第71話 帰路へ
「あっはは、ごめんごめん」
頬を膨らませるリアナに、ケラケラと笑いながらティーナは謝った。
「でもね、たぶんあの子はなにか意図があってあなたに言わなかったんだと思うのよね。だから、私が勝手に言うのも良くないかなぁって……」
「そう……かもしれませんけど……」
「だから、これからあの子に会ってくるわ。それからね」
「会うって……。ムーンバルトまで行くってことですか?」
聞き返したリアナに、ティーナは頷く。
ここからひとりでそれだけの距離を移動して、アンナベルに会って来るというのか。
「ええ。あなたたちが王都に戻るのだって、すぐじゃないんでしょ? その間にのんびり行ってくるわぁ」
「……わかりました。それでは、私が手紙を書きます。それを侯爵に渡せば、すぐ面会できると思います」
「ありがとね。……ま、私ならどこでも入り放題だけど」
コソ泥し放題とばかりに自慢気に話すティーナに苦笑いしつつ、ルティスは話を続けた。
「えっと、それはそのあと王都に来ていただいて、教えてもらえるということですか?」
「そうなるわね。……しばらく住むところあるかしら?」
ルティスはリアナと顔を見合わせてから答えた。
「今借りている家に、まだ空き部屋があります。一応、アリシアにも確認しないといけませんけど」
「それ助かるわぁ。私、家事とか苦手なのよねー。……それじゃ、みんな呼んできましょうか」
ティーナは込み入った話は終わりだとばかりに、「よいしょ」と口にしながら立ち上がった。
◆
「――と言うわけなんですけど、お嬢様、どうでしょうか?」
ライラと共に村を散歩していた皆を再び集めて、リアナはアリシアに簡単に内容を説明した。
もちろん、ティーナの魔法の詳細はこの場では伏せてある。
「いいんじゃない? 私がカレッジに行く間は、どうせふたりとも調べ物ばっかりだったでしょ? それが魔法の練習に変わるだけだし。部屋もまだ2部屋空いてるし、食事だってひとり増えたくらいならそんなに……」
「そうですよね? ――それでは、よろしくお願いします、ティーナさん」
あっさりとアリシアが二つ返事で頷くと、リアナはティーナに改めて向き合って頭を下げた。
ティーナは満足そうに頷く。
「うんうん。よろしくね。……でも、これから私のことは『師匠』と呼びなさいね、えっへん」
「……は、はい。ティーナ……師匠……」
言い慣れない言葉にリアナが口ごもる。
そんな様子を見て、ティーナが笑う。
「あっははは。冗談よ、冗談! 気にしなくて良いわよ。それに、そもそも『ティーナ』だってニックネームだもの」
「……え、本当の名前って……?」
ルティスが聞き返すと、ティーナが口角を上げる。
「にひひ、もちろんヒ・ミ・ツよ」
そして――最初から予想していた返答が返ってきた。
◆
村人たちの亡骸は、ティーナが村の外れの大きな岩の近くに埋めてくれたと聞き、村を去る前に立ち寄っていた。
数も数えてくれていて、ライラが知っている限り、子供3人以外の全員だった。
つまり、ライラの両親も土の中だということだろう。
「……そろそろ行きましょう」
「お別れはもう良いの? ライラ……」
無言で涙を溜め、岩の前でしばらく立ち尽くしていたライラだったが、片手で涙を拭くと、ゆっくりと振り返る。
目は赤く腫れていたが、表情は晴れやかに見えた。
「はい。皆さんのお陰で、最後にもう一度、村に戻ってくることができましたから。……ありがとうございました」
「最後と言わず、いつでも戻ってきていいのよ? そのほうが私が楽できるのにぃ……」
緊張感の欠片もない声でティーナが言うが、ライラはゆっくりと首を振った。
「わたしはもう村には戻らないと思います。家族もいませんし……」
「……そう。自分で決めたなら、それが一番よ」
