木道家のあれこれ

@komame-kurata

長男・悠之助の話

 能力を持たない者に生きる価値はない。弱い者は強い者に搾取されながら生きるしかない。ずっとそう思って生きてきた。

 そう、あの日までは。


 長く降り続いた雨がようやく上がった初夏の日のことだった。俺はいつものように大学に行く準備を済ませ、玄関を出る。すぐに足を止めた。庭先にしゃがみこんでいた人影に道を阻まれたためだ。妹の鈴音だった。


 「あ、兄上……これは、その、違うんスよ~!」


 妹の視線の先には、長い紐のような物体があった。よく見ると、それは干からびかけたミミズであることが分かる。妹は手に持ったコップで水をかけてやっていたらしい。つくづく、こいつと俺が血の繋がった兄妹だとは信じがたいことだ。


 「そんなの助けても何の得にもならねーぞ」


 「……兄上には一生分からないと思うッス」


 妹はそっぽを向く。俺は妹に背を向け歩き出す。まったく、本当にバカな妹だ。


 それでも、俺の中では何かが変わり始めていた。

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