第27話 予選

 予選の時間がくると、会場には同じブロックの参加者が集まっていた。


 ルティスがざっと周りを見渡すと、だいたい30人くらいだろうか。

 そのうち5人ほどがルティスと同じ学年の学生。その残り、大学部の学生と一般参加者が半々といったところか。このうち8名が予選を通過するということになる。


 予選を担当する者――学園の教師だが――が、会場に集まった面々に声を掛けた。


「それではCブロックの予選を始めます。……番号順に魔法陣へと入り、得意な魔法を放ってください」


 そして指し示す魔法陣は、ルティスにも見覚えのないものだった。


「この中では、魔法は魔法陣に吸収されてしまうため使えません。ただ、魔力に反応して、魔法陣が内側から順番に光ります。その光がどこまで広がるかで、魔法の強さがわかるようになっています」


 そう説明しながら、担当者は自分が魔法陣に入り、実際に炎系の魔法を唱えた。

 すると、内側から3つめの環まで、魔法陣が赤く光るのが見えた。


「……こんな感じです。さ、1番の方からどうぞ」


 そう促されて、1番の名札を付けた参加者が魔法陣に向かった。

 ルティスは自分の名札を確認する。


(18番……。真ん中より少し後ろか)


 この番号は公平に抽選で決まっていた。

 他の参加者を確認できる最後のほうが有利といえばそうだが、油断して予選通過できないなどは許されない。

 ルティスはそれなりに力を入れて事に当たろうと考えていた。


 順番に参加者が挑戦するのを眺めていると、全部で10つある環のうち、5つ目の環くらいまで光ることが多いようだ。そのくらいが一般的な魔力なのだろう。


 ――おおおっ!!


 そのとき、12番の参加者が挑戦したとき、会場にどよめきが湧く。

 8つ目まで光らせたその参加者は――。


(エリオットさんか……!)


 同級生であるエリックの兄、エリオットだった。

 かなり優秀な魔法士だと噂には聞いていたし、実際に何度も会ったことがあったが、やはり周りに比べて強い魔力を持っているようだった。

 それまでで最高の数値を出した彼は、軽く手を上げて周りに応えながら魔法陣を出た。

 予選突破は間違いないだろう。


 そのあとも順番に計測が進められ――いよいよルティスの番がきた。


「次、18番の方、どうぞ」


「はい」


 ルティスが答えて、緊張気味に足を踏み出す。

 小さく深呼吸して周りを見渡すと、予選の参加者以外にも、少ないながらも観戦者がいるようだ。

 そして、観客席の最上段には、見慣れたふたりが立っているのも目に入った。


(恥ずかしいことはできないな……)


 すぐに気持ちを入れ替えて、ルティスは魔法陣に足を踏み入れる。


(――よし!)


 集中して魔力を構成する。

 出し惜しみはせず、今の全力を出すことに決めた。


「大空を揺るがす雷の叫び……」


 得意の雷魔法の詠唱を始める。

 久しぶりに使う魔法だったが、やはり自分に合っている属性ということもあって、

 なによりも――以前の自分の魔法より、明らかに洗練された魔法になっている気がした。


「――雷光よ、我に従えッ!」


 そして、魔法を発動させる。

 もちろん、魔法陣の中ということもあって、周囲には全く何も起こらない。

 しかし――。


『――うおおおっ!!!』


 自分では近すぎて魔法陣を見ていなかったが、周囲から聞こえてきたどよめきに、慌てて視線を地面に落とした。


「……全部……!?」


 目に入ったのは、全ての環が光っている魔法陣。

 しかも、吸収しきれなかったのか、溢れた雷光がパチパチと小さな音を立てていた。


「うそ……だろ……?」


 それが自分でも信じられなくて、ルティスは呆然と立ち尽くした。


 ◆


「……だから言ったのに! 予選は簡単に通過できるって。わざわざ周りを警戒させるとか、ルティスさんは馬鹿ですか? 馬鹿ですよね!」


 Cブロックの予選を圧倒的な1位で通過したあと、会場を後にしたルティスを待ち構えていたのは、仁王立ちした鬼教官リアナだった。


「……す、すみませんッ!」


 条件反射で直立して謝るルティスに、リアナは呆れた顔を見せた。


「……はぁ。これまで苦労して隠してきたの、全部パーですよ? 分かってます?」


「はい……。申し訳ありません……」


「まぁ、いずれはバレることではありますけどね。……終わったことは仕方ないです。気持ちを切り替えて、次の1回戦をがんばってきてください。油断など絶対に許しませんよ?」


「はい、わかりました……」


 予選を見ていても、エリオットの他に飛び抜けた参加者はいないように見えた。

 もちろん、手の内を隠しているだけかもしれないが、なんとなくそう感じたのだ。


(俺、案外いけるかも……)


 今まで実感がなかったが、これまでの厳しい練習で、あれほどまでに魔法の力が上がっていたことに手応えを感じていた。

 そして、そのことがルティスの感覚だけの話ではなく、実際に証明されることになる。


 ――トーナメントの準々決勝まで、危なげなく勝ち上がることによって。


 ◆


 学園祭2日目の午後。


 魔力が回復するのに一定時間かかるということもあって、試合は1日に2試合までに制限されていて、それが午前と午後に1試合ずつ行われるというスケジュールだ。

 予選での勝ち抜けが8人だから、その後のトーナメントで3試合勝ち抜けばブロックの代表、ということになる。


 つまり初日の午前に予選が行われたあと、午後に1回戦。次いで2日目の午前に2回戦。

 そして、いよいよこれからCブロックの代表を決める試合が行われようとしていた。


「エリオットさん、よろしくお願いします」


 会場に入る前に、ルティスは対戦相手であるエリオットに挨拶をした。

 ルティスはエリックと親交が深いということもあって、その兄であるエリオットとも何度か顔を合わせたことがあった。


「よろしくな。……今までの試合見たけど、びっくりしたよ。前とは見違えたよ」


「ありがとうございます。自分でも驚いています」


「はは、予選で10本光らせたのは君とあとひとり、テオドールだけだったからな」


 優勝候補と言われていたテオドールが、Aブロックをぶっちぎりで勝ち抜いたのは、まだそれほど時間が経っていない先程のことだ。

 Bブロックは騎士団の若手の魔法士が勝ち抜き、このCブロックはルティスとエリオットのどちらか。

 残るDブロックはこのあとクララの試合が控えている。


 もしルティスとクララが共に勝ち上がった場合、高等部生同士の対戦となるのだが、そもそも高等部の学生がブロックを勝ち抜くこと自体が稀なことだ。

 それは魔法士同士の試合は、魔力以上に経験が物を言うことも理由に挙げられる。


「とはいえ、試合は魔力だけじゃないですから」


「そうだな」


 ルティスはそう言ったが、むしろその経験をひたすら積まされたことが自信になっていた。


「それでは、試合を始めます。試合場へ……」


 案内役に声をかけられて、ふたりは試合場へと足を踏み入れた。

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