第7話 どうやら本物かも

 不思議な事に俺はまだ、ゴスロリ少女リリスと自分の部屋で向き合っていた。本来はなんとしても帰っていただく方向で居たのだが、なぜか俺はリリスの言う事を聞いてしまう。


 隣りの外国人は仕事に出て行ったようだが、外国人に年末年始はないのだろうか? いやサービス業の人達には年末年始なんかないと怒られそうなので、前言撤回しよう。 


 いやいやいや、今は隣の外国人の事はどうでもいい。


 なぜ俺が、この子の言う事を聞いてしまうかが問題だ。とりあえず俺は野菜ジュースを、リリスはオレンジジュースを飲みながら話をするタイミングを見計らっている。


 先にリリスが口を開いた。


「ここ、なんていう国?」


「日本」


「ニホン…聞いた事がないわ」


 よくよく見るとリリスの顔は日本人じゃない…。紫の髪と紫の瞳のコスプレで気づくのが遅くなったがヨーロッパ系? ロシア系? アジア系のような気もするが、とにかく整った顔をしている。


「はっ!」


「なにかしら?」


「もしかしたら隣に住んでる人の娘さん?」


「違うわ」


「本当に?」


「本当よ」


 いや。こんな服装で寒空の中を歩いて来たとは思えない。コートも来ていないようだし、間違いなく隣りから来たんだろ?


 俺がそんなことを思っていると、リリスが腕を組んで目をつぶる。


「ふむ」


 なんだ? 何を納得しているんだ?


「これが隷属の腕輪の力…」


「あのー」


「それヴァンパイア討伐の折に、屋敷で回収したの」


 そう言って俺の右腕をスッと持ち上げた。一瞬LEDで光らせたように、腕輪の表面に刻まれた紋様が光ったようにみえる。


「これがなにか?」


「これは隷属の腕輪といって、着けた人が所有者の所有物になってしまうのよ」


「所有物? てことは?」


「あなたは私の所有物…」


「えっ? うそ?」


「あなたの名前は?」


「水野蓮太郎」


「レンタロウ。変わった名前」


「よく言われます」


「レンタロウは私の所有物になったの」


「そんな馬鹿な」


「私も手に入れたばかりで驚いたけど、所有物の考えもなんとなく分かるらしいわ」


 何を厨二病的な事を言ってるんだ?


「チュウニビョウとはなに?」


「えっ?」


「今、レンタロウがそう考えたから」


 いや。適当に行ったんだけど…


「適当にいわないでよ」


 俺はリリスの手を振り払い、ザザザッと後退りする。


 読心術でも使ったのか?


「読心術じゃないわ。ただ、分かるのよ」


 マジだ…マジで俺の考えている事が分かってる。


「本当なんだ…」


「そうみたい」


 俺の考えている事がリリスにだだ漏れらしい。どうしよう。


「まあ、問題ないわ。レンタロウは心根が悪くないみたいだし」


「そりゃどうも」


 そりゃどうも…じゃねーわ! 俺の恥ずかしい思いのあれやこれやが、思春期真っ只中みたいな女子にだだ漏れ? 不純な所だってあるんだぞ…まずいじゃないか!


「気にしないわ。そんなの誰にだってあるし」


「随分、達観した意見でビックリだ」


「あ、口に出して言う事にしたの?」


 何がなんだか分からない。自分が思っている事なのか、喋っている事なのかの判断もつかなくなってきた。とにかくすっごくまずい気がする。


「慌てなくても大丈夫、落ち着いて」


 と言われると途端に落ち着いて来る。


「ね?」


「うん」


 不思議だった。彼女が落ち着けというと勝手に落ち着いた。


 リリスは改まって俺に向き直る。


「冷静に聞いてね。私はあなたの言うチュウニビョウじゃない」


「うん」


「私は恐らく違う世界に迷い込んだようだわ」


「違う世界? 家出じゃなくて?」


「レンタロウは勘違いしているみたいだけど、私の世界で私は立派な成人よ。きちんと仕事をして自分で生計を立てているのよ」


「そうなの?」


「そう」


 にわかには信じられない。どこかの世界から来たとか言われても、理解が追い付かない。だけどよくよく記憶と辿ってみると、このバッグの中から出てきたようにも思えて来た。


 本当にこのバッグから出て来た?


「そう」


「どうやって?」


「これがね、あちらの世界で使ってたアイテムボックスと瓜二つなの。きっとシンクロして繋がってしまったのかもしれない」


「だったら帰れないの?」


「繋がってないみたい。というか一方通行なのかもしれないし」


「こっちからは繋げられない?」


「私はマジックキャスターじゃないから無理。しかもかなり高位のマジックキャスターじゃないと難しいのよ」


「リリスはネクロマンサーだっけ?」


「そうよ」


「ネクロマンサー的な力がある?」


「そう」


 困った。家出少女だと思っていたが、異世界から来たネクロマンサーらしい。


 …いや。新手の詐欺か? 俺は精神的にコントロールされているのか?


「だから違うって言ってるじゃない。本当に心が読めるんだって、詐欺なんか働かないわ」


 現状どうしたらいいのか分からなくなってくる。するとリリスが言った。


「どこかにマジックキャスターは居ない? そういう人に知り合いは?」


「えっと。そもそも魔法とか特殊能力を持っている人なんていないと思う。いても、近所にはいないかなあ…。せいぜい占い師とかスピ系女子とか?」


「占い師やスピ系女子って何処にいるの?」


「町に行けば占い師はいるけど」


「連れてって」


「仰せのままに」


 何故か俺は素直に従って、出かける準備をし始めるのだった。やはりこの隷属の腕輪とやらの力が働いているのかもしれない。それから五分後に俺達はアパートを出たのだった。

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