第41話 言い訳
それから、たったの3週間。
アリシアの留学話はトントン拍子で進んだ。
ちょうど研究室にも空きがあるという連絡が先方からも届き、すぐに王都に向かう話がまとまった。
普通ならば、父親から許可が下りるような話ではないが、いつ魔族に狙われるかわからない現状を鑑みて、身を隠すことを優先することになったのだ。
リアナはもちろん護衛を兼ねて付き人として同行することになり、ルティスも学園祭での優勝という肩書を得て、婚約者として同行が許可されることになった。
◆
ムーンバルトを発つ前日――ルティスは私室の荷物の整理をしていた。
とはいえ、整理はするものの、いずれ戻ってきたときにはまた使うことも考えて、部屋自体はそのまま維持されることになる。
片付けの様子を見に来たリアナには「大した荷物もないのに時間かかりすぎです」と呆れられつつも、彼女にも手伝ってもらって整理をつけることができた。
ようやく綺麗になった部屋を見渡し、感慨深く呟く。
「初日、いきなりここでリアナさんに壁まで吹っ飛ばされたのが懐かしいです……」
「……それは、ルティスさんが準備遅いことに、ぐだぐだと言い訳なんかするからですよ?」
呆れるように言ったリアナに苦笑いを返す。
「あはは。そうですね。あの頃のリアナさんはすっごく怖かったです……」
するとリアナはすぐに表情を変え、申し訳無さそうな顔を見せる。
「……ごめんなさい。……本当は私、最初からずっとずっと、ルティスさんとは仲良くしたかったんです。でも、気が緩んでもいけませんし……。それに、万が一にもルティスさんがお嬢様ではなく……私を選ぶなんてあってはなりませんでしたから……仕方なかったんです」
ルティスに向き合って、ぺこりと頭を下げたあと、リアナは穏やかに笑った。
出会った頃は全く表情を変えず、厳しいことばかり言っていたリアナだが、それはただ本心を隠すためのものだったということを今は知っている。
もちろん、今も彼女の使命からくる厳しさはある。
しかし、特にふたりきりのときは、はにかみながら笑う仕草が本当に可愛らしくて、見慣れてきた今でも見惚れてしまうほどだ。
ただ――そんなリアナに、ルティスはわざと意地悪を言った。
「……あれ? リアナさんが言い訳するんですか?」
「…………ぅ」
リアナは自分の言葉を
それ以上何も言えずに、ルティスの顔を恨めしそうに見上げた。
「す、すみません。冗談ですよ、冗談……」
「またルティスさんがいじめる……」
「だから、すみませんって。……ほーら、よしよし」
慌てて取り繕うように手を伸ばして、彼女の髪をそっと撫でると、リアナはにんまりと口角を上げた。
「……リアナさんが厳しくしてくれたから、俺頑張れたんです。最初から優しかったら、絶対甘えてたと思います」
「はい。私もそう思って。…………それで、その……」
突然もじもじし始めたリアナは、ゆっくりルティスとの距離を詰め、上目遣いでじっと顔を見つめた。
「……これからは『リアナ』って呼んでください。一応、建前上ルティスさんはお嬢様の婚約者で、もう私の部下ではありませんし、私も……その方が嬉しいです……」
「……わかりました。リ、リアナがそのほうが良いんでしたら……」
「ふふっ、すぐには慣れませんよね……。あと……これからは私が甘えさせてほしいです。……かまいませんよね……?」
そう呟いたリアナは、おもむろにルティスに抱きついてきた。
「……ぎゅー」
彼の胸に顔を埋めると、小さな声でそう呟く。
ルティスは、そんなリアナの柔らかい髪を梳くように、そっと指を滑らせた。
「……ルティスさんに頭を撫でてもらうの、大好きです……。すごく気持ちいいんです……」
目を細めて、その感触に身を任せる。
「……いつも頑張ってるの、尊敬してます」
「んふふ。嬉しいです。……これまでお嬢様しか褒めてくれる人いなかったから……」
最後にぽんぽんと頭に手を乗せると、リアナはうっとりした顔で見上げる。
そして――。
爪先立ちになり、ぐいっと唇を押し付けてきた。
「ん……ぅ……」
時間を忘れるくらい長い口付けを交わす間、しんとした部屋には、ふたりの荒い息遣いだけが聞こえていた。
ゆっくりと顔が離れたあと、リアナはまたすぐに彼の胸に顔を埋めて、想いを吐露する。
「……ふにゅぅ。頭が……真っ白になりました……」
「……俺も」
見慣れているメイド服姿だとはいえ、その格好で恥ずかしそうにもじもじしているリアナは新鮮に映る。
ルティスは今度は自分から強く抱きしめて、耳元で囁く。
「……リアナが可愛い」
「んふふ。……この格好、今日でとうぶん見納めですよ?」
「そうでしたね。よく似合ってるのに残念です」
素直に思っていたことを伝える。
実際、小柄な彼女にはよく似合っていると思っていた。……ただし、笑顔の時は。
「……ありがとうございます」
ルティスは片手を彼女の背中に回したまま、ぐいっとリアナの姿勢を崩すと、もう片方の腕で足を抱えて抱き上げた。
