第4話 相棒の終末兵器


 かつて、この異世界には古代アースガルズ文明という名の高度な文明が存在していた。

 

 この古代アースガルズ文明は、星を、星系を、銀河を、征する程の凄まじい力と技術力を誇っていたそうだ。


 不老不死をも可能とする医療技術、惑星をも容易く破壊する兵器を擁する軍事力、宇宙の最果てまでも容易く移動する天翔ける船の建造……


 その力と技術力は、はっきりいって今を生きる人間の理解を超えた神話の領域だ。


 そんな、理を超えた超文明が存在していた時代に、古代アースガルズ文明の技術の粋を集めて王族の為に作られた一体の鎧兵器があった。


 古代アースガルズ文明が作り出した終末兵器。


 超文明の技術の全てが詰め込まれた神の如き力の具現。


 それは、"黄昏の鎧兵器"という名で異世界の神話に出てくる兵器として今もなお語り継がれている。


 

 







 

 

『前方より敵鎧兵器部隊接近。数およそ十五です』


 今日も私は戦場へと向かう。戦場でやることは、戦争相手の敵国ムスペル帝国軍の鎧兵器を撃墜することだ。


『よーしお前達!今日もムスペル貴族共を天国にご案内してやれ!』


 通信からは、私の所属している第七隊を統率しているレギン隊長の物騒な演説が聞こえてくる。


 ちなみに私を徴兵しに村にやって来た軍人が、このレギン隊長だ。

 

 階級は大尉で、片目を眼帯で覆っている厳しくも頼りがいのある隊長だ。


 意外なことに強面だが、奥さんと子供もいる既婚者である。


『隊長!どうせなら地獄に堕としてやりましょうよ!』


 隊長からの通信に第七隊の切り込み役を務めるバルク中尉が陽気な声で応える。相変わらずノリノリだ。


 バルク中尉は見た目はチャラ男の陽キャだ。


 でも、その腕前と戦場での仲間思いなところもあるから結構立派な人だと思っている。

 

 見た目以外は……


  やっぱり可愛い子にモテそうなイケメンは私の敵だ。

 

『心配するな。馬鹿な帝国貴族共は勝手に地獄に堕ちるさ!』


 ベテラン操縦者のヘグニ中尉の笑い声が聞こえてくる。


 この人を一言で表すなら"優秀なおっさん"といったところだろう。


 普段は少し太めの草臥れた風貌の死んだ魚の目をしたおっさんなのに、戦場と酒場と賭博場では「血が騒ぐ!!」とか言って元気になる。


 あと、鎧兵器での戦闘にマジで強い。


 やっぱりロボット兵器に乗って戦う太ったおっさんは強いと相場が決まっているようだ。


『祖国の地を踏み躙る帝国の連中に裁きを下してやりましょう!』


 そして、今祖国への忠誠を示す熱い言葉を語っているのが、私と同期のフギンだ。


 階級は私と同じ少尉で、筋肉がそのまま動いているような脳筋のバカだ。


 ……フギンに関して語ることはこれぐらいでいいだろう。


 この四人に私を加えた五人で構成されているのが、私が所属しているミズガル王国軍第七鎧兵器部隊だ。


 王国軍上層部からは、"不滅の部隊"とかいうなんか凄い名前をつけられている精鋭部隊である。


『フリッカ、一番目立つ機体はお前が相手をしろ。しっかり貴族の首を取ってこい!』


「了解です隊長。フリッカ・アース、目標を駆逐してきます」


 隊長から手柄を譲られたから、私は敵の中でも一際大きく目立つ鎧兵器の方へと向かう。


 目立つ鎧兵器に乗っているのは大体敵のお偉いさんの貴族が乗っているから手柄も大きい。


「"スルト"、敵鎧兵器の詳細を教えて」


『かしこまりました。敵はシュヴァッハ男爵の部隊です。フリッカ様の獲物の鎧兵器は『恒星の炉心ノーマルドライブ』を三つ搭載した中距離砲撃戦用の改装型と推察されます。まあ、所詮見た目だけの雑魚ですね。フリッカ様なら余裕で勝てます』


「ありがとう"スルト"。じゃあ、今日もお貴族様を葬ってあげますか」


 あと、第七隊とは関係ないけど、私の相棒みたいな存在のことも一応紹介しておこう。


 名前は"スルト"。

 私の鎧兵器での戦闘を助けてくれる優秀なお助けAI的なことをしてくれる存在だ。


「起動権をレベル三に限定。砲撃機構展開。魔力投射砲を選択。これより敵鎧兵器の殲滅を開始する」


『お望みのままに。砲撃武装を展開します』


 こうして私の声に反応して音声認証のように武器を出してくれるから本当に助かっている。


 もっとも、"スルト"にはちゃんと実体の本体が存在している。


 今乗っている鎧兵器とは、あくまで遠くから接続しているだけだ。

 

