【カクヨムコン9短編】幼なじみが私にだけ変わらず敬語を使ってくる。

肥前ロンズ

第一話 おつき合いを始めて、初めてのお正月

 カーテンを開けると、窓が結露して濡れていた。

 雪が降っていたみたいで、目に染みるほど真っ白な世界が広がる。

 ところどころ、細い枝や、黒い土が見えて、そのコントラストがまた雪の白さを引き立てていた。

 窓越しに伝わる冷気に耐えながら、私は着替えて部屋を出る。

 すると、同じように部屋のドアを開けていたタイヨウ君に会った。

 着ているものは首から脇にかけて切り替えているラグラン袖と黒いスウェットで、艶やかで整った髪は、タイヨウ君の綺麗な頭の形に沿っていて、寝癖一つもない。

 おはよう、と言いかけて、私はいやいや、と思い直す。

 

「あけましておめでとうございます、タイヨウ君」

「あけましておめでとうございます、ミヅキさん」


 ほとんど同じタイミングで挨拶したので、思わず二人で笑ってしまった。

 タイヨウ君は今も、私の家で暮らしている。



 ■

 


 あの後、タイヨウ君はお父さんにおつき合いの報告をした。

 そうしたらお父さん、


『…………え? 付き合ってなかったの?』


 と、目を丸くしていた。


『だってミヅキの送り迎えとか、すんごい献身的だったし……あれで付き合ってないとは思わなかったし……』


 ……それは、確かにそう。

 我ながら、今思うと「これ、付き合ってるんじゃない?」という行動ばかり。

 なんで私、ずっと無自覚だったんだろう。思い出すだけで顔から火が吹き出しそう。


『え……じゃあなんでタイヨウ君、うちに住まわせたの?』


 そう尋ねると、お父さんさんは少し考えてから、寂しそうな顔で、

 

『セイナが死んで、俺が今死んだら、お前が一人になると思ったんだよなあ』


 と言った。

 セイナは、お母さんの名前だ。


『あん時は俺も参っててな。俺が今死んだら、お前は誰に頼ればいいんだって、すんごい悩んでたんだよ。

 常連のヨシコさんや、商店街のジジババたちに頼むには心許なさすぎる。若くて将来があって、俺たちの事情を知っている人間がいたらなあ、って思ってたんだよ』


 これそのまま伝えると、二人とも別れたいって思った時、別れづらいかなって黙ってたんだけどさー、とお父さん。

 ……つまりタイヨウ君の心配というか対策は、杞憂だったのかな。思った以上に先回りされてた。


『というか、付き合っている男女をひとつ屋根の下に置かせるのは、親としてどうなの?』 

『いや、親だから目の届く範囲にいたんじゃん? 二人がこの家にいるのが一番変化とかわかりやすいし』


 ……そういうものなのかなあ?


『ってなわけでだ、このまま居てくれねえかな』


 タイヨウ君がいてくれると、何かと助かるんだよ。

 その言葉に、タイヨウ君は目を輝かせて了承した。


 ……あれ、私よりお父さんの方に好感度MAXじゃない?

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