第125話 再確認

 その夜、リアナは真っ白の寝衣姿で、目を細めたままルティスの部屋に入ってきた。

 ベッドに座ったままのルティスだったが、その顔を見てビクッとする。

 リアナはそんな彼にずずいっと近づくと、顔を寄せて囁いた。


「覚悟はできてますよね……?」


 そして、そのまま彼のお腹の上にドスンと座って上から見下ろした。

 彼女はそれほど重くなく抜け出そうと思えば簡単だが、もちろんそんなことをすると次に何をされるか予想できる。


「あはは……」


 苦笑いしながらも、どうするのが良いのかを思案する。

 ただ、顔は怒っているような表情だけれども、そんな空気はなくて。


 馬乗りになったリアナの肩に両手を伸ばし、そのままぐいっと抱き寄せた。


「ふにゃっ!?」


 バランスを崩して慌てたリアナと顔がぶつかりそうになるが、彼女は彼の胸に手を当ててギリギリで止める。

 間近ではっきりと合った彼女の目は先ほどのように細くはなく、驚きもあってか、いつものように大きく開かれていた。


「…………」


 彼女はしばらく無言でルティスの目を見つめていたが、やがて力を抜いてそっと顔を近づけた。


「ん……んぅ……」


 くぐもった声を鼻から漏らしながらキスを落としたリアナの髪が、ルティスの頬にさらりと触れる。

 ほんの少しチクチクとするその髪を整えるように指を梳かせると、彼女もそれに応えるようにルティスの頬に手を触れた。唇を合わせたまま。


「……覚悟はしてますよ。俺、ずっとリアナが一番大事だって思ってますから。変わってませんから」 


 抱き合うように、ルティスの上にぴったりと身体を乗せたままのリアナの耳元でそう呟く。

 皆がいる場ではなかなか伝えられないけれども、彼女を初めて抱きしめたときからその気持ちは変わっていない。


「…………」


 それを聞いたリアナは、黙ってルティスの目をじっと見つめていたが、やがてその青みがかった瞳がじわっと潤んだ。


「……はい。私もそう信じてました。あのときルティスさんが私を『一番』だって言ってくれたこともずっと覚えてますから」


「そうでしたね」


 目に涙を溜めたまま、嬉しそうに微笑む彼女の頭に手を伸ばして抱き寄せるように撫でると、リアナは頬を擦り付けるように身体を密着させてくる。


「ルティスさんがちゃんと言ってくれましたから、私からこれ以上なにも言うことはないです。……あとは、わかってますよね?」


 リアナはルティスの耳を軽く喰みながら囁く。

 ぞくっとするような艶かしい声と感触に、ルティスの体が一瞬ビクッとしたのを見て、リアナは小さく笑う。


「んふふ。だいぶされましたから。明日の朝、起きられないかもしれませんね」


「えーっと、明日からカレッジはあるんですよね? 大丈夫かなぁ……」


「まー、朝ごはんはライラが作ってくれますよ。出発までに起きられれば、なんとか」

 

