第11話 フリッカの本気
"遺跡から発掘された量産機"と"特別仕様に作られた特殊型"。
一見するとその性能差は圧倒的に見える。
言わずもがな、"特別仕様に作られた特殊型"の方が強いと思うだろう。
しかし、量産機といっても、"エインヘリヤル"という鎧兵器は古代アースガルズ文明が他の星間文明との戦争の為に作り上げたもの。
ゆえに、その性能は非常に高く真価を発揮すればとてつもない力を有している。
一方、非量産機の特殊型である"ティルヴィング"は確かに性能は一級品だ。
固有の武装『必中魔力砲』の力は圧倒的な力を誇っている。
しかし、"ティルヴィング"にもオーパーツ兵器ゆえに欠点もある。
動力源である『
ムスペル帝国は世界で唯一新しい『
『
いわば、『
レベル八以上の起動権によって炉心を活性化させることで、初めて鎧兵器は『
それゆえに、フルングニル伯爵をはじめとしたムスペル帝国の人間では、起動権が足りず鎧兵器の真価を発揮することが出来なかった。
『
それが、鎧兵器の炉心に対するムスペル帝国の見解だ。
結局、『
"ティルヴィング"も現在、恒星の炉心を無理矢理五つ搭載して出力を補っている。
その為、もしも完全に『恒星の炉心』の真価を発揮できる者——即ち、『
これが、ムスペル帝国が運用している鎧兵器が抱えている非常に数少ない欠点だった。
そして、今回の戦いにおいて互いの鎧兵器の操縦者の起動権には大きな差があった。
鎧兵器"ティルヴィング"に乗るフルングニル伯爵ことアロガンツは、ムスペル皇帝から譲渡された"血の触媒"によってレベル七——性能の七割の力を引き出す起動権を持っている。
これは、世界最高クラスの起動権だ。
しかし、今回は相手の起動権が凄すぎた。
"エインヘリヤル"に乗っていたフリッカに流れる血には、規格外の起動権が付与されていたからだ。
"
そう呼ばれる古代アースガルズ文明の王家の血を引く末裔だけが所持することを許される最高位の起動権。
全ての古代文明の遺産の起動を可能とし、完全なる性能を引き出すことが出来る唯一無二の起動権だ。
レベル八以上の起動権である"王権"によって起動された場合、『
そして、『星系の炉心』は、レベル七の起動権で起動された五つの炉心の力を、たった一つの炉心の力で凌駕する程の圧倒的な出力を発揮するのだ。
さらに、"王権"——レベル八以上の起動権による恩恵はこれだけではない。
レベル八以上の起動権によって起動された場合、鎧兵器は搭載されている全ての武装が使用可能になる。
収束魔力投射砲、電磁式実弾投射砲、拡散殲滅魔力砲といった砲撃武装。
星のあらゆる物質を切り裂く
音速を超えた速度で敵を追尾し続ける
本体から切り離された後、空を泳ぐように展開され、旋回しながら搭載されている砲撃武装を用いて支援攻撃を行う
これらの封印されていた武装が全て使用可能になる。
そして、フリッカが乗る"エインヘリヤル"は量産機ではあるが、星間文明が戦争用に量産し実戦配備していたという実績のある兵器でもある。
つまり、まあ、弱いはずがなかった。
「……!?なんだ!?何が起こっている!!」
拡散殲滅魔力砲による広範囲殲滅攻撃。
その圧倒的な火力による攻撃によって、フルングニル伯爵の乗る"ティルヴィング"を守っていた部下の鎧兵器達は瞬く間に殲滅された。
放たれた拡散した青く輝く魔力の波動が一切の逃げる隙を与えず、鎧兵器達を貫き爆散させたことを確認すると、フリッカはようやく最大の標的へと目を向ける。
フリッカは、自らの手でじっくり殺すために、フルングニル伯爵の乗る"ティルヴィング"だけは意図的に拡散殲滅魔力砲の狙いから外していたのだ。
「やっと二人の仇を討てる。お前は、惨たらしく、凄惨に、絶望させてから殺す」
操縦席から"ティルヴィング"を見つめるフリッカの瞳には暗い憎悪の炎が宿っていた。
一方、意図的に攻撃されなかったことに気づいたフルングニル伯爵は"ティルヴィング"の操縦席で怒りを露わにしていた。
「舐めるなよ……!ミズガルの劣等民族が!!」
意図的に魔力砲の狙いを外されたことに気づき、舐めた真似をしてくれた敵に対して激怒したフルングニル伯爵は"ティルヴィング"の『必中魔力砲』への魔力の装填を開始する。
今度こそ、確実に、フリッカが乗る"エインヘリヤル"を始末しようと魔力を収束させた。
「もう、その砲撃は脅威でも何でもないよ」
しかし、魔力を装填する"ティルヴィング"の様子を見て、フリッカの星間戦闘形態へと移行した"エインヘリヤル"もまた武装を起動する。
「『
異空間に収納されていた武装がフリッカの命令によって"エインヘリヤル"の手に顕現する。
「光剣よ、顕現せよ」
それは、全てを切り裂く光の剣。
炉心の生み出す膨大なプラズマによって形作られた最強の近接武器だ。
「馬鹿な!!光剣武装だと!?」
展開された青白く輝く光剣武装を見たアロガンツ伯爵は驚愕した。
光剣武装を展開するにはレベル七以上の起動権が必要となる。
それ程の起動権を持つ者は、自身に起動権を授けてくれたムスペル皇帝とその血を引く皇族達のみ。
そう考えているアロガンツ伯爵にとって、フリッカの乗る"エインヘリヤル"が光剣武装を展開したのは信じられない光景だった。
