第6話 勘違い
夜はコテージの前で花火をした。
「あれ? 真帆なんでそんな離れたとこにいるの?」
二葉が両手にスパーク花火を持って、わたしの隣にやって来た。
さりげなく距離をとる。
「ちょっと」
「花火しないの?」
「うん。見てるから気にしないで」
「楽しいのにぃ」
二葉は持っていた花火が終わってしまうまで近くにいたけれど、新しい花火を取りに行くタイミングでみんなのところに戻って行った。
大輝が蛇球に火をつけているのが見えて、こっちまで来ないのはわかっているのに、一歩下がった。
下がったところで、後ろにいた誰かにぶつかった。
振り向くと航が立っていた。
「真帆、魚は大丈夫でも花火は怖いんだ」
「うん。航はやんないの?」
「真帆と一緒に見てるよ」
ふたりで何か話すわけでもなく、みんなが花火をしているのをしばらく見ていた。
「帰ったら受験勉強の毎日がまた始まる……」
ぽつんと航がつぶやいた。
「終わったら楽しいことあるよ」
「楽しいこと……」
「うん」
「この前の模試で第一希望がC判定だったんだ。それで凹んでたら兄貴が気晴らしに、って今回誘ってくれた。急にキャンセルがでたからだったけどさ。でも、来て良かった。真帆と会えたし」
かわいいこと言うなぁ、って思った。
「まだあと本番まで何カ月もあるんだから、これからだよ!」
「あのさ……」
「何?」
「もし、第一希望受かったらお願い聞いてよ。聞いてくれたらがんばれると思うんだ」
「どんなお願い?」
「真帆とキスしたい」
「それはちょっと……」
「やっぱダメか……」
航が下を向いて黙りこんでしまった。
あまりにもしょんぼりするから、おでこに軽くキスするくらならいいかと思ってしまった。
「……わかった。第一希望受かったらね」
「ホントに? 絶対絶対、約束破んなよ!」
「うん。わかった」
「指切り!」
「指切りね」
その時のわたしは、自分が大きな勘違いをしていることに、全然気が付いていなかった。
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