長女・真白の話

 私には憧れの人がいる。


 彼は私よりも一つ年上。見た目もかっこいいし、黒のヘッドホンがよく似合うの。とっても頭が良くて、頼りになる存在。まさに私の王子様……なーんてね。


 五人きょうだいの一番上である私にとって、安心して頼れる存在というのは貴重だった。幼い頃から両親も仕事で忙しく、弟妹たちをまとめなければならなかった私が頼れるのは彼だけだった。



 とある冬の日の仕事帰り、私は先輩からいただいたお菓子をおすそ分けしようと思い立ち、いとこ達が住む一軒家に向かっていた。ようやく家が見えてきたと思うと、その前になんと彼が立っているではないか。私はすぐに駆け寄り、その名を呼んだ。


 「ハルくん!」


 ハルくん、もとい木道きどう悠之助はるのすけは、私を見つけると軽く手を上げてみせた。


 「おう、真白ましろか。俺としたことが鍵を忘れちまってな。妹どもが開けてくれねーんだよ」


 かわいそうなハルくん。こんなに素敵な人なのに、彼の妹たちは彼に冷たい。

 私は持ってきた合鍵を取り出す。取り出す……あれ?


 「ごめんなさい、私も鍵忘れちゃったみたい……」


 「勘弁してくれよ……」


 寒空の下で立ち尽くす二人を見て、妹の鈴音すずねちゃんが鍵を開けてくれたのは、その二十分後のことだった。

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