「何故ミズガル人如きが……まあ、よい。どのみち"ティルヴィング"の最大出力の砲撃をもって撃ち滅ぼすだけのこと」
だが、フルングニル伯爵は、戦いの最中ということもあり動揺を抑え込む。
例え光剣武装を展開しようと所詮は量産機。
レベル七の起動権で起動された特殊型の鎧兵器である"ティルヴィング"の敵ではない。
フルングニル伯爵は、ここまできても自身の有利を確信していた。
「死ね、愚かなるミズガル人よ」
"ティルヴィング"から魔力砲が放たれる。
その砲撃は、これまでの砲撃とはまた違うものだった。
『拡散殲滅必中魔力砲』
枝分かれするように拡散し、範囲殲滅を得意とする拡散殲滅魔力砲。その枝分かれした全ての魔力砲が必中となるさらに上位互換の一撃。
"ティルヴィング"の奥の手とも言える一撃が放たれた。
一撃で機体が消し飛ぶ威力の魔力砲の光の雨が、全て必中状態でフリッカの操縦する"エインヘリヤル"へと降り注ぐ。
しかし、その絶望的な光景を見てもフリッカの顔に焦りはない。
何故なら、出力では『星系の炉心』を起動しているこちらの方が勝っているからだ。
さらに、フリッカによって封印を解かれた"エインヘリヤル"には、この魔力砲の雨に対応する武装が存在していた。
「"スルト"、
『お望みのままに。端末型攻撃武装十二機全て起動します』
それは、エインヘリヤルに十二機装備されている
機体の周囲を旋回し、空を泳ぐように展開されたその武装は、全方位から機体を守る防御にも、縦横無尽に飛び回り、四方八方から敵を屠る砲撃を放つ攻撃にも使用することができる。
「邪魔な魔力砲を全て撃ち落とせ」
"ティルヴィング"から放たれた拡散して降り注ぐ砲撃を、展開された端末型攻撃武装から放たれた砲撃が相殺していく。
『拡散殲滅必中魔力砲』は、あくまで狙った対象に必中なだけで、対象から放たれる相殺するための攻撃を避けることはできない。
空を埋め尽くしていた降り注ぐ魔力砲の雨は、次々と撃ち落とされ、その数をあっという間に減らしていった。
「トドメは直接刺しに行くよ。加速して」
『お望みのままに。スラスター出力最大。加速します』
エインヘリヤルのスラスターが点火する。
そして、"ティルヴィング"に向けて高速移動を開始した。
『魔力砲残弾五発接近。』
「四発は撃ち落として」
『お望みのままに。迎撃します』
最後の五発のうち、四発の魔力砲の光が相殺された。
周囲を旋回する十二機の端末型攻撃武装による万全の守りは、"エインヘリヤル"を"ティルヴィング"の下へと導いてみせた。
「これで最後だ」
接近する障害となる最後の魔力砲の光を"エインヘリヤル" の手に持つ光剣で切り裂く。そして、フリッカの乗る"エインヘリヤル"は、ついに光剣の間合いまで"ティルヴィング"に接近することに成功した。
『拡散殲滅必中魔力砲』を撃ったことで、ティルヴィングにはもう、攻撃手段は残されていなかった。
「死ね。イルザとシュルドの仇だ」
フリッカはいきなりトドメを刺さず、まずは両腕部、次に両脚部とティルヴィングの四肢を削いでいく。
すぐには殺さない。
そういったフリッカの決意ゆえの行動だった。
こうして、"ティルヴィング"の四肢をもがれて完全に抵抗手段を失った。
フルングニル伯爵はただ操縦席で死を待つことしかできなくなった。
そして、"ティルヴィング" の抵抗を奪ったフリッカの"エインヘリヤル"は、ゆっくりと、悲鳴を上げているフルングニル伯爵のいる操縦席へと光剣を突きつける。
「クソッ!こうなったら敵に降伏を……」
『フリッカ様。敵機より通信が——』
「スルト。通信なんてきてないでしょ」
『……失礼致しました。フリッカ様のお望みのままに』
蒼く輝くプラズマの光剣が、"ティルヴィング"の操縦席へと迫る。
降伏の通信が届かず、その死が確定した瞬間、フルングニル伯爵は恐怖に怯え震えながら、ふと、これまで戦闘を行っていたフリッカの操縦している"エインヘリヤル"への違和感に気づいた。
その光輪も、砲撃も、そして、光剣も……光の色が全て青い光だったことに。
青い光とは、完全に起動した状態の『
それ即ち、現在敵の鎧兵器は——
「まさか、この輝きはアースガルズの……」
死の間際、最期になってフルングニル伯爵は気づいた。いや、気づいてしまった。
今まで戦っていた相手が侮っていた劣等民族などではなく、『
アロガンツ・フルングニル。
男はその事実に気づくのがあまりにも遅すぎた。
もっと早く気づいていれば、違う結果になったのかもしれない。
だが、気づいた時にはもう既に、ただ断末魔を上げることしかできなかった。
「貫け、"エインヘリヤル"」
"エインヘリヤル"の持つ青く輝く光剣が、四肢をもがれた"ティルヴィング"の胸部の操縦席を貫いた。
「仇は討ったよ。イルザ、シュルド……」
この日、一人の少女の手によってムスペル帝国十三家門の一角、フルングニル家当主アロガンツ・フルングニルが討ち取られた。
フリッカ・アースは、たった一人でムスペル帝国ミズガル侵攻軍を撃退した英雄になった。
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