 スルトの本体は、今も私の実家の地下の遺跡で待機してくれている。


 でも、何故本体が出てこないのか疑問に思うだろう。


 それは、まあ、簡単に言うと……



 

 

 "スルト"本体の力が、あまりにも強すぎるからだ。


 




 






 物語において王家の末裔的な存在は、大体特別な使い魔を従えていたり、特別な存在の封印の鍵を持っていたりするものだ。


 実は、私もそんな特別な存在の封印の鍵を持っていた。


 それは、父さんが死んで数日程経った時のことだ。

 

 父さんから古代文明の王家の末裔という厄ネタを背負っていることを知らされた私は決意した。


 ——絶対に血の秘密を守ってなんとしても富国強兵()の道具にされるのを回避してやる!と。


 古代兵器の力を完全に引き出せる血を持つ唯一の人間。それも女。私の血統の秘密を知られたら絶対ロクな目にあわないだろう。


 聞けば古代文明の遺産の起動権が高い者は、貴族や王族と結婚(強制)させられたり、"血の触媒"を作る為に血を絞り取られたりするらしい。


 "血の触媒"とは、起動権を持つ人間の血を魔法で加工した特殊な宝石のような魔道具のことだ。


 この"血の触媒"には、込められている血が持つ起動権に応じて、本来の起動権よりも上の起動権を行使することができるようになる効果がある。


 例えば、レベル二の起動権を持つ人間がレベル五の起動権を持つ人間の"血の触媒"を持っていた場合には、"血の触媒"が持つレベル五の起動権を発動することができるようになる。


 だから、血の一滴だけでも起動権の高い古代人の血というものは凄まじい価値を持っている。


 そして、私は純血の古代人の父さんと母さんから生まれた純血の古代人で、古代文明の王家の末裔なので古代文明の遺産の最高位の起動権を持っている。

 

血の濃さも、起動権もこれ以上ない極上のものだ。


 

 つまり、まあ、バレたら終わりですね、はい。


 

 いや、間違いなく人生終わる。

 バレたら一生富国強兵()の為に人生を搾り取られる国家の奴隷確定である。


「富国強兵()は嫌だ……富国強兵()は嫌だ……嫌嫌嫌くぁwせdrftgyふじこ……」


 こうして、両親の死による孤独と富国強兵()の足音に怯えて精神を擦り減らし続けていた時のことだ。不幸か幸いか、私に本当に世界を滅ぼせる力があることが、家で見つけた父さんの遺書によって判明したのだ。


 ——古代アースガルズ文明の王家の秘密について。


 父さんが遺してくれた王家だけの秘密の継承の為の遺書。

 その遺書には、父さんが死の間際に話してくれたこと以外にも、古代アースガルズ文明の秘密が色々と書き記されていた。


 そして、中には特に私の目を引いた情報があった。


 ——我が家の地下遺跡について。


 その情報とは、我が家の地下には古代文明の特に重要な遺跡が隠されていること。


 ——遺跡には、ご先祖様達が作った星に終末をもたらす程の力を持った兵器が眠っている。


 いわく、遺跡には、王家だけが起動出来る古代文明の終末兵器が地下の遺跡に保管されているということが記されていた。


 ——本当に力が必要になった時は、その力を使いなさい。


 そう遺書に書き記されていた。

 私は、その秘密を知った瞬間、速攻でその兵器が保管されている地下遺跡に終末兵器の封印を解きに向かった。


「富国強兵()は嫌だ……!富国強兵()は嫌だ……!富国強兵()は嫌だ……!!機体No.666!!今すぐ起動してやる!」


 大分精神的に追い詰められていたこの時の私は、完全に終末兵器の力の虜になっていた。

 

 家の地下室から通じていた隠蔽されていた遺跡の入り口を通り、私は目的の兵器の封印場所へと向かった。


 明らかにファンタジー世界には合わない未来的な白い通路。まるでSF作品に出てくるような洗練された道を私は延々と走って進み続けた。


 本当に力が必要な時。

 その時はもうとっくに来ている。

 いつ秘密がバレるかわからない。

 血筋がバレて富国強兵()の道具にされたら間違いなく人生が詰む。

 

