1/3 ちょっとした事故

 俺がいるのは自室のベッド。

 時刻は午後十一時半をまわっている。


 俺は三十分以上前からベッドに入っていたのだが、一向に寝れない。

 理由は単純。今日起きたことをまだ気にしているからだ。晶はもう気にしていないと言っているが、気になるものは気になる。

 まだ誤解――俺がひなたに見惚れていたという根も葉もない話――が解けていない。

 それに――ひなたは……いや、これはただの憶測に過ぎないな。


 全然眠れない。だからといってスマホを見るのは…………見るのは……って、さっきから通知多すぎないか!? 十中八九晶からのメッセージだろうが。恐らく『話さない』みたいなメッセージ。実際は、晶が寝落ちするまで付き合わされるのがお決まり。それを知っていても、今回みたいに付き合ってしまうのだが。

 数十分話しているが、晶は寝る気配がない。俺は早く寝たいが、晶が寝るまで寝れないので辛い。

 提案したのは俺だからしょうがないのだけども。あの出来事を繰り返してはいけないからな。



 晶が夜遅くに「眠れないから少し話してくれる?」と俺の部屋を訪ねてきた日のこと。

 俺はマックス三十分だけだからなと了承したのだが……俺の読みが甘かった。時間としては十五分くらいしか話していなかったと思うのだが、俺と晶はいつの間にか寝落ち。

 翌日、俺が先に目を覚まし、晶を起こす。時間差でリビングに行こうか、と話していたとき、美由貴さんが部屋をノックしてきて――



 ざっくりこんな感じ。あの時、晶が咄嗟に隠れていなかったらどうなっていたことやら。





 それからも少し話して、晶は夢の世界へ。通話を切り、俺も寝ようとする。このとき、日付はとっくに変わっていた。


 数分後、隣から結構大きめの音がする。何かが落下する音。

 音からして何が起こったかは予測できたので、一応ノックをして晶の部屋に入る。


「やっぱりな……」


 俺は小さくため息をもらす。

 晶がベッドから落ちている。それにも関わらず、晶は床で寝ている。

 薄着にも関わらず、布団がかかっていないから、このままでは完全に風邪を引く。

 大事な義妹いもうとに風邪を引かせるわけにはいかないので、俺はいつもの如く、ベッドに戻して布団をかけてやろうと持ち上げる。

 持ち上げようとするが、やはり寝ていても晶は晶。俺に抱きついてくる。薄着だから大変よろしくない。

 そんな事態にも耐えながら、晶をベッドへと持ち上げる、


「あにきぃ……」


 そう言われ、俺は晶の抱き枕にされる。

 晶の拘束から抜け出そうとすると、「抱き枕が動いちゃめっ」とかわいい声。

 寝ぼけてやがる。

 抜け出そうとするのだが、案外、力が強くて抜け出せない。

 晶に抱きしめられていると暖かくて…………


 俺が深い眠りに入っていくのにそう時間はかからなかったとさ。






  * * *






 気づいたら、俺はあの場所にいた。そこには、ひなたと晶もいる。

 なぜか俺は平然としていた。余裕があった。なぜかは分からない。何が起こるのか怖いのは否めない。だが、根拠のない安心感があるのだ。


「涼太先輩!」

「兄貴!」

「「来年のお正月も一緒にいてくれます(る)よね?」」


 二人が俺に問う。答えなんて考えるまでもないのだが


「ああ。というかこっちがお願いしたいくらいなんだが」

「だったら、勘違いの件も許してあげます」

「僕もあの勘違いは許す。でも、僕を勘違いさせて惚れさせた責任は取ってね? 兄貴」





 全身に伝わる衝撃が伝わる。

 何事だ! と思って起きると、晶にプロレス技をかけられていた。

 晶の部屋で。晶のベッドで。

 そして、昨晩のことを思い出す――


 夢だと思いたいがあの衝撃は現実のものだろう。

 先ほどまで非常にリアルな夢を見ていたと、今さらながら自覚した。

 またもや、あんなリアルな夢。

 シチュエーションは違和感がありすぎるが、あの夢の俺の言葉は本心だったように思う。

 現実世界の俺も、また来年もこんな感じで過ごしたいと思っているのだから。



 今日も今日とて、朝から可愛すぎる義妹に困らされているのですが、今日は西山の尋問に困らされることになりそうです。






(完)

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【優秀賞受賞】じつはいろいろありまして…… あるふぁ @Alpha3_5_7

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