第二話 神様お願いします

 ■


 商店街のアーケードに出ると、お正月ムードな飾り付けがされている。

 と言っても、お店はどこも閉まっていて、商店街の皆で忘年会ならぬ新年会を開いている感じだ。お父さんもそっちに出ていて、昨日から帰っていない。

 ……本当に親として大丈夫なのかな?

 お昼頃にはおせちを貰って帰ってくるので、私たちはその間に初詣を済ませることにした。

 商店街のそばにはそこそこ大きい神社があるのだけど、朝早いせいか、まだ人は少ない。


 お賽銭を入れてから、大きくて太い鈴の緒を両手で掴かんで鳴らす。

 澄んだ冬の空気を揺らすように、カランカランと乾いた鈴の音が響いた。

 パンパン、と手を鳴らし、目を閉じる。

 確か願い事は、氏名と年齢と一緒に頭の中で言わなきゃいけないんだっけ。


 えーと。

 お父さんにバレずにいかがわしいことするには、どうしたらいいでしょうか。


 正直高校生が天満さまに願う内容ではないと思うんですが、中々難易度高いんです。

 まだ付き合って一週間ちょっとだし、仕方ないかなって思うんですけど、キスしたいです。でも我が家だとお父さんがやって来る気がして、とてもじゃないですけど出来ません。

 昨日お父さんが家を出てくれたらできるかな、とか思ったんですけど、思わず二人でスイッチで盛り上がって忘れてました。あとお父さんがいなくても、お父さんがどこかにドッキリカメラを仕掛けているんじゃないかと思ってできる気がしません。

 はあ、と思わず息を吐く。

 一人暮らししたら、遠慮なくいちゃつけるのかなあ。


『いや、親だから目の届く範囲にいたんじゃん? 二人がこの家にいるのが一番変化とかわかりやすいし』

  

 …………もしかしてお父さん、これを見越してタイヨウ君にうちにいて欲しい、って言ったのかな?

 あの言葉、よく意味がわからなかったけれど、片方一人暮らしをするより同じ家にいてもらったほうが、いかがわしいことがしづらい、ってこと!? わー! 一日も早く一人暮らし出来るようになりたいです! お願いします神様!


 すごく時間をかけて祈ったつもりだったのに、顔を上げると、まだタイヨウ君は手を合わせていた。

 長いまつ毛に、小さな雪が落ちて溶ける。

 私は、何か見てはいけないものを見た気がして、慌てて頭を伏せた。

 ……タイヨウ君は、何をそんなに祈っているんだろう。








「あ、大吉だ!」


 タイヨウ君は? と聞くと、「俺は中吉です」とタイヨウ君が答える。

 どっちも悪くない結果だ。境内に結ぶ必要はないだろう。

 ところが、タイヨウ君はそのくじを結ぼうとしていた。


「え、なんで?」

「あ、いや……」


 一瞬、タイヨウ君は悩む素振りを見せたけど、どうぞ、と私に差し出した。

 おみくじの内容を見ると、ほとんど悪いことは書いてなかったけれど、病気やまいだけ少し引っかかる文が書いてあった。


『おもし信心せよ』


「……タイヨウ君、なんか病気かかってる?」

「いえ、いたって健康なんですが……」


 病気欄にこう書かれているの、ちょっと嫌だな。

 一番高いところに結んでもらうことにした。ついでにもう一回祈っておく。

 さっきの願いはどうでもいいんで、タイヨウ君が病気にならないようにしてください。というか皆が健やかに暮らせるように、全世界平和にしてください。

 

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