「はい、本当にありがとうございました」
ライラはもう一度頭を下げる。
ティーナは小さく手を振ってから、ひとりくるっと向きを変えた。
「それじゃ、またね。――次は王都で会いましょう」
「はい。お待ちしております」
リアナがその背中に声を掛ける。
彼女の姿が見えなくなったあと、アリシアが口を開いた。
「――さ、それじゃ、私達は私達の仕事を済ませてから、王都に戻りましょうか。明日から頼むわよ、フェリック君」
「ええ。お手伝いよろしくお願いします」
声を掛けられたフェリックは、本来の目的である研究室の仕事に向けて、気持ちを切り替えるように大きく頷いた。
◆◆◆
それからティーナを村に残したまま、皆は一度バララオの町に戻った。
翌日から1週間ほどかけて、ライラに案内してもらいながら、ムルラン地域の森を廻った。
結果、図鑑に乗っていたうちの4種類の魔法植物を採集することができ、初めての遠征にしては十分な成果と言えた。
そして、また5日間の移動をして、無事一行は王都に戻ってきた。
「お疲れさまでした、皆さん」
カレッジの前で馬車を降り、採集した魔法植物が入った袋を手にしたフェリックが頭を下げた。
彼は一度研究室に寄って魔法植物を教授に預けてから帰るが、アリシア達はここで別れてそのまま洋館へと帰る予定だ。
「ええ、無事帰って来られて良かったわ」
「そうですね。ライラさんも、案内ありがとうございました。お陰でスムーズに進みました」
「は、はいっ。お役に立てて嬉しいです」
フェリックはライラにも礼を言うと、彼女はペコペコと頭を下げていた。
その様子を微笑ましく見ながら、アリシアは言った。
「ふふっ、フェリック君もいつでもうちに遊びに来ていいわよ。それじゃ、また明日ね。――じゃ、行きましょ」
「はい。ありがとうございました」
アリシアの声かけに、残るフェリックに挨拶をしてルティスたちも洋館へと足を向けた。
◆◆◆
【第8章 あとがき】
ルティス「いやぁ、この章はちょっと長めでしたね」
アリシア「そうね。まぁ、仕方ないんじゃない?」
ルティス「ですかね。俺の魔法も少し分かってきたし、早く覚えてみんなの力になれるように頑張ります」
アリシア「ふふっ、楽しみにしてるね。……って、私まだルティスさんの魔法、何なのか聞いてないんだけど……?」
ルティス「う……。ティーナさんに口止めされていて……」
アリシア「私にくらい、良いんじゃないの……? 婚約者よ?」
リアナ 「(唐突に)ダメですー」
アリシア「わわっ、びっくりさせないでよ!」
リアナ 「んふふ」
アリシア「リアナはなんでOKだったのかしら……?」
リアナ 「ティーナさんが言うには、私はルティスさんのパートナー(意訳)らしいのですっ!」
アリシア「むきー! 理解不能よっ!」
リアナ 「まぁ、私にもよく分かりませんけど。……まだ」
アリシア「『まだ』って何よ、『まだ』って……」
リアナ 「そのうち教えてくれる……かもしれません(苦笑)」
アリシア「ふーん……。それはそうとして、ティーナさんて何歳くらいなのかしら……?」
ルティス「さぁ……。口ぶりからは、少なくとも200歳は超えてそうですけど……」
リアナ 「私は300歳は超えてると見ました。……どうやったらそんな長生きできるんでしょうか?」
ルティス「ティーナさんの魔法に関係あるんでしょうかね? それとも、実は魔族だったり……?」
リアナ 「…………まさか」
アリシア「ま、それもそのうち分かるでしょ」
リアナ 「ですね。……それではそろそろ」
ルティス「はい。引き続き次章もお楽しみください」
アリシア「まったねー(手を振る)」
リアナ 「……(ぺこり)」
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