第5話 雄大の弟

予約していたコテージに着いて早々、管理人さんに近くの漁港で小鰯が大漁だという話を聞いて、道具を借りてみんなで釣りに行った。


「ごめん、魚さわれない」


二葉だけがそう言って、遠巻きに見ていた。


少しの時間で本当にたくさんの小鰯がとれて、用意していたバーベキューと一緒に天ぷらにして食べようという話になったところで、今度は美波が


「魚捌いたことないんだけど……」


と言った。


「小鰯だから手開きできるよ」


とわたしが言うと


「えっ? 手とか無理!」


と言われてしまった。


それで、わたしと航がふたりでひたすら小鰯を手開きし、残りのメンバーがバーベキューの準備をすることになった。




「真帆は魚の内臓とか大丈夫なんだ?」

「まぁ、ちょっと手が生臭くなっちゃうのは嫌だけど、洗えばいいことだしね。航はなんで出来るの?」

「兄貴がまだ和歌山にいる時、よく釣りに行ってたんだけど、うちって、釣った者が捌くって言うルールがあって、できるようになった」

「じゃあ、普通にアジとか鯖とかも捌けちゃうの?」

「うん」

「かっこいい」

「真帆もかっこいいよ。普段食べてるくせに魚さわれないとかありえない」

「苦手な人もいるから」

「だったら、真帆が苦手なもんって何?」

「苦手なもの? なんだろう……可愛らしさ? 違う。これは足らないものか」

「なんだそれ。真帆にはそんなものなくても大丈夫だよ」

「そう? ありがとう」


お互いの好きな物とか、たわいもない話をしながら、釣った分を全部手開きして、後片付けをしているところで雄大がやって来た。


「もしかしてもう終わった?」

「終わったよ」

「兄貴、遅すぎ。真帆とふたりでやったし」

「ごめん。なんかふたりとも、仲良くなってない?」

「仲良くなったよねー」

「もう兄貴の入る隙間ないから」

「まじかー」




弟がいたらきっとこんな感じなんだろうな、って思ったのを覚えている。

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