「あはは。それもあとどれくらいなんでしょうね」


 ライラは近々にはこの家を出るという話だ。

 だから、リアナの手伝いができるのそれほど長くないだろう。


「さあ。ライラがいなくなったら寂しい……ですか?」


「まぁ、多少は。でも賑やかなのはそんなに変わらないでしょうし」


「ですねー。私の仕事は増えますけど。……ルティスさん、手伝ってくれます?」


「もちろん。料理はできませんけど、掃除洗濯くらいなら」


 ルティスの返答に満足したのか、リアナは彼の頭をよしよしと撫でた。


「はい。期待してますね。前みたいに、一緒にお仕事できるのが嬉しいです」


 そう言ったあと、リアナは身体を少し起こしてから、もう一度ルティスに顔を寄せた。


 ◆


「おっそーい」


 翌朝、ルティスが起きて食堂に顔を出すと、不貞腐れたような顔でアリシアが頬を膨らませていた。

 リアナはまだルティスのベッドでぐっすりと寝たままだ。

 アリシアの護衛の時間が近いということで、なんとかルティスだけ起きた、というのが現状だった。


「す、すみません」


 ルティスが謝ると、アリシアは「ふぅ」と息を吐いて表情を戻した。


「ま、リアナのせいだってのはわかるけど。夜遅くまでお楽しみだったんでしょ?」


「あはは……」


 ルティスが頬を掻くと、珍しく先に起きてパンを食べていたヴィオレッタが首を傾げた。


「お楽しみ? なんかゲームでもしてたの?」


「えっと、それは……」


 どう答えようかと思って口をくぐもらせたルティスを見て、アリシアが代わりに答えた。


「それはね、ルティスとふたりっきりのときに聞きなさいね。教えてくれるわよ」


「ふーん……」


 いまいち理解できていない様子のヴィオレッタだったが、その隣で黙って座っていたイリスがそっと彼女に耳打ちした。

 それを聞いた途端、みるみるうちに頭から湯気が出るほどに真っ赤になっていく。


「そ、そ、そういう……こと……!? ふ、ふーん……なるほどぉ……」


 精一杯平静を保とうとしているが、その声は震えていて。

 その様子を見ていると面白く思えた。


 ちなみに、この家にはもう空き部屋がなかったこともあり、イリスはヴィオレッタの部屋の床で毛布に包まって一晩を越していた。

 彼女はしばらくヴィオレッタの近くにいるということで、ティーナの部屋が片付いたら充てることを予定していた。


「それじゃ、私はカレッジに行くわ。ルティスさん、頼める?」


「はい。それじゃ、行きましょうか」


 ルティスが頷くと、ヴィオレッタも立ち上がった。


「ルティスが行くなら、わたくしも行くー」


「すぐ近くのカレッジまでついて行くだけですよ?」


 ルティスが答えるが、ヴィオレッタは首を振った。


「それでもいいもん。どうせ暇だから」


 お伺いを立てるように、ルティスがアリシアを見ると、彼女は小さく息を吐きながら言った。


「ま、イイけど。早く行きましょ」


「はーい」


 その言葉に、ヴィオレッタは片手を挙げて返事をした。


 ◆◆◆


【第11章 あとがき】


アリシア「なんか、この章ってすっごく長かったわね?」

リアナ 「ですね」


アリシア「作者から何か聞いてる?」

リアナ 「えっと、答えにくいのですが……。どうやら、区切りに悩んでダラダラと書いてたら、こうなっちゃったみたいですよ?」


アリシア「ふーん。つまり、計画性がない、と?」

リアナ 「ストレートに言うとそうですね」


アリシア「ダメねぇ……(ため息)」

リアナ 「はい。ダメダメです(ため息)」


アリシア「それはそうと、あの子に良いようにされてるのがちょっと……」

リアナ 「無邪気すぎて手強すぎます……(ため息)」


アリシア「前回のあとがきで危惧してた通りになったわねぇ……」

リアナ 「胃袋を掴むことには成功しましたけど」


アリシア「それは良いんだけど」

リアナ 「まぁ、お嬢様にとっては死活問題ですね」


アリシア「それどういう意味? リアナにだって当てはまるんじゃないの?」

リアナ 「んふふ……(私は一番だからネ)」


アリシア「その余裕、なんかムカつく(イラッ)」

リアナ 「ま、まぁそれはそれ。次章はなんと魔族領に行くことになりそうですよ?」


アリシア「まさかそんなことになるとは」

リアナ 「作者にもこれは予想外だったみたいですね(笑)」


アリシア「まさに計画性ゼロ」

リアナ 「ですね」


ヴィオラ「ねぇねぇ、ふたりでなに話してるのー?」

リアナ 「はい、魔族領はどんなところなのかな、と」


ヴィオラ「んー、行ったらわかるよー」

リアナ 「なるほど(つまり作者はまだなにも考えてない、と)」


アリシア「なにもないことを祈るわ……」

ヴィオラ「大丈夫だって。イリスだって、他の守護者と変わらないくらい強いんだから」


リアナ 「そうなんですね。魔族はよくわかりませんねぇ……」

ヴィオラ「そのうちわかってくるよー。」


アリシア「そうね。……そろそろ良い?」

リアナ 「ええ。それでは、また次章もお楽しみに」


ヴィオラ「ばいばい」

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