 だからこそ、力が必要だ。いざという時に世界を滅ぼせる程の圧倒的な力が。迫る脅威を灰燼と帰し、いざという時に不埒な輩を消し去る力を持っておく必要があるのだ。


 私は自分にそう言い聞かせ、確固たる意志を持って進み続けた。


 そして、ついに目的地へと辿り着いた。


 アースガルズ王家の末裔のみが入ることが許された部屋。


 そこは、地下にあるとは思えない程に広大な場所だった。

 まるで巨人が住んでいるのかと思う程に巨大な扉から部屋に踏み入ると、私は早速封印を解除するべく遺跡のシステムへとアクセスした。


「アースガルズ王家の末裔フリッカ・アグナル・アースガルズの名において命じる。起動せよ、終末兵器"スルト"!!」


 私は、遺書に書かれていた封印を解く鍵となる言葉を大声で告げた。


 ——古代文明の遺産なんだ。最低でも、前世のアニメで見た空に浮かぶ城の雷や世界を七日で滅ぼせる巨人の火力並みの力はほしい。


 終末兵器扱いされている"スルト"という名の兵器に対してそう願いながら私は封印を解いた。


『アースガルズ王家の血を確認。"王権ユグドラシルコード"を受諾。これより全封印を解除します』


 起動には無事成功した。これで終末兵器"スルト"の封印は解かれた。

 そのことにほっと一息を吐く。そして、力を手にした高揚感で満たされた。


『"スルト"の再起動を開始します』

 

 部屋に無機質な音声が鳴り響く。そして、部屋の床が開き巨大な人型の存在が姿を現した。


 それは、この星に終末をもたらし、王家の末裔を同胞達のいる遥か彼方の新天地へと導くと言い伝えられる"黄昏の鎧兵器"。


『全防御機構解凍完了。全攻撃機構解凍完了。全情報機構解凍完了……全機能異常なし。『銀河の炉心ユグドラシルドライブ』完全起動。これより銀河間護衛戦闘鎧兵器"スルト"が起動します』


 白く輝く巨大な体躯。

 禍々しいエネルギーが流れる血管のような光の筋。

 赤光を放つ無機質な瞳。

 その存在を構成する全てが、圧倒的な力を象徴しているようだった。

 

『フリッカ・アグナル・アースガルズのマスター申請を承認。ご命令を我が主』


 そして、私が主であることを認めた瞬間、ついに白い巨人は膨大なエネルギーに包まれた。


 その桁違いの高エネルギーを纏い、揺らめいている光に包まれたその姿は、まさに神話に出てくる世界を焼き尽くしたという伝説の炎の巨人のようだった。


 その姿を見て、その声を聞いて私は確信した。


 ——嗚呼、この兵器なら、間違いなく私の敵全てを滅ぼせる、と。


 これが、私の唯一にして最強の相棒の"スルト"との出会いだった。


 私はこの日、世界を滅ぼす力を手に入れた。










『シュヴァッハ男爵機の撃墜を確認。お見事ですフリッカ様』


「ふう、サポートありがとう"スルト"」


 帝国貴族を今日も一人血祭りにあげて、私たち第七隊は基地へと帰投する。


 結局、男爵の鎧兵器は通常の鎧兵器三機分の性能だったが、男爵の操縦技術は並ぐらいだったので結構簡単に勝てた。


 今日も戦果ゲットだ。


『しかし、私の本体で戦った方が良かったのでは?かなりの時間を短縮できたと思いますが』


「本体で戦ったらオーバーキルになる上に、厄介事が多くなるでしょ。私が呼ぶまでは本体の出番はなしだよ」

 

 "スルト"の本体は未だ家の地下の遺跡にある。


 本体の性能は規格外過ぎて今のところ使い道がないからだ。


 "スルト"の力は古代文明の終末兵器に恥じない破格のものだ。


 いや、破格過ぎるのだ。

 

 搭載されているのが星間殲滅機構やら星系制圧機構やら対異星文明対応機構やら次元の違う物騒なものばかり。

 

 正直力が強すぎてかなり使い勝手が悪い。

 

 おまけに"スルト"を既に起動して持っていることがバレてしまうと、その力を欲する者や、"スルト"というヤバい存在を排除しようとする世界中の存在から狙われ続けることになると思う。


 "スルト"は、力がヤバ過ぎてこの異世界の神話に出てくる兵器扱いされているから認知度もかなり高い。


 間違いなく、その力を狙っている勢力がいるはずだ。


 "スルト"もかなりの厄ネタなのだ。

 

 私自身の厄ネタ血統の秘密もあるから、これ以上世界から狙われる理由を増やしたくはない。


 だから、余程のことがない限りは、私の乗っている鎧兵器に同期して力を貸してくれるだけで充分だ。

 

 でも、本当に力が必要になった時、あるいは世界を滅ぼしたいと願う程に絶望した時には、私はたぶんスルトの力を使うと思う。


 そして、その時はきっと、この星の終末を見ることになるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る