第8話 人ゴミの渋谷
俺はリリスに言われるままに部屋を出てしまった。このまま美咲さんの店の前を通れば、ゴスロリ女子校生を連れた男なんて軽蔑されそうだ。
ど、どうしよう。
俺が内心で慌てふためいていると、リリスが聞いて来る。
「行きたくないの?」
「いや。今は会いたくない人がいる」
「この先にいるの?」
「そう」
リリスの上から下までを改めて見るが、何処をどう見ても未成年のコスプレ少女だ。大人の女性の美咲さんからすれば間柄を勘繰られるだろう。リリスが家出少女だろうが異世界少女だろうが、せっかく知り合った美咲さんに知られたくはない。
「他に行く道はないの?」
「ある」
俺は隣駅まで歩くことにした。踏切を超えてジグザグに辿り、小道を曲がると隣の駅が見えて来た。いつもは使わない駅だが、案外アパートから近い事に気が付く。
「ここから乗れば問題ない」
するとリリスはきょろきょろしながら言った。
「しかし面白い町並みだわ。なにあの四角くて大きい建物」
「あれはマンション」
「ここは?」
「駅」
そして線路を見下ろして言う。
「それは何?」
「いやそのうち分かる」
俺はゴスロリ少女と一緒に電車を待った。リリスは美人の上にゴスロリファッションだから目立つ。周りの人がちらちらとこっちを見ているが、俺は下を向いて極力リリスに話しかけないようにしている。
しかし、リリスの方から普通に話しかけて来た。
「なんか凄いのが来たわ」
そう言われて顔をあげると、右から電車が向かってきていた。
「あれに乗るよ」
「面白いわ」
よくよく考えたら、リリスは流ちょうな日本語を使っている気がする。やはり日本生まれ日本育ちの可能性が捨てきれない。電車のドアが開いたので乗り込むと、乗客の視線が一斉にこっちを向いた。だがジロジロ見るわけでもなく、すぐに周りの風景やスマホを見始める。
まあ…ゴスロリ少女は珍しくないよな。そう言う文化が定着している日本が素晴らしい。
「まもなく三軒茶屋、終点です。田園都市線はお乗り換えです。お忘れ物をなさいませんようご注意ください。本日も東急世田谷線をご利用いただきましてありがとうございました」
アナウンスが鳴り、俺はリリスを連れて電車を降りた。キャロットタワーをぬけて地下に降り田園都市線へと向う。ひとまず渋谷までのリリスの切符を一人分買って、俺は定期券で改札を抜けた。
「凄く面白いわ。なにこの街。人も多すぎるし」
「これが普通かな。むしろ年末で人が少ないほうかも」
「これで少ないの?」
「まあそうだね」
地下鉄が来るとリリスはまたびっくりしている。
「地下なのに、また来たわ」
「そう、乗り継ぐから」
「わかったわ」
電車に乗るとまあまあ人がいる。美少女のゴスロリ少女に目が良くようで、視線がこちらに向くのが分かる。だが俺はまるで他人のように外を向いて黙っていた。だがリリスは俺を放ってはおかなかった。
「なに? 外が暗い。これで走ってるの?」
「地下鉄だから」
「凄い!」
まるで田舎から出て来たばかりの人みたいだった。もちろん俺も田舎の人間ではあるが、こんなに大きな声で話されるとちょっと恥ずかしい。何事も無く渋谷にたどり着いて俺達は電車を降りた。
「今度はどこに行くの?」
なんかリリスはワクワクしているようだ。とにかく俺はリリスを連れてハチ公口へと出た。するとリリスが突然大声を出す。
「うわ!」
「なに? なにどうした?」
「なに? この人の数! こんなにどこから? えっ?」
「ま、まずは一旦落ち着こうか」
そして俺は山手線の駅へと向かおうとするが、リリスが立ち止まって今にもうずくまりそうだ。
「どうしたの?」
「気持ちが悪い」
どうやらリリスは人酔いしてしまったらしい。困った俺はリリスの手を引いて、ハチ公前のパイプのベンチに座らせることにする。
「大丈夫?」
「なんでこんなに人が…」
俺はリリスの背中をさする。青い顔をしているので本当に具合が悪いのだ。
「ちょっと、待ってて」
「うん」
俺は自動販売機に走って水を買う。急いでリリスの所に戻ると男の人から声をかけられていた。
「お待たせ」
俺が戻ると男はびっくりしたようにこっちを見た。
「なんだ、彼氏がいるのか」
そう言って男は去って行った。とりあえずペットボトルの蓋を開けてリリスに渡す。
「お水だよ。少しは楽になるんじゃない?」
「ありがとう」
くぴっと水を飲んでリリスがふぅーっとため息をつく。そしておもむろに俺に言った。
「ここは、魂がうねっているわ」
「えっと」
どゆこと?
「ふう」
なんか苦しそうだ。
とにかく俺は目的にしていた占い師の店にむかうべく、スマホを出して占い師の店の場所を調べ始める。すると地図には、渋谷か新宿か目黒あたりの占い師がぽつぽつ出て来た。一番近くてランキングにも載っているような占い師がいるので、そこの住所を調べる。すぐにリリスの手を引っ張り、モヤイ像のタクシー乗り場を目指すのだった。
開いたタクシーのドアにリリスを押し込んで俺が後から乗り、さっき調べた住所を運転手に告げた。タクシーは速やかに出発するのだった。
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