三女・鈴音の話

 暖かい春の日差しが窓からさし込む。そんな明るい光景とは裏腹に、僕の心は重く沈んでいた。先ほど買い物に出かけた際に、前を歩いていたテントウムシを踏みつぶしてしまったのだ。どれだけ悔やんでも、失った命は戻りはしない。深いため息をつく。


 「お姉様、またご自分を責めていらっしゃるのですか?」


 双子の妹が、呆れたとばかりに首をかしげる。


 「こまちゃん、僕はもうダメッス……」


 「お姉様は人がよすぎるのですよ」


 「僕なんか、『いい人』じゃないと生きる価値がないのに……」


 「そうやって悩むのも、お姉様らしくていいのではないですか?」


 「僕……らしい?」


 自分らしさ、なんて久しぶりに聞いた。「いい人」でいられないのも、それでウジウジ悩むのも、僕らしさ……なのかもしれない。


 開いていた窓から、一匹の蝶が舞い込んできた。その美しさに、思わず目で追ってしまう。そうだ、僕は僕らしく、でいいんだ。


 僕はこれからも、「いい人」を目指し続ける。そう決めたんだ。

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