第70話 本当の力
「あの……。ひとつお願いがあるのですが……」
話が途切れたタイミングで、リアナがティーナに話しかけた。
ティーナはそのことを予想していたかのように、真剣な眼差しでリアナに向き合う。
「はい、なんでしょうか」
「……母と同じように、私も指導してもらえないでしょうか。私はもっと強くならないといけないのです」
「別に構わないけれど……。ただ、あなたの魔法、私は使えないのよね。昔、あの子に見せてもらってるから教えられなくはないんだけど」
ティーナの話の通りとするならば、リアナの持つ聖魔法は使えないということか。
ただ、母であるアンナベルがあれほどの強さを誇る理由が、ティーナに師事したからであるというのならば、まだ自分も伸びる余地があるように思えたのだ。
「それでも構いません」
「――ちょ、ちょっと待ってよ。リアナ、このあとどうするのよ? ここに来てるのはカレッジの調査の為ってこと、忘れてるワケじゃないでしょ?」
しかし、慌ててアリシアが話に割り込んだ。
今日は休暇を充てて、1日このネビア村に来たのだが、明日からは魔法薬の材料に使えそうな植物を集めるため、このムルラン地域を周る予定にしていた。
そのこと自体はリアナもわかっていたが、そもそも王都に来た理由の方が優先だと思ったのだ。
「……そうなんですけれど、もともと王都に来たのは魔族に対抗する手段を探すためです。この機会を逃すのは大きな痛手です」
「確かにそうだけれど……」
リアナの言い分にも一理あると思って、アリシアは頭を抱えた。
そのやりとりを見ていたティーナは、軽い調子で口を挟む。
「ちょっと教えるくらいなら、私がしばらく王都に行っても良いけど? ……あと、そっちのあなたにも教えないといけないような気がしているし」
「俺ですか? 教えていただけるならありがたいですが……」
ルティスに向かって言ったティーナに、彼は申し訳なさそうな顔を見せる。
「ええ。あなたに教えられるのは、私しかいないから」
「……それは、空間魔法を、という意味でしょうか?」
ティーナの血を引いているのが自分だというのならば、彼女が先ほど使ったのは空間魔法であると推測していた。
しかし、彼女は意外そうにキョトンとした顔を見せる。
「空間魔法? ……あぁー、昔そんな名前で呼ばれたこともあったっけ……」
「違うのですか?」
「違うわ。……教えても良いけれど、ごめんなさい。あまり関係ない人には教えたくないの。危険すぎるから……」
そう話すティーナを見ていたアリシアは、ぐるりと一同を見渡した。
「……私たちが席を外したら、ルティスさんには教えてもらえるかしら?」
その提案にティーナは頷く。
「ええ、良いわよ。……あと、リアナさん。あなたも聞いていいわ。知っておくと、きっと役に立つから」
「私ですか?」
自分を指差しながらリアナは不思議そうな顔を見せる。
頷くティーナを見て、アリシアは皆に目配せしながら立ち上がった。
そして、ルティスとリアナを残して一度家を出ていく。
皆の気配が離れたことを確認したあと、ティーナは改めて口を開いた。
「さて……
ふたりの前で「ドヤァ」と胸を張るティーナから威厳は全く感じられないが、先ほどその魔法を目の当たりにしたあとでは凄さがわかる。
しかし、それで何ができるのか、いまいちわからなかった。
「時間を操るって……。止めたり、遡ったりできるってことですか?」
「いえ、遡ることはできないの。一度決まった過去は変えられない。でも、周りの時間を止めたり、逆に加速させたりはできるわ。例えば――」
ティーナがそう言った瞬間、ふっと彼女の姿が消える。
「――こんな感じね」
それと同時に、全く反対の方向から声が返ってきて、ふたりは驚きつつも振り返った。
周りの時間を止めて、その間に移動したのだろうか。
ルティスがかつて無意識にやってみせたことがあったものと、全く同じに思えた。
優雅に席に戻りながらティーナは話を続ける。
「でもね、自分以外の全ての時間を止めるのは、ほんの一瞬しかできないわ。ものすごい魔力がいるの。ただ、限られた範囲の時間を止めるのは、いくらでもできる。逆に早めることも」
テーブルの上に生けられた花の1本を手にして、ティーナは目の前にかざして凝視した。
すると、その花はあっという間に萎れて塵になってしまった。茎は緑色のまま……。
「これは花だけの時間を早めたの。……さっきの魔族はね、こうして一瞬で何千年も時間を進めたのよ。魔族といっても、無限に生きられるワケじゃないから、いつか滅びる……って訳」
「それは――」
話を聞く限りでは、ルティスには無敵の魔法に思えた。
相手に寿命がある限り、負ける要素は見当たらなかった。
「ただね。やっぱり魔法なのは変わらないから、防がれる場合もあるのよね。だからあまり細かいことは知られたくないの」
「なるほど……。でも、その話と、私の役に立つってことと、どういう関係があるんでしょうか?」
それまで黙って話を聞いていたリアナが尋ねた。
「……つまり、本当に強い魔族が相手なら、私の魔法だけじゃ勝てないの。そのとき役に立つのがあなた、ということね」
「ええと、私の聖魔法が……ということですか? でも、それならお嬢様も使えますし……」
リアナが不思議に思って首を傾げる。
しかし、ティーナは意外そうな顔をした。
「あら? あなた聖魔法が使えるの……? 確か、アンナベルは使えなかったはずだけど……」
「――え? そういう話じゃなかったのですか?」
リアナは話が噛み合っていないことに気づく。
ティーナは真剣な顔で顎に手を当てて、じっと何かを考えているようだ。
「……あの子、何を考えて……? ううーん……」
しばらく唸っていたが、「まぁいいか」とティーナは顔を上げた。
「なんでかはわからないけれど、あの子、あなたに教えていなかったのね。あなたの本当の力のことを……」
「本当の力……? それはどんな……?」
身を乗り出したリアナに、ティーナは鼻息荒く胸を張った。
「それは、ヒ・ミ・ツ。――てへっ」
「――に゛ゃー! またですかっ! それっ!」
もったいぶるティーナに、リアナはバンバンと机を叩いて突っ込まずにはいられなかった。
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