長女・司の話

 待ちに待った合格発表の日。俺様としたことが妹に説教をしていて家を出るのが遅れてしまった。自転車に飛び乗り、目的地の大学を目指す。

 俺様は勉強ではいつもトップ、誰にも勝負事で負けたことはなかった。

 ……ただ一人を除いては。

 大丈夫、試験の手応えも良かったし、絶対に受かっている。そう自分に言い聞かせているうちに、大学の門が見えてきた。掲示板前の人だかりの中に、見慣れた後ろ姿を見つける。


 「兄貴!」


 兄は俺様が声をかけるとすぐに振り返った。その表情を見た瞬間、全てを悟った。

 落ちた? この俺様が?

 ……まさか。


 恐る恐る掲示板に目をやる。俺様の番号は……



 ない。



 何度目をこすっても見当たらない。目の前が暗くなってゆく。


 「その、なんだ。お前はこんなもんじゃねーだろ?」


 兄の言葉も耳に入らない。制服のスカートの裾をぎゅっと握りしめる。冗談じゃない。勉強を失ってしまったら、俺様には何が残る?


 いや、何も残りはしない。

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