「――ふわぁっ⁉︎」
突然のことに驚いた声を上げるが、ルティスはそのままリアナを抱き抱えると、そっと彼女をベッドに横たえた。
そして、間近で顔をじっと見つめ、そっと唇を重ねた。
「……可愛いです」
「……ルティスさん。……あの……せめて、か、鍵を……」
リアナも真っ赤になったまま、気持ちが抑えられなくて、ルティスに部屋の鍵を閉めることを要求する。
「……わかりました」
しかし――。
ルティスが扉に向かおうと体を起こしたとき、突然ノック音が部屋に響く。
そして、すぐに「入りますね」という声と共にガチャリと開いた。
「――なっ、ななな……!」
隙間から顔を見せたアリシアの目には、恥ずかしそうにベッドに横たわるリアナと、彼女に覆い被さろうとしているルティスの姿が飛び込んできて。
目を丸くしつつも、すぐに頬が染まっていく。
「あ、あの……! これは……ち、違うんですっ……」
「…………」
慌てて弁明するリアナを他所に、アリシアはパタンと扉を閉めると、無言で鍵をガチャリと回した。
「お、お嬢様……?」
戸惑いながら聞くと、アリシアは腰に手を当てて言った。
「……さ、さすがにリアナでも……。まだ仕事中にこれは……ちょっと問題なんじゃない……?」
「い、いえ……! こ、これはルティスさんが急に……っ!」
「へー、
そう言われて、リアナは確かに自分から先に抱きついたことを思い出して、顔を青ざめさせた。
「きゅううぅ……」
「ほら、やっぱりそうじゃない! …………ば、罰として私も混ぜなさいよっ」
「「ええっ!?」」
アリシアの提案に、ふたりが驚いて声を上げると、アリシアは口を尖らせる。
「だってだって……。いつもふたりで楽しそうにしてるの見てて、寂しかったんだもの……」
「……んん? お嬢様が来られたのは、もしかして……? ――なるほど。そうでしたか……」
「…………」
アリシアの言動を見て、さっきまで責められていたはずのリアナが、急に元気を取り戻してひとり頷く。
逆にアリシアは顔を真っ赤にしたまま黙ってしまった。
リアナはそっと顔をルティスに寄せて、小声で耳打ちする。
「……ルティスさん。お嬢様が寂しくならないようにしてさしあげましょう。ふたりでたっぷりと……。私の
ルティスは「お願い」と言う名の「
◆◆◆
【第5章 あとがき】
アリシア「しくしくしく……」
リアナ 「お、お嬢様。どうなさいました?」
アリシア「……リアナにルティスさんを取られたぁ。私が先に目をつけてたのに……」
リアナ 「……えっと……わ、私も同じくらいから……ですし?(アセアセ)」
アリシア「むー。あんなにリアナに厳しくされてたのに、なんでなのかしら。ルティスさんったら、よっぽどマ(自主規制)なの……?(首を傾げる)」
リアナ 「そ、それは……私にはわかりかねますが……」
アリシア「それとも、やっぱり男の子って、ギャップが大きければ大きいほど良いの……?」
リアナ 「お嬢様だって、表向きと『
アリシア「ほんっと、謎だわ。……ま、まぁ、でもでもっ。私と婚約してるのは変わらないからね。私が正妻なんだからーっ!」
リアナ 「……実質は私のものですけどね(ボソッ)」
アリシア「ん? なにか言ったかしら?」
リアナ 「いえ。お嬢様の空耳でしょう、きっと(だって私がメインヒロインですしね。えへへ……)」
アリシア「ふーん……。でもやっぱりリアナも好きな子できると変わるのねぇ。ふたりして私に無理矢理あんなこと……(顔真っ赤)」
リアナ 「お、お嬢様だって! 私があれほどお願いしたのに、やめてくれなかったの、まだ覚えてますよっ!(顔真っ赤)」
アリシア「ふふふ……」
リアナ 「んふふ……」
ルティス「あれ、どうしたんですか? ふたりとも……」
リアナ 「い、いえ。なんでもありません。ルティスさんは、さっきお願いしたお掃除を早く終わらせてください」
ルティス「……そ、そうですか」
アリシア「(ピコーン)あの、ルティスさん。ちょっと手伝ってほしいことがあるんですけど、私の部屋に来てもらってもいいかしら?」
ルティス「ええ、いいですけど……(掃除どうしよう……)」
リアナ 「……掃除、終わらなかったら、後でお仕置きですよ……?(お嬢様、絶対なにか企んでるぅ……)」
ルティス「う……。俺はどうすれば良いんですか……?(困惑)」
アリシア&リアナ「私のお願いを聞いてくれますよね?」
ルティス「せめて先にふたりで話し合ってくださいぃ……(泣)」
【作者あとがき】
どうもこんにちは、作者です。
ここまででふたりとくっつくところまで書きましたが、物語はまだまだ続きます。
引き続き掛け合いをお楽しみください(笑)
あと、リアナ推しの方も、アリシア推しの方も、是非応援の意味を込めて「★で称える」のところから+マークをポチポチポチッとしていただけると嬉しいです
m(_ _)m
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