青色に輝く瞳には確固たる自信が宿り、端正な顔には余裕の笑みも浮かんでいた。
「時間だぜ、シグムンド兄さん」
シグムンドを一人の男が呼びに来た。
呼ばれたシグムンドは男の方を振り向くと、
「時間か」と呟きゆっくりと椅子から立ち上がった。
「いよいよか。よし、行くぞシグルド。ミズガルの秘宝を取りに行こう」
男はシグムンドの弟だった。
ムスペル帝国第二皇子シグルド・ムスペルヘイム。
それが、シグムンドを呼びに来た男の名前だ。
そして、シグムンドもまた、シグルドと同じムスペル帝国の皇族である。
「皆集まっているか?」
「ああ、本作戦の将校は全員部屋に集まっているぜ」
シグルドに連れられて廊下を渡り、シグムンドは薄暗い部屋とは別の部屋へと入る。
その部屋には、ムスペル帝国軍の将校達がずらりと勢揃いして待機していた。
部屋に入ったシグムンドは将校達の顔を見渡すと、すうっと一度息を吸い込む。
そして、ゆっくりと息を吐いた。
瞬間、溢れんばかりの魔力と共に、カリスマのようなオーラが部屋の人間達に押し寄せた。
「聞け!いよいよ、アースガルズの後継たる我等の力をミズガル王国に示す時が来た。これより我等ムスペル帝国正規軍はミズガル王国軍を蹴散らし王国の制圧に向かう!!」
オーラに当てられた人間達は、固唾を飲んで青年の演説を耳に入れる。そして、カリスマに溢れる青年の演説に当てられ、感銘を受け、軍人としての責務を全うするべく心に誓うのだった。
「ムスペル帝国皇太子シグムンド・ムスペルヘイムの名において命じる。ムスペル帝国正規軍……全軍進軍せよ!」
号令が下る。
皇太子シグムンド——次期皇帝となる青年からもたらされた宣言。
その宣言に対して将校達は一糸乱れぬ敬礼をもってシグムンドへと応えた。
『勝利をこの手に!ムスペル帝国に栄光あれ!!』
その演説の映像は、通信越しにシグムンドの乗る艦に随伴する他の艦に乗る軍人達や、鎧兵器に乗る兵士達にも中継されていた。
空を進む鋼の大艦隊。
皇太子の乗る超超弩級浮遊戦艦"グラズヘイム"の巨体を囲むように展開する全長五百メートルはある鎧兵器の母艦である戦闘母艦や大量の砲門を備えた多数の駆逐艦達。
その乗組員達もまた、皇太子の演説に鼓舞され、轟くような歓声を上げた。
彼等が目指すのはミズガル王国。
かつて、一人の少女によって侵攻を阻まれムスペル帝国の大貴族の一角が敗北を喫した国。
だが、今回は、前回とは比べものにならないムスペル帝国軍の精強な軍勢が派遣されていた。
世界最強の名を冠する軍隊。
"ムスペル帝国正規軍"。
皇太子シグムンド・ムスペルヘイムによって率いられた、新たな脅威がミズガル王国へと迫りつつあった。
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いよいよ本編突入!
近況ノートの方に序章で出てきた登場人物の紹介書いているので、振り返りがてら是非読んでもらえると嬉しいです!
感想やレビューなどもよろしくお願いします!
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