第25話 必殺技
そして、リアナの話していた『クレセント・グローリー賞』の特典について、正式に学園から発表があったのは、それから2週間後のことだった。
「……おいおいおい。俺たち超ラッキーじゃね?」
教室で講師からの通達を聞いたあとの休憩時間。
その話題でもちきりとなった教室で、エリックがルティスに話しかけてきた。
「って言ってもさ、優勝できるのはひとりだけだし、優勝したってそれで決まりって訳じゃないんだろ? 話からすると……」
ルティスは事前に知っていたが、初めて聞いたという態度を貫いた。
こういうところは、役者をしていた経験が活きることを実感する。
「夢がねぇなぁ。ま、ルティスじゃそもそも優勝は無理だろうから、そりゃそっか」
「ははっ、そうだな。そういうエリックだって大して変わらねーじゃんか」
「ああ、残念ながらな」
ふたりとも元々それほど成績が優秀というわけではないから、お互いをからかって笑い合う。
「学生の中で優勝候補になりそうなのは、テオドールさんとクラ……」
エリックが名前を挙げようとすると、そこにクララが顔を出した。
「ん? なになに? 誰が優勝しそうか、賭けでもするの?」
「あ、いやぁ……。誰が勝つか予想してただけだって」
頭を掻きながら答えたエリックに、クララが笑う。
「へぇ……。ま、良いけど。……まぁ、有力なのは去年準優勝だった大学部のテオドールさんだよね。顔も良いし、優勝したらもしかするとって思うもん」
「だよなぁ。悔しいけど。……ルティスはどう思う?」
苦笑いしながら聞いてきたエリックに、ルティスは考え込むふりをしながら返した。
「……テオドールさんはさ、落ち着いていてなんでもできるけど、一発勝負ならわからないよね」
「まぁ、そうだな。クララみたいにいきなりドカン! ってタイプじゃないから」
ルティスの考えに同意するエリックに、クララはしかめっ面を見せた。
「なんか、わたしが怒りっぽいみたいな言い方だよね、それ」
「いやっ! そんなコトないって。魔法の話だよ、魔法の……」
慌てて弁明するエリックに続けて、ルティスが言う。
「エリックの兄さんのエリオットさんも可能性あるだろうし、あとはクララも十分チャンスあると思うよ。やっぱ炎って強いもん」
「そうかな、ありがと。……でもわたしが優勝しても、あんまりメリット無いんだよねー」
照れながらそう答えたクララに、ルティスも頷く。
「それは確かに」
「だから、わたしは出ても出なくても良いかなって。……ルティスくんって、アリシア様のところで働いてるよね? 歳上ならともかく、もし同級生がアリシア様の婚約者になったりしたら、嫌じゃない? そのまま働くってこともあり得るんでしょ?」
唐突にそう聞いてきたクララに、ルティスは面食らった。
自分が優勝することだけを考えていたから、そういう可能性というのは頭から抜け落ちていたのだ。
「あ……。確かにそうだな……。お嬢様からは卒業後も働いて欲しいって、前に言われたことはあったけど……。そういうのは考えたこと無かったよ……」
「へぇ……。精霊祭のときもそうだし、ルティスくんはアリシア様と仲良いよね。羨ましいな……」
「まぁ、俺からすると雲の上だけどな、お嬢様は……」
ルティスはそう答えたが、クララはしばらく黙ってなにか考え込んで――やがてぽつりと呟いた。
「……わたしも参加しようかな。お祭りみたいなものだから……」
◆
「今回の大会は参加者が多いと思いますから、たぶん予選があります。予選は魔法力を見るだけですから、ルティスさんなら簡単に通ると思います」
その日帰ったあと、リアナに稽古をつけてもらいながら、トーナメント戦について詳しくレクチャーしてもらっていた。
「簡単……ですか?」
「ええ。ルティスさんは元々、魔力の大きさは相当優秀でしたからね。以前言ったでしょう? 私と大差ないって。それは私が普通なんじゃなくて、ルティスさんが優秀なんです。……ただ、制御が
「…………」
身も蓋もない言い方に、ルティスは何も言い返せなかった。
「でも、今はそんなことないはずです。細かい制御の練習をかなり積んでもらったので、いま全力で魔法を撃ったら、以前とは比べ物にならない威力が出ると思います」
「小技ばっかりの練習はそのために……?」
これまでの彼女との練習を振り返りながら聞くと、リアナはこくりと頷いた。
「ええ。全てはこのために練習してもらいました。……だから自信持ってください。今のルティスさんはかなり強いです。……まぁ、お嬢様や私と比べたらまだまだですけどね」
「そりゃそうでしょうけど……」
学園ではあまり対人での練習は行われないため、現在の自分の強さは正直わからない。
しかし、これほど練習を積んでいも、これまでの経験から、到底リアナに遠く及ばないことだけは明らかだった。
それ故に、なおさら自分のレベルが測れないのだ。練習相手が桁違いすぎて。
「私の知る限り、騎士団の魔法士もみんな大したことないですから、その点でも大丈夫でしょう。……私の知らない、強い相手が他に出てこないことを祈りましょう」
「ですね……」
騎士団員なら、リアナがある程度把握しているだろう。
そして学生であれば、参加できるのは高等部の3年と、大学部の生徒だけだ。
その中には、自分が知る限り、飛び抜けた生徒はいないはずだった。
アリシアやリアナが出ていれば違っただろうが、年齢的にまだ参加できないのだから。
「これから大会までは、具体的な戦術の練習をします。練習していないことは、本番では絶対にできませんからね。……と、いうわけで、これから私の必殺技を教えますから、必ず身につけてください」
「ひ、必殺技……ですか?」
「ええ、みんなびっくりすると思います。……でも、本当にそれしか手が無いときしか使ってはいけませんよ?」
にやりとした笑みを浮かべながら、リアナはルティスを見つめた。
「リアナさん、その顔、怖いです……」
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