第64話 バララオ町へ
それから――。
深夜に起きてきたフェリックと見張りを交代し、ルティスとリアナは馬車で寝ることにした。
狭い馬車では横にはなれないが、座って寝ることで多少の休息にはなるだろう。
ふたりが馬車に乗るときにアリシアたちも目を覚ましたが、少し状況を話しただけで、細かい話は朝にすることにした。
フェリックが乗っていた前席にふたりが乗り込むと、それまでの疲れもあってか、身体を寄せ合ったままあっという間に眠ってしまった。
◆
翌朝、ルティスが起きた頃にはすでに馬車の修理は終わっていて、朝食として保存食を食べた後、すぐに町に向けて出発した。
硬い座席だったこともあり、疲れはほとんど取れていないが、我慢して乗っているしかない。
御者は馬に慣れていたのだろうか。それにテントでゆっくり休んだからだろうか、あまり疲れている様子は見えず、昨日まで同じように馬車を走らせてくれていた。
そして、昼過ぎには目的としていたムルラン地域の最寄りの町、バララオに着いた――。
このバララオからは徒歩で調査に向かうことになる。
そのため、馬車は帰途に就くまでの間はここで待機してもらう手筈だ。
皆、これまでの移動での疲れが溜まっていることから、本日と翌日はこの町に滞在して身体を休ませることにした。
「ライラはこの町に来たことはあるの?」
「はい、買い出しのときはここしかないですから、良く来ましたよ。懐かしいです」
アリシアが聞くと、笑顔で周りをキョロキョロとしながらライラが答えた。
このバララオは近代的な雰囲気ではなく、露店が多く立ち並んでいて、雑多な印象を受ける。
しかし、町を歩く人々は多く、活気に溢れた雰囲気だ。
宿に向かうために町の中心部を歩いているとき、ライラがとある食料品の店頭で品出しをしていた店員と顔を合わせた。
「あ……」
自分たちの母親くらいの年代の女性が、ライラの顔を見て驚いたような顔を見せる。
その声でライラも気づいたのか、小さく頭を下げると、その女性は急いでライラのところに駆け寄ってきた。
「あなた、ネビア村のっ! 大丈夫だったの!?」
女性はライラの住んでいた村が襲われたことを知っていたのか、彼女の顔を心配そうな顔で見た。
「は、はい……。他の皆はどうなったのかわかりませんけど……たぶん……」
その時のことがライラの頭にチラついて、少し視線を伏せた。
そんなライラの様子を見た女性は大きく息を吐いた。
「そう……。他の村も襲われたって話聞いてたから、みんな心配してたのよ。……でも、あなただけでも無事で良かったわ」
「ありがとうございます。……わたしも一度売られたんですけど、こちらの方々に助けてもらいまして」
ライラはそう言ってアリシアたちの方に顔を向ける。
アリシアは心配させないよう、柔らかい笑みを浮かべたまま、小さく頭を下げた。
「良かったわね……。困ったことがあったら相談してね」
「はい。また寄りますね」
ライラは笑顔で手を振って、女性と別れた。
村が無くなり、これまで生きていた証が全て消えてしまったようにも思っていたけれど、自分をまだ覚えてくれていた人がいたことを嬉しく感じた。
そして、宿に到着して受付を済ませる。
雇っている御者は長期に滞在するが、残りの皆はとりあえず2日分の宿を取った。
部屋数に余裕があったことから、全員別々の部屋だ。
「とりあえず夕食までは自由時間でいい?」
アリシアが全員に確認すると、それぞれ考えを言う。
「はい。すみませんけど、俺はしばらく部屋で休みます」
「……私もそうします」
まだ疲れが取れていないルティスとリアナは昼寝をすることを選択する。
「僕は初めてなので、しばらく町を見て回ろうと思います」
一方、フェリックも見張りで睡眠不足だとは思うが、町に興味があるようだ。
「わたしは特に予定がありませんけど、久しぶりに戻ってきましたので、少し散歩したいです」
ライラも懐かしい町だということもあって、外に出かけることを希望する。
それを聞いてアリシアが提案する。
「……ライラがひとりで出かけるのも不安だし、どうせならフェリック君に町を案内してあげたら? そしたら安全だし、ちょうど良いわよね?」
「わたしは構いませんけど……」
「僕も良いですよ。全く土地勘がないので、案内してくれると迷わずにすみます」
「なら決まりね。……私はどうしようかしら」
昨晩休ませてもらい、そこまで疲れが酷くないアリシアはどうしようかと考える。
町を見て回りたい気持ちはあったが、ひとりでは危ないし、かといってライラたちに付いていくのも気が引けた。
それに……。
(絶対、リアナはルティスさんの部屋に行くわよね……)
昨日の彼女の様子からして、この状況で、リアナがひとりで昼寝をするはずがないと断言できた。
そのこと自体はともかく、リアナに取られっぱなしなのは気に食わない。
「うーん、私はとりあえず部屋でのんびりしてるわ。夕食にはみんなで行きましょう」
「わかりました。それでは、いつもみたいに6時ごろでいいですかね? このあたりで集合ということで……」
「ええ、良いわよ」
ルティスが集合場所を提案すると、アリシアは頷いた。
そして、それぞれ別れて部屋に向かった。
◆
「ふぅ……」
部屋に入ったルティスは、荷物を置いてベッドに腰掛けた。
昨日は昼頃から夜まで、馬に乗って御者の警護と、魔法で道を照らす役目を担っていた。
そして、しばらくリアナと見張りをしたあとは、馬車で寝たとは言え、硬い椅子では疲れがほとんど取れなかった。
そのため、肩も凝っていたし、乗馬のために内ももはパンパンだ。
少しでもベッドでゆっくりと休んで回復させないと辛い。
そう思ってベッドに寝転がる――。
しかし、扉のノックされる音が部屋に響いたのは、それからすぐのことだった。
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